このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

日本医療政策機構 がん政策情報センター寄稿

2010/12/14

≪日本医療政策機構 がん政策情報センター寄稿Vol.9≫

あなたの街からもがん対策を始めよう

 今、地元の患者・市民の声から始まった草の根的活動のがん対策が活発に行われている。その中には、“がん難民”を救おうとする取り組みもある。日本各地の患者・市民発の好事例を紹介し、あなたの街でも始められるがん対策のヒントを提供したい。

(日本医療政策機構 がん政策情報センター 内田亮、埴岡健一)


 「励ましだけではなく、その人の痛みを受け止めて対話ができているだろうか」。高知がん患者一喜会理事長の安岡佑莉子さんは自問自答を繰り返し、患者が何を求められているかを考え抜いたところ、「高知には患者さんの不安な気持ちに寄り添う心のケアを本格的にできる人材がいない」と気付いたという。

 日本医療政策機構がん政策情報センターが、がん患者や家族に行ったアンケート(2010年2月発表。回答数1618)によると、64%の人が「落ち込みや不安、恐怖などの精神的なこと」で悩んでいる。しかしながら、その精神的な悩みへの支援は十分に行われていないのが現状だ。

高知の「心の支援員」
スピリチュアルカウンセリング講座を学び、実践します。

 そこで安岡さんらは、地元の病院長や開業医、訪問看護師などと共に「高知発:患者支援プロジェクト」を立ち上げた。プロジェクトでは「スピリチュアルカウンセリング講座」を開き、患者サロンや在宅、病院を訪問しながら、患者・家族の心のケアに取り組む、「心の支援員」を養成している。医療・福祉関係者から一般の方まで、既に13人の支援員を養成しており、実際に活動を始めている。相談した患者さんの評価は高く、2010年夏には、育成過程のドキュメンタリー:「発見!人間力 其の99 高知発 生命見守って〜ガンに負けない心を持つため〜」が全国放映された。「高知県では、プロジェクトの活動を知り、「心の支援員」を利用する人、目指す人が着実に増えています。地域コミュニティーの中で支え合う体制ができつつあります」と安岡さんは話す。


愛知のピアサポーター
がん体験者が心理的なサポートや情報提供を行います。
 愛知県では、がん体験者が患者さんのために役立とう、患者自身の情報力を高めようという取り組みが2008年から行われている。「がん専門医と連携した『がん種別ピアサポーター』のモデルを作ります」をスローガンにNPO法人ミーネット(代表:花井美紀氏)では、がん体験者やその家族(ピア)が患者さんや家族をサポートする「ピアサポーター」を養成している。サポーターは、カウンセリングのスキルや、がん専門医の講義を主とした研修を受け、名古屋市がん相談情報サロン・ピアネットを中心にサポート活動に取り組んでいる。

 患者・家族にピアサポーターの必要性をアンケートで聞いたところ、回答者233人のうち147人(63%)が「必要」と回答。ピアサポーターに対して、がん体験者でなければ分かり合えない共感を持っており、治療を受けた経験があるからこそ語れるノウハウを聞きたいと望んでいることが分かった(NPO法人ミーネット「がん患者支援に関するアンケート:2010年5〜6月実施」参照)。


愛知のがん患者支援プログラム
こころのセルフケアを促すグループワークを実践します。
 一方、同じ愛知県内の取り組みで、がん患者さんの「がんと向き合う力」の向上に関するスキルアップトレーニングも行われている。「患者は何かしてほしいと要望するばかりではなく、患者もサバイバーとして自立して、セルフケア(=自助)、ピアサポート(=互助)を展開していくべきではないでしょうか」と、NPO法人ぴあサポートわかば会理事長の寺田佐代子さんは語る。同会では、オーストラリアのガウラー財団のキャンサーサポートプログラムを日本人向けにアレンジし、がん患者さんを対象に「こころのセルフケア」を促すグループワークを実践しており、この3年間で800人余りが受講している。「私たちは、ピアサポーターとしてプログラムを実施しています。プログラムを体験した多くの仲間が、それまでの不安でネガティブな気持ちから、ポジティブな気持ちに変わっています。ぜひ、参加して体験してみてください」と寺田さんは話す。

“がん難民”を救う情報提供のノウハウとは
 患者の心のケアに並んで重要な“がん難民”の減少に繋がる情報提供の取り組みを紹介しよう。

 「がん患者や家族にとって、情報は“勇気”です。情報が一筋の希望になるときがあるからです。しかしながら、以前は大阪府内のがん情報は、ばらばらに存在し、専門家以外には理解困難でした」と、NPO法人がんと共に生きる会の濱本滿紀さんは言う。実際、患者会に持ち掛けられる相談は「どの病院にかかれば良いか」「どこでどんな治療を受けられるのか」が主であった。つまり、相談をする人にとっては、情報を得るために“時間と手間”をかけなければならなかった。

 そのため、府民の視線で、患者・家族が活用できる形にして届ける取り組みが、大阪府内の複数の患者会と大阪府立成人病センターの協働により行われている。「どんな治療がどのような病院で行われているの」「専門医はいるの」「相談はできるの」――そんな疑問に答えるべく、がん情報サイト「よくわかる!大阪のがん診療NOW」を2010年2月に公開した。


がん情報サイト 「よくわかる!大阪のがん診療NOW」
http://osaka-gan-joho.jp/cnow/
治療方法や専門医の検索、がん診療の今がわかります。

 このサイトでは、最少3クリックで、知りたい情報にたどり着ける。(1)地域、(2)がんの種類、(3)項目(診療内容、診療数、専門医数など)を選択すれば、選んだ地域内の病院を比較することができる。公開した後は、インターネットに不慣れな人からも「知りたい情報にたどり着けてうれしい。周りの人にも勧めたい」という声が寄せられているという。

 宮城県では、患者さんの退院時に的を絞り、冊子で必要な情報を手渡す取り組みが行われている。「患者さんはたとえ退院しても、再発への不安や療養に伴う体の苦痛に耐えなければなりません。自分の状況を理解して、今後の療養に関してどんな選択肢があるのかが分かれば、不安は取り除かれ、心の支えが得られます」と宮城版退院時サポートプロジェクト代表の郷内淳子さんは言う。


宮城版「退院時サポートキット」
支援団体の連絡先や療養中の注意点などを記載しました。
 同プロジェクトは、療養生活の情報とアドバイス、宮城県内にある病院、相談支援センター、患者会などの情報を掲載した「療養生活のガイド編」を独自に作成。併せて「療養の記録手帳『あゆみ』」「食事に困った時のヒント(発行元:がん研究振興財団)」、在宅ケアへの移行を患者さんと家族の視点から紹介した「あなたの家に帰ろう(発行元:おかえりなさいプロジェクト事務局)」の4冊をセットにして患者さんに手渡している。

 実は、この退院時サポートプロジェクトは宮城県のがん対策推進協議会で認められて、「宮城県がん対策推進計画を推進するための主な取り組み(アクションプラン)」に盛り込まれている。まさに、患者が中心となって、行政と医療者を巻き込みながら、宮城県内の患者支援の輪が広がっている好事例といえるだろう。

ニーズをとらえた新しい取り組み
 このほかにも、患者のニーズをとらえた、患者発の新しい取り組みもある。

 「働き世代でがんになる人は増えているのに、がんになった人や治療中の人の復職プログラムや就労サポートは全く整っていません。がん患者は、上司や同僚に病気のことを伝えるかなどで悩んでいますし、企業もどうやって復職を支えたらよいのか分からない状態です」。CSR(Cancer Survivors Recruiting)プロジェクト代表の桜井なおみさんは、がん患者の就労サポートの必要性を指摘する。


CSRプロジェクト
「就労問題フォーラム」を開き、患者さん、企業、社会に提言しています。
 2008年3月に東京大学医療政策人材養成講座4 期生の桜井班が実施した「がん体験者の就労状況調査」(回答数403人)の結果、「がん体験者の3人に1人は、転職・離職・失職、4割は減収」という厳しい就労環境が浮き彫りになった。CSRプロジェクトは、全国の働くがん患者ネットワークの形成を目標に、全国4都市(東京、盛岡、神戸、名古屋)で「就労問題フォーラム」を主催し、がんに関する正しい知識普及に向けた「サバイバートーキングセミナー」を実施している。がんに関する誤解や偏見をなくすことで、がん体験者が働き続けられるような環境を整えると同時に、一般市民に対するがん啓発、受診率の向上にも貢献しようとしている。

 がんに関する正しい知識普及に向けた新しい取り組みもある。「従来型の退屈な市民向け医療講座でなく、地域でがん予防をしっかりと考えたい」と、北見NPOサポートセンター理事長の谷井貞夫さんは語る。そこで考案されたのが参加型ワークショップ「がん予防検定」だ。参加者はクイズに答える形式で、自身の日ごろの行動を振り返りながら、がん予防を学ぶことができる。クイズは選択式で、参加者が手元のボタンを押すと、その場で判定され、すぐに正解を解説する。一方通行的な講義よりも楽しく、がん予防に関する理解が深まると参加者に好評だという。


北海道のがん予防検定
参加型ワークショップでがんを予防します。
 実際に、北海道の北見市と津別町で「がん予防検定」を実施し、1カ月後にアンケート調査をしたところ、検定を受けた人の33%が「がん検診を申し込んだ」と答えたほか、17%が「禁煙を始めた、もしくは喫煙者に禁煙を勧めた」ことが明らかになった。このほか、検定を取材に来たテレビ局が、社員の福利厚生の一環として「がん予防検定」の試行的導入を決定するなど、着実に浸透してきているという。

あなたの街でもはじめよう
 ここまで、市民医療協議会が地域のチームを支援している「地域発:がん対策市民協働プロジェクト」から計7つの優れた実例を紹介してきた。これらの取り組みは、患者(市民)が企画・運営し、医療機関や行政を巻き込んだプロジェクトとして行われている。下の日本地図を見て分かるように、全国各地でがん対策プロジェクトが進められており、好事例の報告も増えてきた。

 あなたの街ではどんながん対策が行われているか、ぜひ調べてほしい。そして、ここで紹介したようなプロジェクトに興味を持ったら、積極的に参加してみてはどうだろうか。

※参考URL

■地域発:がん対策市民協働プログラム
http://ganseisaku.net/impact/gan_coproduction/
■高知発:がん患者支援プロジェクト
http://kochi-ganpro.jp/
■愛知発:ピアサポートプロジェクト
http://aichipeer.com/
■がん情報サイト「よくわかる!大阪のがん診療NOW」
http://osaka-gan-joho.jp/cnow/
■患者発:宮城版退院時サポートプロジェクト
http://ganseisaku.net/impact/gan_coproduction/2010/miyagi/miyagi.html
■働き世代のがん患者・体験者に対する就労・雇用支援プロジェクト(CSRプロジェクト)
http://cancernet.jp/csr/index.html
■がん予防検定を用いた、地域ぐるみがん予防プロジェクト(北海道)
http://ganseisaku.net/impact/gan_coproduction/2010/hokkaido/hokkaido.html

※本稿における見解は、組織としてのものではなく、あくまで筆者個人の考えです。

内田 亮 (うちだ まこと)
NPO法人 日本医療政策機構 市民医療協議会

化学メーカーの商品開発業務を経て、2009年より日本医療政策機構に参画。地域プログラムを担当。

この記事を友達に伝える印刷用ページ