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こんなとき、このエキスパートのもとへ

2013/11/5

こんなとき、このエキスパートのもとへ 第14回

遺伝カウンセラー●遺伝によるがんのスペシャリスト

福原麻希=医療ジャーナリスト

四国がんセンター家族性腫瘍相談室の金子景香氏 明治大学農学部卒。お茶の水女子大学大学院(人間文化研究科遺伝カウンセリングコース)を修了し、2008年に認定遺伝カウンセラーの資格を取得。同年より臨床検査会社のファルコバイオシステムズにおいて家族性腫瘍の遺伝子検査部門の学術担当。20012年4月より現職。

「遺伝カウンセリング」ではどんな話を聞くのか?

 遺伝カウンセラーが患者をどのようにサポートしているか、金子氏にエピソードを紹介してもらった。
 
 60代の女性は、1年半前に乳がんと診断され、乳房を全摘後、抗がん剤治療を受けた。女性は40代のときにも卵巣がんと診断され、左右の卵巣を切除後、抗がん剤治療を受けたことがあった。金子さんは入院中の女性を訪ねて、こう言った。

 「こんにちは。お加減はいかがですか。遺伝カウンセラーの金子です。乳がんは5〜10%の方に遺伝的にがんになりやすい体質の方がいます。ご家族が遺伝的にがんになるリスクが高いことが分かった場合、これからどんなことに気を付けていけばいいか、検診や治療についてのお話ができたらと思っています。ご家族の病歴について、お聞かせ頂けますか」

 金子氏が女性から聞き取りをしたところ、実は30代の長女もその2年前に乳がんと診断され、乳房温存療法を受けていた。さらに、女性の妹の長女(姪)も40代で乳がんの治療を受けていた。金子さんは女性が「遺伝性乳がん卵巣がん(症候群)」である可能性を強く疑った。

 遺伝性乳がん卵巣がんとは、先天的に「BRCA1」「BRCA2」という遺伝子(誰でも両方の遺伝子を持っている)に変化が起こっていることをいう。その場合、(1)閉経前(50歳前後まで)に乳がんを発症することが多い、(2)卵巣がんを発症することが多い、(3)両方の乳房にがんを発症することが多い、(4)ふつうより、男性の乳がんを発症する確率が高い(研究報告によるが5〜7%程度)、という特徴がある。遺伝性乳がん卵巣がんは、乳がん全体の4〜5%程度に見られる。

 金子氏の報告を受けた家族性腫瘍相談室のメンバーは、女性の家系図(図2参照)を見ながら、やはり遺伝性乳がん卵巣がんのリスクが高いと判定し、「血縁者に伝えたほうがいいのではないか」という見解で一致した。

図2 遺伝カウンセリングを受けた60代女性の例(家系図)

 乳がんを発症した長女には、今後、卵巣がんのリスクが高いと思われることを伝える。また、未発症の次女がこうした情報を聞いていれば、より精度の高い乳がんや卵巣がんの検診を受けることができる。たとえ発症しても、がんが小さいうちに発見できれば、治癒率が高く、乳房を温存でき、治療期間も短くすむ。

 遺伝性のリスクの高さは、第一度近親者(親、子ども、兄弟姉妹)と第二度近親者(祖父母、おじおば、甥姪、孫)の病歴を聞き、発症したがんの組み合わせや診断時の年齢などを総合的に見て評価する。遺伝は孫の代にも続いていく。

 遺伝子検査や遺伝カウンセリングは、残念ながら現時点では自由診療になる。医療保険でカバーできる範囲の普通の治療と自由診療の項目は同時には受療することができない。そこで、主治医は女性が退院するときに、「次回、一度、詳しく遺伝性乳がん・卵巣がんの話を聞いてみませんか」と声をかけた。

 四国がんセンターの場合、▽遺伝性乳がん・卵巣がん▽リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス性大腸がん)▽家族性大腸ポリポーシス▽多発性内分泌腫瘍症I型、II型に関する遺伝子検査が受けられる。

 女性はさっそく遺伝カウンセリングの予約をして、2週後に来院した。乳腺科医長で乳腺専門医であり、臨床遺伝専門医の資格も持つ大住省三氏と金子氏の遺伝カウンセリングを受けた。話の内容は、おもに▽遺伝性のがんの特徴▽遺伝子検査の概要▽遺伝子検査を受けて変化が見つかった場合、見つからなかった場合、また遺伝子検査を受けなかった場合のそれぞれの医学的な対応の選択肢▽家族・親戚にどのような影響をもたらすか、などだった。時間は約1時間半だった。

 女性は、この日は検査を受けるかどうかの決定は保留にした。遺伝カウンセラーは遺伝子検査の説明はするが、受けることを強く勧めることはしない。あくまでも決めるのは本人だからだ。

 1カ月後、女性は「次女に伝えるために、遺伝子検査を受ける」と決心。乳がんを発症した長女と姪も「詳しい説明を聞きたい」となり、3人で遺伝カウンセリングを受けた。女性は遺伝子検査も受けた。

 姪には20代の娘がいたため、早い時期から乳がん検診を受けさせようと病院に連れて行ったところ、「まだ、若いから検査は不要」と言われてしまったという。だが、遺伝性乳がん・卵巣がんの場合、「25歳以降は半年に1回の乳房の視触診と、1年に1回のマンモグラフィなどの検査」が必要になる。「遺伝子検査を受けなくても、乳がん検診を受けられる」と説明され、姪は「娘には、まず検診だけを受けさせます。今日は詳しい話をお聞きでき安心しました」と帰った。

 さらに、1カ月後、女性は大住医師から遺伝子検査の結果について「BRCA1遺伝子の変化が認められました」と言われた。女性は「やはり、そうでしたか」とうなずきながら聞いていた。

 その1カ月後、「遺伝性乳がんのリスクが高いことを、次女に知ってほしい。メディカルスタッフから話してほしい」と、女性が次女を連れて遺伝カウンセリングに来院した。

 次女は「仕事が忙しいし、自分は絶対にがんにはならないと思っている。でも、お母さんが何度も何度も言うので、今日は遺伝子検査を受けに来ました」と、ちょっと面倒くさそうに話していたという。

 ところが、遺伝子検査の結果、次女も陽性とわかった。次女は緊張し、こわばった表情をしたが、金子氏から説明を受け、少し安心し、すぐに乳がん検診と婦人科の検査日を予約したという。

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