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がんに負けないお金の話

2010/8/3

がんに負けないお金の話Vol.3

がん患者が「介護保険」を上手に使うには

福島安紀=医療ライター

 「末期がん等の方で、介護サービスの利用について急を要する場合は、適切な要介護認定及び介護サービスの提供を行っていただくようお願いします」――。厚生労働省老人保険局老人保健課は、4月30日、各都道府県と市町村の介護保険担当課に事務連絡を出し、がん患者の介護認定の迅速化を促した。

 その背景には、現在の介護保険制度では認定に時間がかかり、認定が下りるのを待っているうちに急変して亡くなるがん患者が少なくないという現状がある。この通知を受けて、末期がん患者に対しては迅速に認定を行う自治体も出始めている。「自宅で療養したいけれど、介護保険の使い方が分からない」「自分は利用できないのではないか」とあきらめていないだろうか。もしものときのためにも知っておきたい、「介護保険を上手に活用する方法」を探ってみた。



治療法がなくなってきた段階で早めに介護保険の申請を
 「できるだけ最期まで自宅で過ごしたいと考えているのであれば、なるべく早い段階で市区町村に介護保険を申請することをお勧めします。例えば、ほかの臓器や骨、脳などに転移がある方は、『この治療法が最後のメニューです』と担当の医師に言われた段階で介護保険の申請をするとよいでしょう」

 国立がん研究センター東病院患者・家族支援相談室の社会福祉士、坂本はと恵さんは、こうアドバイスする。


「なるべく早い段階で市区町村に介護保険を申請することをお勧めします」とアドバイスする国立がん研究センター東病院の坂本はと恵さん
 介護保険を利用するためには、市区町村の介護保険担当課か地域包括センターに申請し訪問調査、審査を経て、要介護認定を受ける必要がある。通常65歳以上で介護が必要であると認定(要介護認定)された人が利用できる制度だが、がん末期(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断した場合に限る)で要介護認定を受ければ、40〜64歳でも利用できる。

 ほかの臓器に転移があっても、比較的元気で通常の生活を送っている人は多い。中には、「がんなのに、なぜ介護保険が必要なのか」と疑問に思う人もいるかもしれない。

 だが、病状が悪化して介助が必要になるかもしれない。そんなとき介護保険を利用すれば、特殊寝台(背中や足の部分が上げ下げできるベッド)や車いすなどが自己負担1割で借りられる。また、住宅改修費の支給、訪問看護、身体介護、訪問入浴サービスなども利用できるので、介助が必要な状態になっても自宅で過ごせる可能性が高くなる。

 がん患者の場合、訪問看護は医療保険で受けるのが一般的だが、その場合は自己負担は2〜3割。介護保険なら自己負担が1割なので、介護保険で訪問看護を利用する人もいるという。しかし、訪問看護を利用する際に問題になるのは、がん患者が利用する場合に限らず、介護保険の認定には時間がかかることだ。

 厚生労働省の調べでは、介護保険の利用者が申請して要介護認定を受けるまでにかかる日数は全国平均で31.3日間(2009年10月〜11月申請分)である。

 がん患者だけの全国データはないが、NPO法人姫路市介護サービス第三者評価機構が、がん末期利用者のケアプランを作成したことのあるケアマネジャー(介護支援専門員)を対象に2008年12月〜2009年1月に実施した「姫路市における末期がん等急を要する要介護認定調査に関する研究」では、兵庫県姫路市の「がん末期利用者」が申請から要介護認定までにかかった平均日数は22.6日間、最短で7日間、最長で83日間だった。同市では、がん患者も含むすべての介護保険利用者が申請から要介護認定までに要した平均日数は、28.9日(2008年)で、最新の全国平均より短い。それでも、がん末期利用者の認定には平均で約3週間かかっており、全国的にも同程度、あるいはそれ以上認定に時間がかかる市区町村は多いと見られる。

 「がんの患者さんは、急速に病状が進むことがあります。それなのに、訪問調査が遅く認定に時間がかかって、要介護認定が下りる前に亡くなってしまうと、福祉機器のレンタル代や訪問介護サービスなどの費用が全額自己負担になるケースもあります」


5月15日に開催された「長妻大臣と語る『介護保険』意見交換会」で、長妻昭厚労大臣(中央)と山井和則政務官(左)にがん患者の実情を訴えた藤田敦子さん(右)
 日本ホスピス・在宅ケア研究会理事で、NPO法人千葉・在宅ケア市民ネットワークピュア(船橋市)代表の藤田敦子氏は、現状の問題点をそう指摘する。

 藤田氏ら患者団体の訴えを受けて、参議院議員の梅村聡氏は、4月20日の参議員厚生労働委員会で、末期がん患者の介護認定の迅速化とがん患者の実情に合った要介護認定が行われるように制度の改正を求めた。これを受けて厚労省が、各都道府県と市区町村の介護保険担当課に対し、4月30日、「末期がん等の方への要介護認定等における留意事項について」という事務連絡(表1参照)を出し、介護認定の迅速化を促すことになった。

認定前に介護サービスを利用する手も
 事務連絡にもあるように、居宅支援事業者に依頼してケアマネジャーに暫定ケアプランを作成してもらえば、要介護認定が出る前でも、特殊寝台(背中や足の部分が可動するベッド)のレンタルや身体介護などのサービスが受けられる。本人が入院中であれば、病院までケアマネジャーに来てもらい、ケアプランを立ててもらえばよいわけだ。

 ただ、万が一、認定が下りる前に亡くなっても暫定ケアプランで利用したサービスの利用料に介護保険を適用してもらう(全額自己負担にならないようにする)ためにはポイントがある。

 「暫定ケアプランで介護サービスを利用する際には、なるべく早く、市区町村か地域包括センターに申請を出し、要介護認定を受けるために必要な訪問調査を受けておくことが重要です」と、NPO法人姫路市介護サービス第三者評価機構理事長でケアマネジャーの田中洋三氏は強調する。


NPO法人姫路市介護サービス第三者評価機構理事長でケアマネジャーの田中洋三氏
 姫路市では、同機構の提言を受けて「至急を要する要介護認定にかかるガイドライン」を作成し、がん末期利用者など迅速に対応が求められるケースには、申請のあった日から開庁日5日以内に訪問調査を実施することになった。実際には、翌日か翌々日には訪問調査を行うようになっているという。

 訪問調査とは、市区町村の介護保険担当課の職員などが自宅や病院へ行き、利用者本人や家族から心身の状況について聞き取りを行うこと。要介護認定申請後に訪問調査がなされ主治医の意見書が市区町村に出されていれば、例え認定結果が出るのに多少時間がかかっても、申請日にさかのぼって介護保険のサービスが自己負担1割で受けられる。訪問調査、介護認定審査会での判定を早め、末期がんの人に対しては、1〜2週間で要介護認定を出すようにしている自治体もある。

 さらにもう一つ、がん患者が介護保険を利用するにはハードルがある。それは、要介護認定がADL(生活日常動作)を基準にしているために、主治医意見書の内容次第では、申請の段階で食事や歩行が普通にできるがん患者は要介護度が低く出やすいという点である。



 要介護状態の区分は、最も軽い要支援1から要介護5まで7段階に分けられ、それに応じて利用限度基準額が決められている。前述の姫路市介護サービス第三者評価機構の調査では、病状が進むなど要介護度が実態と合わずに区分変更を申請したがん末期利用者35人のうち、「要支援1」、「要支援2」と判定されていた人は16人(45.7%)もいた(図1参照)。そのうち6人は主治医意見書に「末期がん」と明記されていたという。

 区分変更申請後は、要介護5になった人もおり(図2参照)、病状が急速に進んだ可能性もあるとはいえ、最初の認定がいかに軽過ぎたかが分かる。

 「要支援1、要支援2は、今よりも悪くならないように予防サービスしか受けられない状態です。いつ急変するか分からないがん末期の人に対して、介護予防のためのケアプランを立てることはできない。どう考えてもおかしい」と田中氏は憤る。

 要支援、要介護1になって最も困るのは、介護保険制度では、「要介護2」以上の人でなければ福祉用具の利用に制限があることだ。同機構の調査では、がん末期の人が介護保険で利用したサービスの中で最も多かったのが特殊寝台、特殊寝台付属品、床ずれ防止用具などの「福祉用具貸与」(105人、79.5%)だった。ところが、要支援や要介護1では、例えベッドが必要な状態であっても、そのままでは全額自費負担になってしまうのだ。

 業者や地域にもよるが、特殊寝台のレンタル料は1カ月1万〜2万円程度、それにマットや床ずれ防止用具などを合わせると2万〜3万円かかる。訪問診療や緩和ケアの薬代など医療費もかさむ中で、それがすべて自費になるか、その1割を自己負担するだけで借りられるかは大きな問題である。

「要支援」にならないようにするコツ
 乳がんを治療中の80代の女性は、骨転移が進み「末期的な状態」と主治医に告げられた。1人暮らしだったが最期まで自宅で過ごしたいと考え、介護保険を申請した。厚労省の事務連絡が出る前だったためか、「とにかく急いでほしい」と依頼したにもかかわらず認定が下りたのは申請から23日後。その要介護度は「要介護1」とされた。しかし認定されたときには既に介助が必要な状態で、要介護1では、真っ先に暫定ケアプランで利用した特殊寝台も自費になってしまう。そこで区分変更を申請した。

 それから2週間後に出た判定は「要介護2」。これで特殊寝台は借りられるようになったものの、この時点でほとんどベッドの上で過ごすようになっていた。医療保険で訪問看護を入れても、要介護2の利用限度基準額19万4800円では訪問介護、訪問入浴など自宅で暮らし続けるために必要な介護サービスが十分受けられないので再入院になった。その時点でもう1度区分変更を申請し、その結果を待つ間は再入院することになった。1週後に出た結果は「要介護4」。必要な介護サービスが受けられるようになり、親族の協力も得られるようになったため退院して自宅に戻ったが、その女性はそれから2週間も経たないうちに息を引き取った。

 この女性の場合、2カ月の間に2回も区分変更を申請している。「私自身、夫や父を看取った経験がありますが、家族や親しい友人などと過ごす大切な時間に、何度も区分変更しなければいけない労力を本人や家族に強いるのはあまりにも酷な話です。もちろん、がん末期といってもケースバイケースですが、時間が限られているがん患者に対しては、ある程度病状が進むことを見越して『要介護3』以上に認定するようにしてほしい」と藤田氏は訴える。

 では、介護保険の利用を申請する際、せめて「要支援」「要介護1」にならないようにするにはどうしたらよいのだろうか。

 「『主治医意見書』の診断名を書く下に、『症状としての安定性』を書く欄があります。ここを『安定』ではなく『不安定』に印を付けてもらえば、コンピューター判定でも『要介護2』以上になる可能性は高く、少なくとも『要支援』にはならないはずです。ご本人や家族は精神的につらい時期ですし、直接、主治医に意見を言うのは難しいかもしれませんので、病院の地域医療連携室やがんのケアプランの経験豊富なケアマネジャーなどに相談するとスムーズに行く可能性が高まります」と田中氏。

 なお、「不安定」は「病状が悪化する恐れがある」という意味であり、いつ急変するかは主治医にも分からないケースは多い。主治医意見書に「不安定」となっていても、深刻に受け止め過ぎないようにしたいものだ。

 一部の市区町村の介護保険認定調査会では、主治医意見書の「特記すべき事項」に「末期がん」という記載があれば、「要介護2以上」にすると決めているところもある。しかし、介護保険の運用は自治体に任されているので、自治体によって、認定にかかる期間や要介護度などがん患者に対する対応に温度差があるのも確かだ。

 「どこに住んでいても、がんの患者さんが介護保険を利用して自宅で最後の大切な時間を過ごせるようにするためには、デイホスピスや十分な訪問介護サービスも必要であり、『要介護3』程度になるように、国がコンピューター判定の要介護認定基準などを見直す必要があるのではないでしょうか。また、40〜64歳のがん患者の介護保険の利用が『がん末期』に限定されているために、がんを治したいという気持ちの強い患者さんの介護申請が遅れ、自宅で最後を過ごしたいと考えていたのに十分体制が整わないまま亡くなる人も少なくないのが実情です。がん患者は、多くの場合、長期間たくさんのサービスを使うわけではないので、緩和ケア病棟と同じように“末期”の言葉を外し、必要な人が介護保険を使えるようにしてほしい」と藤田氏は話す。

※図1、図2、表2、表3の出典:「姫路市における末期がん等急を要する要介護認定調査に関する研究」(『末期がん患者が十分な介護サービスを受けるための介護認定システム確立について―医療から福祉へ患者をどう繋げるか―調査研究報告書』〔NPO法人姫路市介護サービス第三者評価機構〕)

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