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レポート

2018/4/9

日本胃癌学会総会の教育講演より

免疫チェックポイント阻害薬で変わる胃がんの薬物療法

森下紀代美=医学ライター

愛知県がんセンター中央病院薬物療法部部長・外来化学療法センター長の室圭氏

 免疫チェックポイント阻害薬の登場により、がん治療は大きく変わりつつある。ニボルマブは、最初に保険が適用された悪性黒色腫に続き、肺がん、腎がん、悪性リンパ腫、頭頸部がんも対象となった。胃がんでも、2017年9月、がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発胃がんの治療に保険が適用されることとなった。

 ただし、免疫チェックポイント阻害薬は、従来の抗がん剤や分子標的薬などとは異なる効果や副作用が現れることから、これまでとは違う認識を持つ必要がある。横浜市で開催された第90回日本胃癌学会総会の教育講演「よくわかる、胃がんと免疫」から、胃がん治療における免疫チェックポイント阻害薬について、愛知県がんセンター中央病院薬物療法部部長・外来化学療法センター長である室圭氏の解説を紹介する。

胃がんの3次治療で効果を示したニボルマブ

 がん細胞は、免疫による攻撃から逃れるためのさまざまな経路を持っている。その中心となっているのが「免疫チェックポイント」と呼ばれる部分で、T細胞のPD-1とがん細胞のPD-L1が結合する部分や、T細胞のCTLA-4とがん細胞のB7が結合する部分などが知られている。この部分を標的とする免疫チェックポイント阻害薬には、PD-1をブロックするニボルマブ、ペムブロリズマブ、PD-L1をブロックするアテゾリズマブ、CTLA-4をブロックするイピリムマブなどがあり、日本でも使用可能になっている。

 今年1月に発刊された「胃癌治療ガイドライン第5版」では、推奨される化学療法の項目に、3次治療としてイリノテカンとニボルマブが記載されている。ニボルマブの科学的根拠の高さはA「効果の推定値に強く確信がある」とされ、イリノテカンのBよりも高い位置づけとなっている。

 ニボルマブが推奨される根拠となったのが、日本、台湾、韓国が参加したATTRACTION-2試験だ。室氏は同試験を含む、多くの臨床試験に関わっている。

 ATTRACTION-2試験の対象は、切除不能進行・再発胃がんまたは胃食道接合部がんで、2つ以上の化学療法が無効となった患者、または副作用などで続けられなくなった患者だった。ほとんどの患者がすでに複数の治療を受けており、臨床ではこれ以上治療法がないと考えられるケースだった。ニボルマブが3次治療(3つ目の薬物治療)として投与された患者は2割以下で、ほとんどの患者は4次治療、または5次治療以降の治療として投与された。

 ニボルマブを投与する群(ニボルマブ群)とプラセボを投与する群(プラセボ群)を比較したところ、ニボルマブ群では全生存期間(治療開始から生存していた期間)が統計学的に有意に延長し、死亡のリスクが37%低下することがわかった。ニボルマブの効果は、国や年齢、胃切除術の有無などに関わらず、一致して認められた(YK Kang, et al. Lancet 2017)。

 ニボルマブ群では、無増悪生存期間(治療開始から治療中・治療後に原疾患の増悪も死亡も起きない期間)も有意に延長し、原疾患の増悪が起こるリスクは40%低下した。奏効率(治療でがんが縮小または消滅した割合)は、ニボルマブ群11.2%、プラセボ群0%となった。室氏は「患者の状況を考えると、これだけの奏効率を出せる胃がんの薬は他にはない」とした。

 一部の患者では治療前に生検を行い、PD-L1の陽性(1%以上に発現)と陰性(1%未満)に分けて効果の検討も行われたが、どちらの場合も効果は同様に得られることがわかった。

 ただし、患者の約半数は、最初に効果を評価する時点ですでにがんが増悪しており、ニボルマブが効かないことが治療前にわかっていれば、不要な治療を回避できた可能性があった。ニボルマブが登場した当初から免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測する指標の必要性は指摘されていたが、この臨床試験でも再確認される形となった。

 一方、日本では胃がんには保険適用されていないが、ペムブロリズマブは米国ではPD-L1陽性の胃がん患者を対象に、3次治療以降の治療として承認されている。

 米国で行われた臨床試験では、ATTRACTION-02試験とほぼ同様の患者を対象に、3次治療以降の治療としてペムブロリズマブが投与され、PD-L1陽性の患者とPD-L1陰性の患者の比較が行われた結果、奏効率、全生存期間、無増悪生存期間はいずれもPD-L1陽性例で良好となった。

 現在、胃がんの治療にPD-1をブロックする薬が使用できるのは、世界でも日本と米国のみである。

より早い段階での使用や分子標的薬との併用も検討

 ニボルマブとペムブロリズマブは、最初から使用する1次治療としての検討が現在進行中で、その結果が待たれている。さらにニボルマブとイピリムマブの併用療法も、1次治療としての検討が行われている。

 また、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用も注目されている。分子標的薬の中で特に期待されているのが血管新生阻害薬だ。血管新生とは、傷が治る過程やがんなどでみられる、組織に酸素や栄養素を取り込むために新しい血管を形成すること。この血管新生で重要な役割を担うVEGF(血管内皮細胞成長因子)は、がんを認識して攻撃しようとするT細胞の働きを抑制するとみられている。基礎研究では、VEGFをブロックすれば、がんの血管新生が抑えられ、免疫環境を改善する効果が期待できることが報告されている(Voron T, et al. J Exp Med 2015)。

 現在、さまざまながんを対象に、血管新生阻害薬のラムシルマブとペムブロリズマブとの併用が検討されている。また日本では、ラムシルマブとニボルマブの併用、パクリタキセルとラムシルマブとニボルマブの併用が検討されている。ただし効果が期待される反面、毒性も増加する可能性がある。特に注意が必要になるのは免疫関連有害事象で、これは治療で活性化された免疫系ががん細胞だけでなく正常細胞も攻撃することで起こる。

免疫チェックポイント阻害薬投与後の抗がん剤投与が有望

 昨年話題になったのが、米国においてペムブロリズマブが、がんの原発部位ではなく、遺伝的特性であるMSI-H(マイクロサテライト不安定性陽性)またはdMMR(DNAミスマッチ修復機構欠損)の固形がんを対象に承認されたことだった。MSI(マイクロサテライト不安定性)は、がんが発生する素地となる遺伝子の傷を修復する機構に欠損があること、dMMRは遺伝子の傷を修復する機構の1つであるDNAミスマッチ修復機構が欠損していることを指す。

 米国からの最近の報告では、MSI-Hのがんは化学療法では効果が得られず、免疫チェックポイント阻害薬の成績が良好であることが示され(Janjigian YY, et al. Cancer Discovery 2018)、治療戦略を立てるうえで発想の転換が必要であることが示唆された。米国のNCCNガイドラインでは、胃がんの中でMSI-HまたはdMMRのがんに限り、本来は3次治療以降での使用が承認されているペムブロリズマブについて、2次治療で使うことを推奨している。

 また、免疫チェックポイント阻害薬の投与後に抗がん剤を投与すると、効果が上がる可能性も報告されている。肺がんの過去のデータの検討では、免疫チェックポイント阻害薬を投与する前に抗がん剤を投与した場合と比べて、奏効率が上昇することが認められた(Schvartsman G, et al. Lung Cancer 2017;Park SE, et al. J Thorac Oncol.2018)。

 この可能性について、室氏らも愛知県がんセンター中央病院で過去の治験のデータの検討を行っている。胃がんの3次治療以降の治療として、免疫チェックポイント阻害薬を投与した後に抗がん剤を投与し、評価が行えた16人と、免疫チェックポイント阻害薬が投与されていない状態で3次治療として抗がん剤を投与した86人を比較した(K Kato, et al. ASCO-GI 2018)。

 免疫チェックポイント阻害薬が投与された16人は、すでに多くの治療が行われており、通常では抗がん剤の効果は期待できない患者だったが、奏効率は38%と高い数字となった。免疫チェックポイント阻害薬が投与されていない状態で抗がん剤が投与された86人の奏効率は10%だった。全生存期間などでも同様の傾向がみられ、一方で毒性の増強はみられなかった。室氏は「何かしらの免疫が作用し、抗がん剤の感受性を変えている可能性がある」とし、今後、前向き観察研究として全国規模で検討していくことを計画している。

 胃がん治療の成績をより改善するため、現在もさまざまな免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験が行われており、その結果が待たれる。

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