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レポート

2018/4/2

イギリスの驚きの「国民による病院格付け評価」

病院選びは治療成績だけが重要ではない

福原麻希=医療ジャーナリスト(西田匡吾=翻訳協力)

がんと診断されたとき、病院選びはとても気になる。日本では、様々な雑誌や書籍などで独自の基準でランク付けした病院ランキングが発表されているが、イギリスでは国営の医療事業機関がサイトを運営し、国民が口コミで感想を書き入れ、様々な項目について星の数で評価している。昨年12月、大阪国際がんセンターで開催された「がん患者学会2017」のプログラムから「英国における病院評価の事例紹介(全国がん患者団体連合会、および、日本がん登録協議会との共催)」の内容を、独自取材とともに紹介する。


 イギリスの医療は保健省のもと、国営のNHS(National Health Service、国民保健サービス)によって運営されている。NHSは健康・医療に関する事業を提供する組織機関で、その財源はほぼ公費でまかなわれる。このため、国民は薬や歯科等を除き、無料で医療を受けられる。NHSはイングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランド、それぞれに設立され、本稿はそのうちの1つ、NHSイングランドについて紹介する。

患者が病院を格付けし、口コミ情報を書き込める
 日本では体調が悪くなったとき、全国どこの病院でも自由に診察を受けられるが、イギリスではまずGP(General Practitioner、総合診療医、かかりつけ医)に診てもらう。GPの診断のもと、必要に応じて専門医を紹介してもらうという仕組みだ。

 国民は、あらかじめ住まいの地域のGPを登録しておかなければならない。自分の地域にどんな病院や診療所があるかは、「NHS choices」という健康や医療に関する情報が掲載されたウェブサイトで検索できる。
https://www.nhs.uk/pages/home.aspx

 ウェブサイトにポストコード(郵便番号)を入れると、いろいろな情報を見ることができる。試しに、オックスフォードのポストコード「OX12JD」を入れてみよう。左側にあるTopicsの欄にKey Facts(主要項目)、ソート(Sort by)の欄にNearest(最寄り)を選ぶと、付近の病院のリストが表示される。評価項目は「NHS choicesユーザーの格付け(星は5段階)」のほか、次の項目が並ぶ。
▽登録患者数▽この病院の診療を勧めるか
▽Electronic Prescription Service(病院から薬局にメールで薬の処方箋を送るサービス) に対応しているか
▽平日の夕方、および、週末の予約は可能か
▽診療予約はオンラインでできるか
▽薬の処方箋を送るとき、くり返しオンラインを使うか
の7項目が出てくる。

(画像をクリックすると拡大します)

 評価は項目ごとに”Among the best””OK””Yes”などのアイコンで表示される。病院の総合評価の星の数には「何人からの評価によるものか」がわかるよう、投票数も記載されている。それぞれの病院や診療所の名前をクリックすると、特徴や診療概要(診察時間帯、医師の名前等)、施設設備(チャイルドルームや駐車場の有無、障害者向けサービス)等のほか、どんな医療サービスを提供しているか紹介される。

 さらに、先ほどの「ユーザーによる格付け機能」の評価が詳しく表示される。評価項目は(1)予約したいときにできましたか(2)スタッフの対応には敬意や尊重が感じられましたか(3)治療を決めるとき、あなたの意思は尊重されましたか(4)治療は迅速で、最新情報を提供してくれましたか、などが並ぶ。

 ユーザーが自由に口コミ情報を書き込む欄もある。名前入りで「夫がこの診療所で治療を受けたが、スタッフの対応がすばらしく満足している」という感謝のコメントがあれば、匿名で「医師が話を聞いてくれず、適切な診断を受けられずがっかりした」という内容も見られた。一つ星の投稿には「私たちがNHSの資源をどのように使うべきか、私たち全員が考えていかなければなりません」という非常に辛辣な言葉も書かれている。それらの口コミに対して、病院から返事が付されている場合もあれば、何も書き込まれていないこともある。

(画像をクリックすると拡大します)

市民による格付け評価で、医療だけでなく教育の質の向上も狙う
 このサイトは、2009年、当時の保健大臣が「NHSも『トリップアドバイザー』を見習って、患者による病院の格付けをしていこう」と提案して始まった。「トリップアドバイザー」とは、ホテルやレストラン等に対する利用者の口コミ情報による格付けサイトだ。

 なぜ国は積極的に、このような事業に取り組むのだろうか。大阪国際がんセンターがん対策センター政策情報部の森島敏隆さんは、2014年イギリスに滞在していた経験から、こう説明する。「政府が国営機関のNHSを通して、国民に対する説明責任で実施しています。このサイトの特徴は、解釈が難しくなる数値はできるだけ表示せず、市民が誰でも視覚的に理解しやすいように工夫されていることです」

 イギリスではほとんどの専門病院と診療所はNHSの管轄下にあり、国から独立して運営されている民間病院は少ない。このため、かつては病院間の競争意識はなく、医療設備の老朽化、非効率的な病院経営、慢性的な医師不足による医療の質の低下で、国民からの評判が悪かった。特に、患者の一番の不満は待ち時間の長さで、「受診するために数カ月待たなくてはならなかった」という話はよく知られている。

 そこで1990年代後半、ブレア政権時代にNHSの予算が増加され、大規模な医療改革が実施された。医療スタッフの給与が上がり、病院の待機期間が短縮されるようになり、医療の質と安全性が向上した。この頃から、病院の情報公開も進められた。当初は病院の治療成績が棒グラフで発表された。

 だが、市民からも医療者からも「スポーツの順位表のようだ」「静止画(その時点でのグラフ)は病院の状況をすべて反映しているわけではない」などの批判が集まった。そこで、行政や病院関係者向けに、治療成績が明らかにおかしい病院だけをピックアップできるFunnel Plot(*)と呼ばれるグラフで表示したところ、病院間が比較されなくなった。

*:Funnel Plot(漏斗プロット)についてはこちらを参照
「病院別の「生存率ランキング」、病院選びに役立たない理由は?」図4参照

 国民が勝手に口コミで評価し、星で格付けしても、混乱を招かないのだろうか?森島さんは「そんな話は聞いたことがないですね。評価がよい病院に患者が殺到するという話もないです。イギリスでは治療成績のよい病院にばかり患者が集まるわけではなく、いろいろな側面から病院を選んでいるように感じました」と言う。

 国民の率直な評価は病院の痛いところを突き、改善に活かされている例もあるという。

 例えば、「いまは、がんの治療の場合は診断後62日以内、つまり2カ月以内に治療を開始することがルール(目標)になっていて、7、8割の患者がクリアできるようになりました」と森島さんは言う。

 実は、イギリスでは、学校も実名入りの評価が政府のホームページで公開されている。国公立だけでなく、民間の小中学校・高校の生徒の学力が紹介されている。

 小学校の場合は「読解や数学の平均点」、中学校の場合は「英語と数学の統一試験の上位レベルの割合」、高校の場合は「大学入学に必要な試験の優秀者の割合」などだ。このほか、「成績改善や課題解決への取り組み」「欠席率の高さ」なども評価項目にあがっている。

 つまり、国民が日常生活のなかで、政府や公共機関に対する意見を持てるような仕組みが随所に取り入れられている。

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