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こんなとき、このエキスパートのもとへ

2013/1/8

こんなとき、このエキスパートのもとへ 第12回

臨床検査技師●細胞や血液から体内の状態を読み解く

福原麻希=医療ジャーナリスト

【顕微鏡を見ている細胞検査士】
細胞検査士は顕微鏡を通して、スライドガラス上の細胞が悪性かどうか見極める。

 しかし、今回の山田さんの細胞を悪性と判定するには、どうしても決め手に欠けた。このように悪性の特徴があまりない、正常に見えるタイプのがん細胞もある。一方、いかにも悪性のようで、良性の細胞もある。「良性か悪性かの判定を間違うということは、がんを見逃すことになります。細胞の姿や形にだまされないよう、慎重に対応します」と柳田氏は言う。

 また、患者の身体に炎症が起こっていたり、抗がん剤や放射線の治療を受けたりしていると、細胞にも影響がおよび、その形態が変化することがある。細胞検査士は「どうして、こういう形や色の染まり方をするのだろう」と関心を持ち、1つ1つの疑問点や矛盾点を突き詰めていく。

 細胞診判定の流れは、まず細胞検査士が顕微鏡で細胞診のスライドガラスを事細かに観察し、報告書に良性か悪性かの判定や所見(その記録や意見など)を書く。次に細胞診専門医(日本臨床細胞学会が認定する資格。病理医も含む)も顕微鏡をのぞいて細胞をチェックし、診断する。つまり、ダブルチェックがなされている。細胞検査士が判定に迷う時は病理部全体で細胞を観察し、ディスカッションすることもあるという。その報告書が医師の手元に届く、というしくみだ。

 今回の山田さんの細胞診を担当した柳田氏は「クラスIIIb(がんとは言い切れないが、悪性を疑う)」ではないかと判定した。さらに、「難解な症例」と判断し、報告書を書く前に細胞診専門医とディスカッションした。

 柳田氏は言う。「100人の細胞を顕微鏡で見ながら判定する時、99人の診断まで正しくて、1人間違った場合でも、『すみません』では済まされません。患者さんの人生がかかっているからです」

 最終的に細胞診専門医が、やはり「クラスIIIb(がんとは言い切れないが、悪性を疑う)」と診断したので、柳田氏は報告書にその理由を書き込んだ。報告書には、医師が治療方針を決める時に迷うことのないよう、細胞から読み取れることをわかりやすく書く。細胞診専門医のサインを得て、報告書は医師の手元に送られた。

 今回は考えに考えて、判定するまでに約1時間かかった。片山氏も柳田氏も「制限時間内、ぎりぎりまで考える」という。

 外来では、横山医師が細胞診の結果を受け取ると、問診・触診・超音波検査などの結果とともに総合的に評価し、「局所再発の疑いが濃厚」と診断した。患者の山田さんには、他臓器への転移を調べるために他院でPET検査を受けるよう薦めるとともに、「今回の結果で疑わしい部分は組織を詳しく調べます。小さい病変なので局所麻酔下で切除しましょう。これは治療も兼ねています」と提案した。

 外来終了後、山田さんは「もっと悪い結果を想像していたので、よかったです。すぐ結果を教えてもらい安心しました」と胸をなでおろした。

細胞診で良性悪性の誤判定がない理由

 日本の細胞検査士の正確さは、世界でもトップグループに入る。日本医科大学多摩永山病院の病理部でも、乳腺外科の同日細胞診の結果は5874例(1986年〜2009年)中、正しく診断した率は99.5%(感度96.7%、特異度99.9%*)だった。そのうち、乳がんと診断し、温存療法を含めて乳房を切除した734例は全例悪性で、誤判定はなかった。誤判定がないのは、同病院では細胞診の判定時、マンモグラフィーや超音波検査などの画像診断と整合性を確認する習慣があるからだ。

(*)感度…検査の鋭敏性。陽性と判定されるべきものを正しく陽性と判定する確率。特異度…陰性のものを正しく陰性と判定する確率。

 毎日、顕微鏡を見ながら悪性細胞を探していく細胞検査士は非常にデリケートな仕事だ。片山氏は、「がん細胞の判定に間違いを起こさないよう徹夜はしない」と決めている。細胞検査士の中には顕微鏡で細胞を見ている時は電話に対応しなかったり、耳にイヤホンを入れて集中したりしている人もいるそうだ。このような慎重に慎重を重ねて、がん細胞は見分けられている。

 細胞診のほかに「組織診」という検査もある。組織診では、切除組織の断面から腫瘍が良性か悪性か、その広がりはどうかなどを確認できる。例えば、良性の場合は腫瘍の境界線がはっきり明確だが、悪性の場合はしみ込むように広がっていく。

 同病院では、手術中に医師が切除した組織の断端からがんが取り切れているかどうかを顕微鏡で確認する「術中組織迅速診断(組織診)」も行っている。この場合は、臨床検査技師(細胞検査士も含む)が標本を作製し、病理医が診断を行う。5〜20分で判定を出す。

 一日の外来人数は約1000人、細胞検査の検体(細胞を固定したプレパラート)は1日30〜50人分という。それを常勤4人、非常勤2人の細胞検査士が対応する。

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