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日本医療政策機構 がん政策情報センター寄稿

2010/7/13

《日本医療政策機構がん政策情報センター寄稿 Vol.7》

患者と国会議員が一緒にがん対策を考えた

がん医療のあるべき姿をマニフェストに具現化

 「がん対策を良くしたい」という思いを抱いた全国のがん患者関係者たち約50人が、あるべきがん医療の姿をマニフェスト案にまとめた。経験に基づいた“切実な訴え”と“具体的な施策例”を併せ持つこの提案書は、約100人の国会議員に届けられた。こうした活動は国会議員を動かし、末期がん患者に対する介護保険適用審査の迅速化を後押しする一助にもなった。

(日本医療政策機構 がん政策情報センター 杉山真理子、埴岡健一)



杉山真理子
(すぎやま まりこ)
NPO法人 日本医療政策機構 市民医療協議会

医療系出版社の編集記者を経て、2009年より日本医療政策機構に参画。患者の政策提言支援を担当。


埴岡健一
(はにおか けんいち)
NPO法人 日本医療政策機構 理事

日経ビジネス記者、ニューヨーク支局長、副編集長などを経て、1999年骨髄移植推進財団事務局長。08年より日本医療政策機構市民医療協議会共同議長、がん政策情報センター長。厚労省がん対策推進協議会委員ほか。
 あなたが今、がんと向き合っている患者や家族なら、「医師から納得できる説明をしてもらえなかった」「近くの病院できちんとした治療が受けられるのか心配」「かかっている病院には、こころや生活の悩みを話せる相手がいない」など、様々な問題に直面しているだろう。

 こうした問題の多くは、十分に教育を受けた医療スタッフの配置、相談窓口の設置などが実行され、それらがしっかりと機能すれば解消される。そのためには、まず、当事者である患者や家族が声を上げ、その声を国会に届けて政策に反映してもらうことが重要だ。

 今年4月10日から3日間、「がん政策サミット」(主催:日本医療政策機構)が都内で開催された。「がん対策サミット」は今回で3回目。タイトルは「がん政策サミット2010春〜患者と議員がつくるマニフェスト〜」(表1)で、患者と国会議員(以下、議員)が一緒になって、がん対策の推奨施策である「マニフェスト案」を作り、その実現に向けて活動することを目指した。

 1日目と2日目は、都道府県がん対策推進協議会(各都道府県のがん医療について検討や協議を行うために設けられた公的な会議)などの患者委員や公募にて参加した患者関係者を中心に、議員も加わって、患者の視点でがん政策の目指す姿と具体的な優先施策をまとめた。

 今年7月に参議院議員選挙を控えていたことから、各党のマニフェスト(選挙公約)作りに活用してもらおうと、「患者が提案するマニフェスト案」(PDF)(以下、マニフェスト案)と名付け、3日目に開催した「国会議員勉強会」(以下、議員勉強会)で議員に手渡した。

表1 「がん政策サミット2010春〜患者と議員がつくるマニフェスト〜」の概要

「マニフェスト案」作り体験で、良い施策がより明確に
 この試みは、参加した患者関係者にも、議員にも、大きな意識の変化と行動の変化をもたらしたようだ。まず、患者の立場で参加した人の感想を紹介しよう。

 「がん政策サミットの参加は3回目。これまでは議論が中心だったと思うが、今回は、推奨施策集の決定版といえるものをまとめることができた。作業は大変だったが、それだけに達成感も格段に大きかった。意見交換に終わらず、世の中に出せる形に残すことが大切だと分かった」(愛媛県の松本陽子さん、がん経験者)

 「政策のアイデアはたくさん浮かんでも、成果につなげるのは簡単ではない。今回のグループ作業では、何を目指すかを考えた上で、それに本当に効果をもたらす施策は何かを考えたので、焦点を絞った議論ができた。みんなで意見を付せんに書いてホワイトボードに貼り、似た意見をまとめて分類したり、効果と実現性の高いものを上位に動かしたりするなど、意見をまとめ上げる手法がとても勉強になった。自分たちの活動にも取り入れたい」(神奈川県の三浦秀昭さん、がん経験者)

 「施策を漠然と記述するのではなく、みんなで『誰が』『何を』『何のために』『いつまでに』『どのように』実施する施策なのか、考えて文案を作るようにした。そのおかげで、施策の定義と内容が明確になったので、分かりやすいし、みんなが同じように理解できる。仲間にも議員にも説明しやすい」(岐阜県の横山光恒さん、がん経験者)

 寄せられた多数の感想から浮かび上がったのは、1. みんなで一体となって一つの共通案を作り上げること、2. 意見をまとめ上げる手法を用い、みんなの合意を得ていくこと、3. 多数の提案の中で、目標に対する効果の点から施策を厳選し、さらに優先付けをして議員が理解しやすくすること――が重要だということだ。

 延べ17時間におよぶ「マニフェスト案」作り体験に参加した人の間には、一種の熱気と感動が広がっていた。経験したがんの種類、住む地区、所属する患者団体、闘病中か経験者か、経験者本人か家族か遺族かなどが異なっても、議論を尽くして一緒に一つの案を取りまとめることができたという感激だ。がん患者関係者が一丸となって政策提言をしていくための心構えや手法を体得する貴重な機会となったようだ。

患者と議員の間に、がんに関する“共有感覚”生まれる

「がん政策サミット2010春〜患者と議員がつくるマニフェスト〜」でのグループワークの様子
 自分の経験からがん対策を熱心に考えている人たちが全国から集まったことが、議員をも熱くした。議員関係の参加は、2日目は8人(議員本人4人、秘書4人)、3日目は33人(議員本人14人、秘書19人)に上った。2日目のミニスピーチコーナーではで、梅村聡さん(参議院、民主党)、柿澤未途さん(衆議院、みんなの党)、下田敦子さん(参議院、民主党)、菅原一秀さん(衆議院、自民党)が登壇した。

 下田さんは自分が幼いときに母親ががんで闘病したことを、柿澤さんは食道がんで亡くなった父親の入浴介助をしたときの様子を率直に語った。2人の話に、会場からはすすり泣きも聞かれた。数日前に衆議院厚生労働委員会で、患者の要望を基に患者相談の充実などについて国会質問をしたばかりだった菅原さんは、患者のための具体的な政策を列挙した。

 「患者との協働でがん対策に取り組みたい」と述べた梅村さんは、スピーチの後のグループワークに参加して、その言葉を実践した。自ら司会役を買って出て、グループメンバーである患者関係者約10人の意見を聞いて施策を取りまとめ、成果発表も行った。実際に国政で政策立案に当たる議員が、政策をまとめる過程を目の前で見ることができ、参加者は大いに勇気付けられた。まさに、“患者と議員が作るマニフェスト”が実現した。

 3日目の議員勉強会では、患者と議員の間で、1時間にわたる活発な意見交換が行われた。まず、「マニフェスト案」を10人の患者関係者が分担して説明。これを受けて、議員からはがん治療における患者の経済的負担などに関する質問が相次いだ。このほか「子宮頸がんワクチンについては、党内でも公費助成を要請した」「がん患者への介護保険サービスの充実について現在議論している」など、がん施策の取り組みの現状に触れる議員もいた。

 こうした議員の姿に、「社交辞令や人気取りでなく、自分のこととしてがん対策に取り組もうとしている議員が存在するように感じた。患者にとって大きな力となる」と語る患者関係者もいた。

患者と議員が考えたことがきっかけで、施策が動いた
 「がん政策サミット2010春」の議論が、早速具体的な改善につながる事例も現れた。

 これには参加者である千葉県の藤田敦子さん(患者遺族)が関与している。藤田さんは、サミット2日目に梅村さんと顔を合わせた後、翌週に大阪府内で面談をする機会を得た。

 4時間にわたる面談の中で、最も盛り上がったのが、藤田さんがグループワークでも担当していた「在宅医療」における、介護保険利用の問題。介護保険は、がんのように病態が急変する疾患にそぐわず、必要なときに介護サービスを受けられないがん患者が多いため現場や関係団体からは「がん患者に対する特例措置をとるべき」といった要請が多く挙がっていたからだ。

 実態調査の結果を添えて藤田さんらが実態を説明したところ、梅村さんは強い関心を示し、面談から2日後の4月20日に開かれた参議院厚生労働委員会で、梅村さんがこの問題の改善を求めて質問に立った。梅村さんの発言に答える形で山井和則厚生労働大臣政務官が「がん患者がスピーディに十分な介護サービスを受けられるよう、今年中に取り組む」と答弁した。

 藤田さんは梅村さんとの面談後、全国各地の患者関係者に、厚生労働省へファクスやメールで改善の要望を伝えるよう呼び掛けた。

 こうして4月30日に厚生労働省は「がん患者への要介護認定迅速化」に関する業務連絡を出すことになった。業務連絡では、末期がん患者などが介護保険の利用を申請した場合、介護保険を運営する市町村が必要と判断すれば、要介護認定の結果が出る前であっても、「暫定ケアプラン」を作成の上、介護サービスを提供することが可能であることに言及し、これを迅速かつ確実に遂行するよう求めている。

 マニフェスト案の「在宅医療(在宅緩和ケア)」分野の施策3で掲げられた「介護保険法の改正:がん患者の在宅支援にふさわしい介護保険制度のあり方について検討します」の実現に向けて一歩前進した。この成果は、「がん政策サミット2010春」参加者にもメーリングリストなどでいち早く報告され、マニフェスト案活用の成功事例として広く共有された。「声を上げれば、がん対策は変わる」ことを実証した好事例といえる。

表2 「末期がん等の方への要介護認定等における留意事項について」概要

 「患者が提案するマニフェスト案」に掲げられた施策は、「平成23年度 がん対策に向けた提案書〜みんなで作るがん政策〜」にある140本の推奨施策を参考にしたものだ。

 この提案書は、国のがん対策推進協議会の提案書取りまとめワーキンググループが、全国約1000人の患者関係者、医療現場、地域行政などの意見から約7500件の意見を集め、まとめたもの。同協議会での審議・承認を経た後、2010年4月9日に厚生労働大臣に提出されている。

 参加者は、この提案書をあらかじめ予習してグループワークに挑んだ。そして1分野ずつ約30分をかけ、「効果の高さ」と「実現性の高さ」の2点を評価軸として、推奨施策各5〜22本から最優先すべき施策を選定していった。がん対策の意見集約の仕組みとして新しい試みだった。

経験と論理に基づく施策を、患者から議員に手渡し
図1 マニフェスト案の策定プロセス図 完成したマニフェスト案は、3日目の議員勉強会で、患者自身の言葉で議員に説明し、手渡した。まずは分野を取りまとめたグループの代表者が、2日間の作業を振り返りつつ、マニフェスト案を順次紹介していった。

 「一人の患者に対して、どのようながん医療が最適なのかを考えていく集学的治療が確立されないということは、患者にとっても医療全体から見ても不利益。集学的治療が推進され、それを実行していく医療者の計画的育成が大切」(「放射線療法及び化学療法の推進並びに医療従事者の育成」分野を担当した愛知県の花井美紀さん)

 「しっかりしたガイドラインなり基準があると、それに向かって進んでいくことが可能になる。ぜひ整備してほしい」(「診療ガイドライン(標準治療の推進と普及)」分野を担当した沖縄県の三木雅貴さん)

 「研究の企画決定への患者参画がポイント。米国では、患者が研究デザインや資金の使われ方の審査に参画している。がん研究に患者の声を生かして、未来の命を守っていただきたい」(「がん研究」分野を担当した東京都の桜井なおみさん)

 というように、10の分野について担当者が説明した後、患者から議員にマニフェストを提出した。議員からは「今日受け取った『マニフェスト案』を、よく読んで真剣に取り組んでいきたい」など、前向きな発言があった。

100人弱の議員が「マニフェスト案」を手にした
 提案書は作って終わりではない。継続的に働き掛け、政策に反映させることが大切だ。「がん政策サミット2010春」終了後も、患者から国会議員へのマニフェスト配布は続いた。

 当機構は全国会議員722人に「マニフェスト案」が策定されたことを文書で知らせた。その結果、50人(2010年6月14日時点)の議員から、照会が寄せられた。イベントに参加した議員(秘書を含む)を併せると、100人弱の議員がこの「マニフェスト案」を目にしたことになる。「マニフェスト案」を手にした議員の一部からは、次のようなコメントが寄せられた。

 「日進月歩で進化しているがん治療を安心して受けられるように、がん治療における経済的負担の軽減に向けた何らかの対応が必要である」(加藤勝信さん<衆議院、自民党>)。「公共事業として道路を造ることも大切だが、その恩恵を享受できる人は限定されている。一方、医療は国民全体に関係することであり、中でもがん対策は重要になってくるだろう」(阪口直人さん<衆議院、民主党>)。提案は着実に広がりを見せている。

 今回の「がん政策サミット2010春」では、イベントへ参加した患者関係者が全国の声に基づいて、患者の視点を重視しながらがん対策に関する推奨施策案をまとめた。次は、全国の患者や家族がこのマニフェスト案を活用する番だ。政党や議員に「ここにある施策を実施してください」とコメントを添えてマニフェスト案を送ることも一つの手ではないだろうか。

※参考URL
・がん政策情報センター がん政策サミット
※7月下旬に「がん政策2010春〜患者と議員が作るマニフェスト〜」のレポートを掲載します。
http://ganseisaku.net/impact/events/gan_summit/
・がん政策サミット2009秋
http://ganseisaku.net/impact/events/gan_summit/gan_summit_2009_autumn/
・厚生労働省 がん対策推進協議会資料
http://www.mhlw.go.jp/shingi/gan.html
・厚生労働省がん対策推進協議会 提案書取りまとめワーキンググループ
http://www.gan-working.net/

※本稿における見解は、組織としてのものではなく、あくまで筆者個人の考えです。

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