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こんなとき、このエキスパートのもとへ

2010/9/7

こんなとき、このエキスパートのもとへ 第4回

管理栄養士●「口から食べることは、生きる原動力。できる限り手助けしたい」

 がんと診断されたときから、患者や家族は様々な悩みを抱えます。治療選びやセカンドオピニオンの取り方、今後どんな生活になるのか、食事はどうしたらいいのか、会社はどうなるのか、経済的な見通しは――。この連載(不定期掲載)では、そんなときに、相談に乗ってくれるエキスパートたちを紹介します。第4回は「管理栄養士」を取り上げ、「いつ、どんなことが相談できるの?」という疑問にお答えします。



管理栄養士Profile

●管理栄養士とは?
①病気やけがの療養時に、病院の入院病棟や外来で、回復に必要な栄養や食事について指導をする人。
②継続的に食事を供給する施設において、給食の献立立案、食事の提供、栄養改善について指導などをする人。利用者の身体の状況、栄養状態に応じた特別な配慮をする。
③地域社会では、がんや生活習慣病対策のための献立作成、調理方法、食べ方などの知識を伝える普及活動や住民からの栄養相談を受ける人。

●どこにいるの? 何人いるの?
 管理栄養士は、▽病院・診療所▽学校(小中学校、夜間定時制高校)▽福祉施設(乳幼児・高齢者・障害者を対象)▽学生・勤労福利厚生施設(事業所・寮などの産業給食施設や企業の健康管理部門、学生食堂・学生寮・スポーツ施設・フィットネスクラブなど)▽防衛施設(自衛隊、防衛大学校、防衛医科大学校などで平常時、訓練時、災害出動時など)▽矯正施設(刑務所、拘置所、少年院)▽研究・教育機関▽行政(都道府県・保健所・市町村保健センター)▽地域活動――など、多岐にわたる場所で働く。現在、国家資格取得者は少なくても約5万人(日本栄養士会調べ)。

●管理栄養士を探すには?
社団法人日本栄養士会 http://www.dietitian.or.jp/index.html
病院・診療所の場合は、栄養管理室、栄養指導室、病棟のベッドサイド、調理場などにいる。

●相談料は?
病院の栄養相談は基本的に有料。
例えば、入院中や外来で個別に栄養指導を受けた場合は、診療報酬で130点(1300円)、集団で栄養指導を受けた場合は80点(800円)が加算される(加入している医療保険の種類などによって窓口での自己負担額は異なる)。
そのほかは、職域によって(行政や地域など)相談料の有無は異なる。

●予約
栄養相談などの面談の場合、必要なことが多い。



 がんの闘病中は、病状の進行や抗がん剤・放射線治療の副作用で「食べたくない」「食べられない」状況がよく起こる。だが、「食べること」は治療に耐える身体を作り、体力低下による感染症や褥瘡(床ずれなど)を予防する。つまり、順調な回復と退院につながる。さらに、口の中で食べ物を味わうことは、生きる希望や喜びをもたらす。

 そこで近年、病院では「どうすれば、患者さんが食べられるようになるか」をテーマに、日夜、管理栄養士が奮闘している。“集団給食から個別対応食”の時代になったいま、管理栄養士がどのように私たちをサポートしてくれているか、詳しく紹介する。

71種類の食事+個別対応、「食べられるように」の思いを込めて

写真1 取材日の病院食


写真2 管理栄養士によるミートラウンドの様子
 中部労災病院(名古屋市、稼働ベッド数556床)では、朝昼夕の三食とも、▽一般食(普通食、および、病状悪化・治療の副作用で食欲が低下した患者がメニューを選べる特別食を含む)28種類、▽肥満、貧血、透析、アレルギーなどの対応食、およびエネルギーやたんぱく質をコントロールした治療食39種類、▽流動食、注腸食など、全部で71種類の食事を用意している(写真1)。

 さらに、患者の状態や好みに応じた個別対応もする。毎週2回、昼食時間帯に病院の管理栄養士と調理場で働く調理師・栄養士が入院中の患者のベッドサイドを手分けして回り、食事についての聞き取りをしている。これは「ミートラウンド」と呼ばれる取り組みで、今年から始まった(写真2)。

 同院の栄養管理室室長・徳永佐枝子さん(51歳)も、毎週、患者のベッドサイドに足を運ぶ。

 食事の話になると、患者はあれこれ、自分の希望を話し始める。入院中の数少ない楽しみでもあるからだ。徳永さんは、言葉に耳を傾ける。その後、献立や個別対応に反映できるよう、会議で知恵を絞り合う。例えば、「酢の物なら食べられそう」と言われれば、毎日、1品加える。「食べ物のにおいで嘔吐する」という場合は、食器のふたを開けて、湯気を冷ましてからお膳に載せる。

 「患者さんに『何でも用意できる』と言ってしまうと、調理場が混乱します。でも、食べることは生きる力につながるので、できる限り、手は尽くしたい」と徳永さんは言う。


徳永佐枝子さん
1958年生まれ。79年佐賀短期大学食物栄養科卒。幼稚園の管理栄養業務を経験後、病院栄養士へ。2005年から現職。09年から名古屋女子大学大学院食物栄養学専攻(博士前期課程)在学中。愛知県栄養士会病院協議会会長。10年9月、栄養士活動に顕著な功績があったことから、愛知県知事表彰を受ける予定。
 ミートラウンドでは、特に調理師が訪ねると、「いつも、あなたが作ってくれているのね!」と患者が笑顔になるという。調理師も、調理場から出て患者と直接話す時間を持つようになってから、かなり煩雑な要望にも理解を示すようになったそうだ。

 それでも、患者の希望に添えないことはある。例えば、衛生管理上、刺身や生卵は出せない。ラーメンや天丼は、部屋ごとに時間差で作っても、配膳する頃には見た目も味も落ちてしまう。「ニンジンだけは抜いてほしい」と言われても、具が大きければ何とかすることもあるが、一皿ずつ対応するというのは、なかなか難しい。

 医療の現場で「食事と栄養」が重要視されるようになり、管理栄養士の仕事は大きく変わった。昔は、主に地下の調理場で集団給食の管理をしていた。だが、今は病棟で入院患者の栄養管理、外来では栄養指導に時間を割く。

 徳永さんも、病院栄養士になったばかりの17年前と比べて、「今では、病棟に行く頻度が10倍に増えた」と言う。

 だが、同院の病院給食の予算は1食当たり260円。コーヒー1杯に500円前後かかることもある時代に、極めて低コストに抑えられているのが現状だ。「せめて、もう100円上がれば、冷凍でなく、生の野菜を増やすことができるんですが」(徳永さん)。特に野菜の価格が値上がりすると、食費のやりくりに、いつも頭を悩ませるという。

「口から食べたい」という希望に栄養サポートチームが応える
 患者の全身の栄養状態が不良と判断される場合は、多職種で連携する「栄養サポートチーム」(NST:Nutrition Support Teamとも呼ばれる)が、その改善と栄養管理に取り組む。

 対象となる患者は、▽食欲低下が続く▽体重減少が続く▽下痢や床ずれの症状がある▽摂食や嚥下(えんげ=飲み込み)に障害がある▽経腸栄養(腸から栄養を吸収させる方法)のトラブルがある▽食事に個別対応が必要と思われる、など。多くの場合、栄養状態の指標となる血液検査のアルブミン値が基準値より下がっている。

 NSTには、普通、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師が携わる。中部労災病院では、必要な場面に応じて、さらに言語聴覚士、歯科衛生士なども加わる。また、病院によっては、理学療法士、作業療法士、医療ソーシャルワーカーがいろいろな側面からサポートしてくれることもある(図1)。

 例えば、徳永さんはこんなケースをサポートしたことがある。

 60代男性は、ある日、声がかすれるようになり、食事のときも食べ物が飲み込みにくくなった。やがて、息苦しく感じるようになり、病院で診てもらったところ、のどの底部(「下咽頭」と呼ばれる。食道につながっている)にがんができていて、ふさがり気味になっていた。男性は緊急入院し、呼吸が十分可能になるよう処置を受けた。

 さらに、精密検査を受けた結果、胃にもがんができていた。この男性の場合、手術を受けることによる利益よりもリスクが心配だったため、主治医と患者・家族が話し合い、放射線と抗がん剤を組み合わせた治療を受けることになった。

 入院当初、男性は点滴で栄養を摂取していた。3日目以降は、鼻にチューブを通して腸から栄養を吸収させる方法(経腸栄養)になった。だが、本人から何度も「口から食べたい」と強い希望があったため、NSTがその実現に向けて取り組むことになった。


写真4 中部労災病院栄養管理室のスタッフ
 人間の体は、通常、食べ物がいろいろな形(水、ゲル状、固形物など)や大きさであっても、それを飲み込めるよう柔軟に対応する。だが、病気やけがをすると、この機能がうまく働かなくなることがある。特に水分は重力によって気道に入り込みやすくなり、誤嚥による肺炎を起こす可能性がある。

 この男性の場合、食べ物を安全に飲み込めるかどうかをNSTが評価したところ、液体は難しいが、スライスしたゼリーのような塊であれば飲み込めることが分かった。

 男性には、抗がん剤治療による下痢、嘔吐、食欲低下の副作用が見られたため、管理栄養士は、腸から必要な栄養を摂取させながら口からも食べられるよう、工夫をこらした。言語聴覚士の指導の下、食べ物をうまく飲み込むための訓練も始めて、とろみ食、ピューレ食と、少しずつ食事形態を変えた。徳永さんはそのたびにベッドサイドを訪問し、雑談を交えながら男性の全身状態を確認し、希望を聞いた。

 やがて5週目にはおかゆを食べることができるようになり、9週目には退院できた。

 「いつも患者さんとは目線を同じに。何度も顔を合わせることがお互いの信頼感につながると思います」と徳永さん。男性は「口から食べたい」という強い希望がかない、入院途中から表情が明るくなった。「食事がこんなにおいしいと思ったのは久しぶりだ」と話していたという。

(福原 麻希=医療ジャーナリスト)

《訂正》2010.9.17に以下を訂正しました。
・「管理栄養士Profile」内で、相談料を「無料」としておりましたが、病院の栄養相談は基本的に有料です(診療報酬に上乗せされます)。そのほかについては職域によって異なるため、正しい内容に改めました。

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