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レポート

2018/5/22

第70回日本産科婦人科学会学術講演会

婦人科がんで取り組むプレシジョン・メディシン

患者ごとに異なる指標を遺伝子検査などで見つけ出す

森下紀代美=医学ライター

 プレシジョン・メディシンは、遺伝子検査などで患者一人一人の疾患の特徴を分析し、それに応じた最適な治療法を行うことを表す言葉だ。プレシジョン・メディシンでは、患者ごとに治療標的の有無や既存の治療に対する感受性・副作用などを予測する分子マーカーの同定が重要になる。

 プレシジョン・メディシンの時代を迎え、婦人科がんの治療においても、DNA修復機構の一つである相同組換え修復やミスマッチ修復の異常を標的とした分子標的治療が開始されている。

 5月に仙台市で開催された第70回日本産科婦人科学会学術講演会の教育講演では、新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学教室主任教授の榎本隆之氏が、「婦人科腫瘍におけるprecision medicineの現況と展望」と題して講演した。

DNA修復機構が壊れているとがんが発生しやすい

 発がんの原因は大きく3つに分けられる(Tomasetti and Vogelstein, Science 2017)。最も多いのはDNA複製エラー(体細胞遺伝子変異)で、細胞が分裂する際のDNAを複製する過程で起こる。次に多いと考えられているのが環境・生活習慣で、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染、胃癌の原因となるピロリ菌感染、肝がんの原因となるカビ毒のアフラトキシンなどが知られている。もう一つは、約5%の頻度とされる遺伝性のがんで、婦人科がんの領域では遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)やリンチ症候群が含まれる。

 細胞1個あたりでは、1日に1〜3万個のDNA損傷が起こると考えられている。DNAが傷つくとDNA複製エラーが増え、遺伝子の異常、すなわち突然変異が誘発され、がんの発生につながる。これに対し、正常な細胞には傷ついたDNAを修復する機構があり、DNA複製エラーを補い、遺伝子の異常が蓄積することを防いでいる。少なくとも5つのDNA修復機構があると考えられているが、この機構が壊れているとがんが発生しやすくなる。遺伝性のがんには、DNA修復機構に関連する遺伝子(DNA修復関連遺伝子)に異常があるものが多い。

DNA修復機構の異常を標的としたPARP阻害薬

 DNA修復機構の一つに、DNAの2本鎖を修復する「相同組換え修復」があり、 BRCA1/2をはじめ、多くの遺伝子(DNA修復関連遺伝子)が関与している。遺伝性のがんであるHBOCでは、BRCA1やBRCA2の生殖細胞系列変異により、乳がんや卵巣がんなどが起こりやすい。日本人の卵巣がんの検討では、高異型度漿液性がんのBRCA1/2遺伝子の生殖細胞系列変異が多くみられ、頻度は20〜30%と報告されている。

 BRCA1/2変異細胞に効果を発揮するのが、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬である。PARP阻害薬を投与すると、DNA損傷が起きた場合にPARPによるDNA修復が働かないため、2本鎖切断を引き起こすが、BRCA1/2変異細胞では相同組換え修復が機能しないことから、2本鎖切断をうまく修復できず、細胞死が起こり、抗腫瘍効果が得られる仕組みだ。

 PARP阻害薬のオラパリブの有効性を検討した海外第II相試験(Study 19)では、プラチナ製剤感受性(化学療法の終了日から再発までの期間が6カ月以上)の再発卵巣がん患者を対象に、オラパリブ投与群とプラセボ群を比較している。無増悪生存期間(治療開始から治療中・治療後に原疾患の増悪も死亡も起きない期間)はオラパリブ投与群で有意に延長し、BRCA1/2遺伝子の生殖細胞系列変異を認める患者ではその差が広がった。さらにオラパリブの効果は、BRCA1/2遺伝子の生殖細胞系列変異がない患者でも認められた(Ledermann et al. Lancet Oncol 2014)。

 この試験では、BRCA1/2遺伝子の生殖細胞系列変異の有無にかかわらず、オラパリブの効果が得られたことになる。その点について榎本氏は「PARP阻害薬は、BRCA1/2遺伝子の生殖細胞系列変異を有している卵巣がんだけでなく、BRCA1/2遺伝子を含めた相同組換え修復機構に関連した遺伝子群の体細胞変異を有する症例にも、効果が高い可能性があるため」と説明した。

 相同組換え修復異常(Homologous Recombination Deficiency, HRD)は、高異型度漿液性卵巣がんの約50%に認められることが報告されている(TCGA Research Network, Nature 2011)。榎本氏らが新潟大学で行った卵巣がん患者210人の後向きの検討でも、HRDは約50%で起こる可能性があると考えられる結果だった。

 さらに、プラチナ製剤感受性の再発高異型度漿液性卵巣がん患者を対象に、PARP阻害薬niraparibの維持療法を評価した第III相試験では、BRCA1/2遺伝子の生殖細胞系列変異がなくても、HRDがある場合はniraparibの効果が認められることが示されている(Mirza et al. NEJM 2016)。

 ただし、PARP阻害薬のうち、現在日本で承認されているのは、プラチナ感受性再発卵巣がんに対するオラパリブ(維持療法)のみである。榎本氏は「HRDが一つのキーワードとなる。HRDを評価することによってPARP阻害薬の効果を予測することができれば、今後、卵巣がんに対するプレシジョン・メディシンが浸透していくのではないか」と話した。卵巣がんにおけるHRDの頻度と臨床的意義を明らかにするため、榎本氏らは前向き観察研究(JGOG3025試験)を進めているところであり、患者の登録は順調に進んでいる。

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