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こんなとき、このエキスパートのもとへ

2009/10/27

こんなとき、このエキスパートのもとへ 第1回 

医療ソーシャルワーカー(上)●がんとともに生きる人の“伴走者”

 がんが発見されたときから、患者はいろいろな悩みを抱えます。将来に対する不安、医師から提示された治療法についての迷い、治療や副作用に関連した身体や心の負担、退院後のリハビリ、日常の食生活、闘病と仕事の両立、経済的な見通し、家族や周囲との関係――。
 この連載(不定期掲載)では、患者や家族の身体と心、生活を支援してくれるエキスパートたちを紹介します。名前は聞いたことがあるけれど、「いつ、どんなことを相談したらいいの?」「どこにいるの?」。そんな疑問にお答えします。
 第1回目は、「医療ソーシャルワーカー」です。今回の(上)では患者本人にとって、(下)では家族・遺族にとって、どのような存在なのか、詳しくご紹介します。




医療ソーシャルワーカーProfile

●医療ソーシャルワーカーとは?
「ソーシャルワーカー」とは、社会生活で困っていることや悩みの相談を受け、その解決に向けて専門知識や情報を活用して支援するアドバイザー。勤務場所によっては、「相談員」とも呼ばれている。このうち、病院に勤務し、患者やその家族・遺族に対応するソーシャルワーカーが「医療ソーシャルワーカー」(=MSW:Medical Social Worker)。国家資格である「社会福祉士」「精神保健福祉士」の有資格者を採用する施設が多いが、特に必要な資格はない。

●どこにいるの? 何人いるの?
ソーシャルワーカーは病院のほか、高齢者・障害者・児童の施設、学校、地域包括支援センターなどで働いている。医療ソーシャルワーカーは、現在約1万3000人。がん診療連携拠点病院の場合は「相談支援センター」(名称は病院によって、「患者総合支援センター」「医療相談室」など異なる)や「地域連携室」に配置されていることが多い。

●医療ソーシャルワーカーを探すには?
日本医療社会事業協会 http://www.jaswhs.or.jp/
日本医療社会事業協会会員約4000人のうち、会員と所属病院から承諾を得られたもののみ掲載。病院の連絡先が分かり、ホームページのリンクも張ってある。
がん診療連携拠点病院の相談支援センターにいる場合も。

●相談料は? 無料  ●予約は? 面談の場合、病院によっては必要な場合もある。


医療ソーシャルワーカーCase Study

相談コーナー。いつでも立ち寄りやすいようカウンター作りに

相談コーナー。いつでも立ち寄りやすいようカウンター作りに

 今回は、21世紀型のがん専門病院として「患者・家族を徹底支援すること」に力を入れる静岡県立静岡がんセンターのケースを紹介する。

 静岡がんセンターでは正面玄関を入ってすぐの分かりやすいところに、「よろず相談」という看板のかかったカウンターと相談室がある。ここでは、5人の医療ソーシャルワーカーが患者やその家族の、がんに関する疑問や不安、悩みなどに対応している。

生死の不安から経済上の問題まで、相談は多岐
 医療ソーシャルワーカー歴19年目の高田由香さん(46歳)は、よろず相談で働き始めて7年になる。毎日、朝8時半〜17時まで、1日13〜15件の相談を受ける(下のタイムテーブル参照)。高田さんは「相談相手が必要なときには、いつでも、どんなことでも、どうぞためらわず話してください」と患者に伝えている。

 ある日突然「あなたは患者です」と言われても、思考回路の切り替えはうまくいかないもの。例えば、「告知を受けて、とにかくショックを受けている」「自分はもう死ぬんじゃないか」など、精神的な動揺や不安にかられたとき、家族や友人でもない第三者の医療ソーシャルワーカーに話すことで気持ちが落ち着くことがある。また、「がんになったことを年老いた両親や幼い子供にはどう言えばいいか」「主治医から言われた治療以外の方法を知りたいが、どうやって調べればいいか」「家族や親戚の間で、療養方針の意見が異なり困っている」、あるいは、乳がんや子宮がん、精巣がんの患者などでは、性生活の悩みとして「今後、どういう影響が出てくるか」「パートナーにはどう言えばいいか」など、いろいろな悩みが寄せられる。表に、よくある相談内容を列挙してみた。

表:どんな相談ができるの?

 医療ソーシャルワーカーは、これらの相談にうなずきながら、からみあった話の内容や相談者の心の中を整理し、「今は、何をしなければいけないか」など、問題解決に向けての考え方や行動方法、ときには、発想の転換法などを伝えていく。聞き手としての主観や意見は交えず、客観的な視点から相談者に必要と思われる情報を渡す。話を聞いているうちに、これは別の専門職のほうが詳しく相談にのれると判断した場合は、病院内の適切な職種に橋渡しする。例えば、がんに関するより専門的な知識が必要なときは、担当の医師やがん看護専門看護師などへ、新しい治療の選択肢になりうる治験(*1)については臨床研究コーディネーターへ、治療の副作用によって食事が食べられないなどの悩みは管理栄養士へつないでいく。

 特に「地域の一般病院で医師から告知を受けたあと、がんの専門病院(静岡がんセンターなど)に転院して治療を受けるときは、前の病院から離れてしまい、次の病院にもかかっていない期間が週単位で空いてしまうことがあります。そんなとき、自分の気持ちを打ち明けられる相手がいない場合は、ぜひ相談してほしい」と高田さんは呼びかける。家族に話すと生活していく上でさまざまな影響が出そうだし、職場の人に話すとリストラなどの言葉がチラつきとても言えなかったりする。そんなときこそ、「1人で孤独な時間を過ごさず、医療ソーシャルワーカーを探して頼ってほしい」と強調する。

受診者以外からの相談が半数

相談室内での電話相談の様子。電話相談は10分以内と、30分から1時間が多い

相談室内での電話相談の様子。電話相談は10分以内と、30分から1時間が多い。面談の場合は30分以上話を聞く

 よろず相談で対応した昨年度1年間の相談件数は1万2200件。地域の相談窓口の機能も併せ持つので、相談者の約半数は同センターにカルテがない、つまり、受診前や別の病院で治療を受けている人という。全体の約6割は電話、約4割はよろず相談内の個室で、ソーシャルワーカーが相談を受けている。

 静岡がんセンターが独自に毎年実施している満足度調査では、外来を利用した592人の患者の約9割がよろず相談を「知っている」、そのうち3割が「利用した」と答えた。さらに、利用した相談者183人のうち「気持ちの落ち着きや問題解決に役立った」「まあ役立った」と回答した人で8割を占める。

人生の乗り越え方を助言する“伴走者”
 これほどまでに頼りにされている存在であるにもかかわらず、医療ソーシャルワーカーによる相談業務は、現行の医療の仕組みの中ではほとんど病院の収入に結びつかない“病院のサービス”という位置付けになっている(*2)。さらに、看護師のように、どの病院にも医療ソーシャルワーカーを必ず配置しなければならないという決まりもない。がんと診断され、人生や生活のあれこれと向き合わなければならなくなった患者が悩みを抱えてこれだけ殺到しているのだから、今すぐ、どの病院にも複数人数が配置されるべき職種のはずではないだろうか。

高田由香さん

高田由香さん
1987年日本女子大学文学部社会福祉学科卒。身体障害児施設に勤務後、日本社会事業学校研究科で学び、95年に社会福祉士の資格を取得。リハビリ病院、一般病院を経て、2003年から現職

 静岡がんセンターでは設立時、「上質な医療を提供するだけでなく、患者さんとその家族の方々を徹底的に支援しなければならない。たとえ、満足のいく医療ができなくても、患者さんとそのご家族が抱える心の問題には医療者がしっかりと向き合い、サポートして、安心感を持ってもらう」という理念が掲げられ、よろず相談ができた。この名前は「とにかく、いろいろな人に利用してもらいたい」という思いでセンター総長の山口建さんが名付け、場所も施設の設計時から分かりやすい場所にと配慮された。

 こんな医療ソーシャルワーカーとは、患者にとってどんな存在なのだろうか。高田さんに聞くと、「ちょっと離れて見守っている伴走者。その人の悩みに対する答えでなく、その人なりの乗り越え方を、これまでの経験を聞きながら引き出す人」と言う。

 高田さんは、子供のころ家庭内で社会福祉や命のはかなさや尊さの話題に触れることが多かったことから、小学6年で作文に「尊厳死や安楽死」について書いたそうだ。大学で社会福祉学科を学び、一度は就職したものの社会福祉の専門教育機関に入り直し、社会福祉士の資格を取得した。

 高田さんは「相談を受けるたびに、相手の方からこんな生き方や考え方もあるのかと教えて頂くことばかりです。とくに、病院では“死を意識しての生”を考えることが多い。このような相談を受けるという経験は、自分の人生の財産となっています」と、この仕事のやりがいを語る。

(福原 麻希=医療ジャーナリスト)

タイムテーブル:高田さんの、とある1日

* 1 治験:新薬や既存薬の新たな適応について厚生労働省から承認を得るため、人を対象に薬の安全性や有効性、副作用などを評価するためにデータを集める臨床試験の一つ。
* 2 医療ソーシャルワーカーの仕事の中で診療報酬の加算(病院収入)に含まれているのは「退院支援」についてのみ。


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