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がん患者のための臨床試験の話

2017/3/24

がん患者のための臨床試験の話 Vol.1

臨床試験と治験ってどんなもの?

福島安紀=医療ライター

 がんの治療や検査に関しては、全国で様々な臨床試験が行われている。参加したことがない人の中には、「臨床試験って興味はあるけど、なんだか怖い」「人体実験のようなものなのではないか」と思っている人も少なくないかもしれない。臨床試験は何のために実施されるのか、参加することで何が得られるのだろうか。がん患者が知っておきたい臨床試験の基礎知識をシリーズでお伝えする。1回目は、国立がん研究センター中央病院臨床研究支援部門研究実施管理部臨床研究コーディネーター室長の中濱洋子氏に、臨床試験とは何なのか、そして臨床試験に参加する患者のメリット・デメリットを聞いた。


国立がん研究センター中央病院臨床研究支援部門研究実施管理部臨床研究コーディネーター室長の中濱洋子氏

臨床試験とは?治験と臨床試験はどう違う?
 臨床試験とは、人を対象に、よりよい治療法、検査法を開発するために、倫理的なルールに則って実際に新しい治療や診断を行い、その有効性や安全性を合法的、科学的に評価する試験のことだ。

 「大きな枠組みでは、病気の原因や予防や診断や治療方法の開発を目的として、臨床現場で人を対象に行われる研究すべてを臨床研究と呼びます。その中で臨床試験は、候補となる薬を投与してみるとか医療機器を使ってみるなど、何らかの検査や治療やケアを受けていただき、その効果や影響を評価する試験です。最終的には、現在の標準治療と比べて安全か有効かを科学的に評価します。新たに開発されるものは、どのような副作用が生じるのか、本当に効果があるのかないのかわからないため、臨床試験が不可欠です。現在最も推奨される治療法として実施されている標準治療も、過去に臨床試験を受けた国内外の多くの患者さんたちのおかげで進歩してきたものです」と中濱氏は説明する。

 標準治療が、新たな治療法の開発段階である治験や臨床試験よりも劣ると誤解されていることがある。標準治療とは、これまでに行われてきた治験や臨床試験の結果に基づいて、現時点で最も推奨される治療法だ。治験や臨床試験は、まだ安全性や有効性が確認できていない段階であり、標準治療として認められることを目指して実施されている。

 がんの治療を行う医師から「治験に参加しませんか」と言われることがあるが、治験と臨床試験はどう違うのだろうか。

 「治験も臨床試験の一種です。新しい治療法の候補となる薬や機器、医療技術の評価を行い、厚生労働省(厚労省)へ申請し承認を得る目的で行われる臨床試験を治験と呼びます。既に特定の疾患を対象に承認された薬や機器、医療技術を、別の病気の治療でも使えるようにするために治験を行う場合もあります」と中濱氏。

 治験は、被験者の安全と人権を守り、データの信頼性を高めるため、薬事法およびGCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)に則って実施される。GCPでは、治験の内容を国に届けることや、治験の参加者には必ず同意を取ること、重大な副作用は国に報告することなどが義務付けられている。

 治験は、製薬企業が医師や医療機関に依頼して実施するものがほとんどだが、小児がんや比較的患者数の少ないがんなどでは、医師が主体となる「医師主導治験」も行われている。この「医師主導治験」で有効性と安全性が証明されたときは、製薬会社から承認申請を行うことになる。

 なお、臨床試験には、治験以外に、「研究者(医師)主導臨床試験」がある。研究者(医師)主導臨床試験は、医師主導の治験と同様に研究者(医師)が主体となって行われるもので、主に既に承認された薬、治療法や診断法を使って、新たに最良の治療法や診断法を確立することを目指して行われる試験だ。がん患者を対象に行われる研究者主導臨床試験は、複数の抗がん剤を組み合わせたり、手術と抗がん剤、手術と抗がん剤・放射線治療を組み合わせたりして、より生存期間の長い治療法、あるいはより副作用の少ない治療法を確立するのが大きな役割だ。研究者主導臨床試験は、厚労省と文部科学省が定めた「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づいて行われている。この倫理指針は、研究の不正を防ぐべく「臨床研究法案」として、法制化へ向け国会で審議が行われているところだ。

臨床試験は3段階、新薬の承認までは長い道のり
 一般的に、臨床試験では、段階を踏んで安全性と有効性を確認していく。第1段階は第1相試験(フェーズ〔Phase〕1)と呼ばれ、10〜20人程度の少人数の患者を対象に、新たな薬や機器、医療技術の候補の、人への安全性や体内動態(薬物の吸収、分布、代謝、排泄)などを調べ、最適な用法・用量を確認、探索する。次に、やや多い30〜80人を対象にした第2相試験(フェーズ2)で、前段階で確認した用法・用量で特定のがんの種類の有効性と安全性を調べていく。最終段階の第3相試験(フェーズ3)では、100〜1000人の患者を対象に、標準治療やプラセボ(偽薬)との比較を行い、そこで有効性と安全性が検証されれば厚労省へ承認申請を行うというのが一般的な流れだ。なお、対象となる被験者数は、疾患や国際共同治験か国内の治験かで変わってくる。

 「一般的に治験の第1相試験は、健康な成人男性を対象に行われることが多いですが、がんの治験のほとんどは第1相の段階から患者を対象に実施されます。抗がん剤は他の薬に比べて毒性が強く、がん細胞だけではなく健康な細胞にも影響する恐れがあるためです」と中濱氏は話す。

 第1相の段階では、投与される物質が医薬品になるのか、毒性が強いために消える運命にあるのかは全く分からない。米国のデータだが、第1相試験が実施されたがんの医薬品候補のうち、米国食品医薬品局(FDA)への承認申請にこぎつける薬はわずか5%しかないという。何とか第3相試験までたどり着いても、薬の有効性や安全性が証明されなければ開発が中止される場合も少なくない。

 一方、第3相試験によって、生存期間の延長が認められたり、既存薬より副作用が少ないなどの効果や安全性が証明されたりすれば、厚労省へ承認申請が行われる。1つの新薬が開発されるまでには、一般的には5〜10年以上かかる。ただし、患者数が少なく、命に関わる希少がんを対象にした薬や医療技術を対象にした治験の場合には、第2相試験の後に承認申請が行われ、承認されるケースがある。例えば、現在は肺がんや腎がんなどにも承認されている免疫チェックポイント阻害薬「ニボルマブ」は、2013年末、悪性黒色腫の患者を対象に日本で行われた第2相臨床試験を元に厚労省に承認申請が出され、2014年7月に異例の早さで世界初承認された。ちなみに、ニボルマブの肺がんや腎がんに対する承認に当たっては第3相試験が実施されている。

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