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日本医療政策機構 がん政策情報センター寄稿

2010/4/27

《日本医療政策機構がん政策情報センター寄稿 Vol.3》

「こころ」「からだ」「経済的負担」――患者の抱える3つの痛み

 「経済的な痛み」「こころの痛み」「からだの痛み」――日本医療政策機構 がん政策情報センターが、がん患者や家族を対象に行ったアンケート(回答数1618)から、がん患者の抱える3つの痛みが浮き彫りになった。患者の前に立ちはだかる問題を明らかにするとともに、その解決策についても考えてみたい。

(日本医療政策機構 がん政策情報センター 山口綾香、埴岡健一)



山口綾香(やまぐち あやか)
NPO法人 日本医療政策機構 市民医療協議会

お茶の水女子大学大学院修了後、2009年より日本医療政策機構 市民医療協議会にて、がん患者アンケートなど情報企画業務に従事。認定遺伝カウンセラー。


埴岡健一(はにおか けんいち)
NPO法人 日本医療政策機構 理事

日経ビジネス記者、ニューヨーク支局長、副編集長などを経て、1999年骨髄移植推進財団事務局長。08年より日本医療政策機構市民医療協議会共同議長、がん政策情報センター長。厚労省がん対策推進協議会委員ほか。
 「お金の切れ目がこの世の切れ目にならないようにしてほしい」。これは、アンケートに寄せられた多数のコメントの中にあった、大腸がん患者遺族の声である。がん医療が進歩するにつれ、治療法の選択肢も広がってきている。その一方で、治療費など経済的な負担の問題が取り沙汰されるようになってきた。

 今回のアンケートでは、がんの治療にかかった費用について、回答者の30%が「とても負担が大きい」、41%が「やや負担が大きい」とした(図1)。合わせて7割以上の人が負担が大きいと感じているわけだ。がんの治療にかかった費用の平均は133万円であったが、130万円以上の費用を払った人のうちでは、「負担が大きい」と回答した人の比率は、およそ9割とさらに高かった。

 経済的な理由から、“治療をあきらめる”人の存在も明らかになった。経済的な負担が原因で、治療を断念したり、最も受けたい治療とは別の治療を選んだことがある人は、全体の7%。転移や再発の経験のある人だけを見ると、その割合は13%に上った。自分の命に直接関わることでさえも、あきらめざるを得ない人が存在するという結果は、がん患者の抱える「経済的な痛み」が深刻であることを物語っている。

 がん患者にとって、「経済的な痛み」が深刻であることを物語る動きを一つ紹介したい。2010年の3月に開催された、国のがん対策について話し合う「第12回がん対策推進協議会」において、患者の立場から会議に参加している委員有志から「がん患者の経済的負担の軽減に関する意見書」が提出された。経済的負担の軽減について国に解決策の実施を求めるものだ。この意見書には、最後までがん患者の治療に伴う経済的負担の軽減を訴え続け、今年1月に大腸がんで亡くなった、前委員の金子明美さんの想いが込められているほか、委員らが2011年度のがん対策に関する提案を取りまとめる過程で集めた患者の声も反映されている。意見書を提出する映像がテレビのニュース番組で報道されるなど、注目を集めた。

 「経済的な痛み」に関連して、今回のアンケートでは、次のような声もあった。「がんになっても仕事を続けることができ、収入が保障されるような雇用体制が整わないと、高度な医療で命が助かっても治療を続けられないのではないかと不安である」(40歳代女性、乳がん患者)。

 「経済的な痛み」を招く原因の一つとして、就労の問題も忘れてはならない。がん患者の就労継続や再雇用を支援する活動を行う桜井なおみさん(NPO法人HOPEプロジェクト理事長)は、経済的な痛みと就労の問題との関係を次のように話す。

 「私の乳がん治療費の自己負担分は5年弱で約300万円。その間、収入は罹患前の半分だった。働き世代のがん患者は、医療費支出に休職や失職による収入減少が加わる場合もあり、家計にとってはダブルパンチ。『金の切れ目が命の切れ目』といった悲劇が起きないように、雇用の面からも、経済的な痛みを和らげる制度を整えることが早急に必要だと思う」

「こころの痛み」や「からだの痛み」も未解決
 今回のアンケートでは、がんの診断や治療を通して悩んだことも質問した。その結果、64%の人が「落ち込みや不安、恐怖などの精神的なこと」と回答した(図2)。

 また、別の質問で、がん医療の診断、治療方針の決定過程、治療の3つの段階に関する満足度を尋ねたところ、どの段階についてもおよそ4人に1人が不満足と回答。その理由として、「精神面に対するサポートが不十分」が、3つのいずれの段階においても上位に挙がっていた(図3)。

 がん患者の多くは精神的なことについて悩みを抱えているにもかかわらず、それに対するサポートが十分ではないというギャップが生じている。このような状況の中で、がん患者は「こころの痛み」を抱いているわけだ。

 アンケートの回答では、「患者同志の意見交換の場所が欲しい。“がん友達”が欲しい」(60歳代女性、肝臓がん患者)といったピア(仲間の)サポートを望む声や、「患者はがんと診断されたときに人生の方向転換を余儀なくされる。精神的ケアと治療が同時に行われなければならない。もっと患者の心に寄り添った医療の専門家が必要」(40歳代女性、血液・リンパがん患者)といった、専門家によるこころのサポートへの要望が見られた。

 がんの診断や治療を通して悩んだことに関する質問に対し、2番目に回答が多かったのが、「痛み・副作用、後遺症などの身体的苦痛」(60%)だった(図2)。一方で、疼痛ケア(がんに関連する痛みやがんの治療による痛みを和らげる治療)を受けた経験について質問したところ、「受けたことがある」と回答した人は全体の17%にとどまっている。「からだの痛み」についても、十分なサポートが得られていないことがうかがえる。「後遺症を含めた治療の向上を望む。がんは治っても後遺症は一生の苦しみである」(60歳代女性、乳がん患者)といった、後遺症による苦痛の軽減を求める意見もあった。

 「こころの痛み」や「からだの痛み」が、より深刻化する原因の一つとして、情報不足の問題もある。がん医療に不満足であると感じた理由として、精神面に対するサポート不足と共に必ず上位に挙がるのは「情報が少ない」ということだ(図3)。

 自分の受けた診断が正しいものであったのか、自分はどのような治療やサービスを、どこで受けることができるのか、などの情報が相変わらず不足している。アンケートでは、「最新の情報を得られることが治療法の選択の基準となる。それによってその後のQOLが大きく左右されると思う。誰もが医師に遠慮することなくセカンドオピニオンを受けることができることを望む。また、治療法について相談できる窓口を設けてもらいたい」(40歳代女性、食道がん患者)といったコメントもあった。

患者が求める施策とは
 がん対策基本法に基づき制定されたがん対策推進基本計画では、全体目標として、がんの死亡者の減少とともに「すべてのがん患者およびその家族の苦痛の軽減ならびに療養生活の質の維持向上」が掲げられている。今回のアンケートから浮き彫りになった、がん患者の抱える3つの痛みを軽減するためには、それぞれにあった対策を実施していく必要がある。具体的にどのような策を実施すべきだろうか。がん患者の生活の質(QOL)を向上させるための策を考えてみたい(図4)。

 施策といっても、すぐに具体例を思い浮かべるのは少し難しいかもしれない。ここでは、2009年3月に、がん対策推進協議会が提出した、「平成22年度 がん対策予算にむけた提案書〜元気の出るがん予算〜」にある70本の施策を参考にして、具体例を見よう。なお、提案書はウェブページにて公開されている。

 今回のアンケートでは、この70本の施策から必要性が高いと思われる10本を選んで回答してもらった。回答数の多かった上位20施策のうち、「経済的な痛み」「こころの痛み」「からだの痛み」に関連するものを1本ずつ例示してみよう。

(1)「経済的な痛み」
施策名:「外来長期化学療法を受ける患者への医療費助成」
内容:外来で長期化学療法を受けている患者について、窓口負担額を減らす。

(2)「こころの痛み」
施策名:「がん相談全国コールセンターの設置」
内容:24時間対応の全国コールセンターを設置し、患者の療養相談に対応する。

(3)「からだの痛み」
施策名:「副作用に対する支持療法のガイドライン策定」
内容:副作用を軽減する治療法のガイドラインを策定し、治療薬の開発も進める。

 3つの痛みの軽減につなげるために、それぞれの課題の解決に、どんな施策が求められているのか、イメージしていただけただろうか。ここでは3つだけ紹介したが、先述の70本のうち、3つの痛みに関連するものは上記だけではない。なお、がん対策推進協議会では、2010年4月に、「平成23年度 がん対策に向けた提案書〜みんなで作るがん政策〜」を長妻昭厚生労働大臣に提出しており、さらに拡充した施策提案を行っている。

 がん医療における、患者や家族を取り巻く環境が刻々と変化している。それに伴い、今後は、がん医療における課題もより深刻化し、がん対策もより複雑になっていくことが予想される。そのような中、患者や家族をはじめとする当事者の生の声を集め、課題を明らかにし、その課題に合った施策を実現していくことがますます求められるようになる。今回のアンケートが、がん患者の抱える課題と解決策を明らかにする一助となることを期待したい。



●アンケート概要

 2009年11月から12月にかけて行われた。対象はがん患者・経験者とその家族・遺族。全国のがんに関連する患者団体に協力を依頼し、承諾が得られた団体から個々の会員にアンケート用紙を郵送してもらった。アンケート専用ウェブサイトからの回答も受け付けた。有効回答数は1618件。ご協力いただいた方々に、この場を借りて感謝の意を表したい。

※本稿における見解は、組織としてのものではなく、あくまで筆者個人の考えです。

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