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日本医療政策機構 がん政策情報センター寄稿

2010/10/12

≪日本医療政策機構 がん政策情報センター寄稿Vol.8≫

がん対策5カ年計画を中間総括しよう 〜より良い第2次計画に向けて

 第1次「がん対策推進基本計画」(PDF)は、5カ年(2007〜11年度)の3年半が過ぎ、あと1年半で第2次の基本計画に入る。第1次計画の問題点とこれまでの進捗に関する議論を踏まえ、より良い第2次計画を策定するために、さらに議論を深めていかなければならないときだ。

(日本医療政策機構 がん政策情報センター 埴岡健一)



埴岡健一
(はにおか けんいち)
NPO法人 日本医療政策機構 理事

日経ビジネス記者、ニューヨーク支局長、副編集長などを経て、1999年骨髄移植推進財団事務局長。08年より日本医療政策機構市民医療協議会共同議長、がん政策情報センター長。厚労省がん対策推進協議会委員ほか。
 なぜ今、中間総括が必要なのだろうか。

 既に開始から3年半が経った第1次(2007〜11年度)の「がん対策推進基本計画(以下、基本計画)」。第1次基本計画は2007年4月から3カ月間という短い時間で作成し、時間不足から拙速となった部分もあった。同じ轍(てつ)を踏まないためにも、2012年度からの第2次5カ年計画作りに向けて、残りの1年半を有効に使う必要がある。

 まずは、これまでの議論を振り返ってみよう。基本計画や国のがん対策推進協議会(以下、国協議会)の運営などについては、これまでたくさんの欠点や課題が指摘されている。

 例えば国協議会では、基本計画の枠組みに関して、(1)活動量(アウトプット)でなく、その成果(アウトカム)を評価すること、(2)がん医療の均てん化などについて、よりよい評価尺度を決めること、(3)誰が何をいつまでにどのような結果を出すかを記したアクションプラン(実施計画)とすべき――などの意見が出ていた。

 国協議会が取りまとめた「平成23年度がん対策に向けた提案書(以下、23年度向け提案書)」には、140本の具体的施策が提案されており、予算策定のプロセスに関しても国と地域が対話をしながら策定するよう、改善を求めている。さらに、厚生労働省による基本計画の「中間報告書」では、国協議会の委員の意見から抽出された「今後の課題」が70項目を超えている。

 これらに加えて、患者関係者の声、海外のがん計画の動向、全国の都道府県などの好事例(「全国に広がるがん条例制定の動き 上」「全国に広がるがん条例制定の動き 下」を参照)も踏まえるべきだろう。

計画の枠組みを再考しよう
 こういった個別の推奨施策やアイデアに先立って、最初に見直さなければならないのが基本計画の「枠組み」だ。それが歪んでいると、どんな施策を盛り込んでも成果につながりにくいからだ。まずは現在の基本計画の構成を見てみよう(図1)。

 基本計画は、「がんの死亡率の20%減少(10年での目標)」(A)と「すべてのがん患者・家族の苦痛の軽減・療養生活の質の向上」(B)を2大目標に掲げている。これまでの議論の中で、この2大目標は良い方向を示していると受け止められている。

 ただし、図1の(1)〜(8)の分野別対策がどのように、A、Bの2大目標に影響するのか因果関係が明確に記述されていない点は問題視されている。また分野目標の設定がうまくいっておらず、成果を計測する「アウトカム評価」につながっていないという指摘もある。

 例えば(2)の緩和ケアでは、「医師に対して研修を実施する」と明記しているが、研修を修了した医療提供者の治療を受けることで、どれだけの数の患者・家族の苦痛をどの程度減らすかは論点としていない。また④の相談支援・情報提供では、「研修を修了した相談員を配置する」としているが、これがどれだけの数の患者の問題をどの程度解決していくかは検証を求めていない。

 こういった「アウトカム評価」の発想がないと、手段が目的化してしまいがちだ。実際、08年11月に開催された第8回の国協議会では、国の補助金によって導入されたマンモグラフィー装置の中に1度も使われていないケースもあり、問題視された。がん対策予算項目ごとに効果を判定することが必要であり、行政はそのための情報を公開することが求められる。

 政策立案プロセスの改革も道半ばだ。

 23年度向け提案書に付けられた約1000人からの約7500件の意見など、患者や医療現場のニーズを反映した政策提言や要望が、提案書として国に届くようになったことは大きな進歩だ。しかし、それが実際の予算や施策に反映されたのはごく一部だ。さらに、(1)予算に採用される項目の選択のプロセスに関する行政からの情報開示、(2)政策の進捗管理と効果を評価するための行政からの情報開示、(3)どの政策が効果を生むかのエビデンスづくり、(4)がん医療、がん対策に関する基礎統計データの収集と開示――などはいまだ進んでいない。これらが進まないと、施策をつくり、実行し、結果を検証し、施策を改善するという循環がうまく回らない。

見えてきた「がん対策体系図」
 基本計画の構成に続いて、日本のがん対策の体系を見ておこう。主な法律や会議、行政的対応など各部分の歯車がかみ合っているか、弱点(ボトルネック)がどこかを考えてみよう。

 図2左側の「国」には「がん対策基本法(以下、基本法)」(PDF)の下に国協議会があり、基本計画が策定され、それを実現するべく一定の予算措置なども行われている。

 06年に制定された基本法は、立法・行政府のみならず社会一般でもおおよそ高く評価されている。中でも、国協議会における患者関係委員の任命を明記するなど、患者参加の流れを決定付けたことが大きい。図2のような体系が形成されつつあるのも、基本法があったからこそである。しかし、地域がん登録を盛り込んでいないなど、改善すべき点もある。法律の改正、あるいは新たに地域がん登録に関する法律を制定するなど、弱点を補強する必要があるだろう。

 国の協議会は、これまでは議論されるテーマが比較的限定されており、省庁横断的、オールジャパンあるいは世界の英知を集めた議論がなされているとはいえなかった。事務局や協議会会長に再考をお願いすると同時に、私も含めた各委員が議案や資料の提案力が弱かったと反省すべきであろう。

 国のがん対策予算は、07年度の212億円に比べ10年度実績は316億円、11年度概算要求(こちら(PDF))は541億円と金額の規模こそ大きくなった。しかし、先に述べたようにその決定プロセスの改善と、有効性の事後検証は進んでいない。がん検診費用などの大きな予算が増える一方で、大幅減額になっている項目も多く、改めて見直す必要がある。診療報酬については、10年4月の改定において、がん診療に関連した事項についてもさまざまな対応がなされているが(「4月から、がん医療の“価格”が大きく変わる」参照)、採用されたのは提案のごく一部で積み残しも多い。12年の次期改定は、医療保険と介護保険の改定が重なる上、第2次基本計画のスタートとも一致する重要な改定となる。第2次基本計画だけでなく、次期改定に向けた議論もスタートさせるタイミングだろう。

「地域」から学ぶことはたくさんある
 一方、図2右側の「地域」では、「がん対策推進条例(以下、がん条例)」の制定、協議会の設置、推進計画やアクションプランの策定、予算措置などが行われるようになってきた。さらにその都道府県内の「地域がん診療連携拠点病院(以下、がん拠点病院)」などが集まる「都道府県がん診療連携協議会(以下、県連携協議会)」も開催されている。なお、この図にはないが、「国」には各県に原則1カ所ある「都道府県がん診療連携拠点病院(以下、県がん拠点病院)」が集まる「都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会(以下、連絡協議会)」が置かれ、国立がん研究センターが主催している。

 がん条例づくりに先行した県では、県民の声を取り入れた条項が入ったり、条例の後、県民のがん対策の活動が活性化されることも観察されるようになった(これまでのがん条例の内容については、がん政策情報センターの「各地の条例コーナー」を参照)。

 「都道府県がん対策推進協議会(以下、県協議会)」の設置は基本法には規定されていないが、ほぼ全県に置かれている。しかし、その活動状況は地域によって大きな差があり、概して低調のようだ。ほとんどの県で患者関係委員を入れているが、そうでないところもある。県協議会の設置、そして国協議会と同様の患者関係委員の参加が担保されるよう、基本法の改正で対応することも一案だ。地域のがん対策情報を集め、実質的な議論をする土俵づくりが求められるだろう。

 都道府県の推進計画とアクションプランは、全体的に低調ではあるが、中に創意工夫をした地域もあり、地域格差が生まれているのが現状だ。好事例を参考に、「私たちの県の推進計画、アクションプランもこのような内容に改訂しよう」という地域住民の声が重要だろう。推進計画・アクションプラン集を読んで参考になるものを探し、それを県協議会の事務局に届けて審議事項にあげてもらうようにしたらいかがだろうか。

 都道府県のがん対策予算については、ある程度、情報が公開されるようになり、実態を比較し議論することができるようになった(囲み)。

 これらの情報の中から、自県の情報をチェックして、全国の都道府県と比べてみよう。その予算格差に驚くはずだ。金額の規模も予算化している項目もかなり異なる。また、一般的に予算化する施策の選択のプロセスも不明確であり、県民の意見やニーズを聞く手順も定着していない。国が、WGでの議論を経た国協議会からの予算や対策に関する提案書を求めることとしたように、県も県協議会にWGを設置して提案を受けるようにするといいだろう。

 連携協議会は、現場にすぐに変化をもたらす仕組みとして期待できるだろう。実際、沖縄県の連携協議会は、多数の分科会を設置して活動を展開している(「日本列島がん対策・現地レポート〔沖縄県〕(上)」「日本列島がん対策・現地レポート〔沖縄県〕(下)」参照)。

患者主導の“六位一体”
 次に、図3によって、がん対策における各ステークホルダーの活性度を概観してみよう(図3)。

 基本法に「国協議会に患者関係委員を置く」と明記されたことで、がん対策決定への患者参加は大きく進展した。現在、国協議会委員20人のうち5人が患者、家族、遺族など患者関係者だ。さらに基本計画には、「がん患者及び患者団体等は、がん対策において担うべき役割として、医療政策決定の場に参加し、行政機関や医療従事者と協力しつつ、がん医療を変えるとの責任や自覚を持って活動していくこと」とうたわれた。がん患者関係者は、医療政策決定の場への参加が保証される一方で、参加した者は多くのがん患者・家族・遺族の声を政策に反映させるべく、責任や自覚が求められているのだ。今後も、提言力を高めるために、さらなる努力が必要であり、患者関係者全体の連合ネットワークを作ったり、戦略的な活動を継続していく必要があるだろう。

 政治(立法府)の状況はどうだろうか。国会・国会議員に関しては、新たに当選した議員の中にがん対策に関心がある議員は多く、がん対策のうちの個別対策に熱心に取り組む議員も現われている。基本法が全会一致で可決・成立したように、がん対策は党派を超えて推進していくべき課題である。国会議員すべてが、がん対策に知識と関心を持ち、行政府に対して積極的に提言を行うために、がん対策を牽引するリーダーを作り、国として推進していくべきがん対策に関する議論を活発に行い、その結果を集約していくことが大切だ。都道府県では都道府県議会ががん対策に目覚めつつある。がん対策に詳しい議員は決して多くはないものの、これまでの行政任せから脱却して、議員・議会主導で変革をもたらそうという人も出てきている。

 国の行政においては、厚労省内の大臣を本部長とする「がん対策推進本部」会議がほとんど機能しておらず、国協議会と連動していないのが現状だ。

 医療従事者の間では、がん対策の強化に関連してさまざまな義務的な事項(例:院内がん登録の実施、会議の開催、研修の実施など)が生じ、それが負担感につながる部分もあった。しかし一方で、診療報酬の前向き改定や拠点病院への補助金の増額など、メリットも生まれてきている。また、日本癌治療学会などでは、患者関係者と医療提供者で一緒にがん対策を考えて社会に訴えていこうという動きが進みはじめた(「学会と患者の協働で、がん医療を変える!」参照)。

 民間企業の中にも、地域でのがん対策基金への協力や、がん検診普及啓発での従業員対象の検診促進、従業員のボランティア活動機会の提供などのがん対策を実施したり、患者アドボケート育成支援の活動を推進する企業が出てきている。

 このように、がん対策はこれらのいずれかのセクターだけでは推進が困難であり、立場の異なった者の結集が必要だ。“六位一体”という言葉が広がるにつれて、その認識が広まってきた。

第2期基本計画に向けたカウントダウン
 以上、私見を交えて中間総括をしてみた。これまでの3年半、進んだことも進まなかったこともある。分かったことも分からないこともある。率直に反省し、次のゴールを見据えて、みんなで走り始めることが大切だ。以下のような日程で第2次計画の策定を進めることを提案したい。

【第2次がん対策推進基本計画(2012〜16年度)の策定日程例】
●2010年秋
・国協議会にて第2次基本計画に関する基本的な考え方に関する審議を開始、審議日程を決定
・関係各方面に作業と情報提供の依頼を実施
・11年春までに基本的な考え方などを決定
●2011年春
・国協議会委員入れ替え期。旧委員と新委員の引き継ぎ
・第2次基本計画案策定ワーキンググループ設置。7月までに報告書作成
●2011年夏
・国協議会にて素案策定ワーキンググループの報告に基づき、第2次基本計画の審議を開始、集中審議にて10月ごろに決定

※参考サイト
・「がん対策推進基本計画」およびその「中間報告書」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/gan_keikaku.html
・「がん対策推進協議会」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/gan.html
・「がん対策推進協議会提案書取りまとめワーキンググループ」
http://www.gan-working.net/
・「がん政策情報センター」
http://ganseisaku.net/

※本稿における見解は、組織としてのものではなく、あくまで筆者個人の考えです。

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