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レポート

2018/3/26

ロボット手術が複数のがんで保険適用に Vol.2

胃がんでは先進医療で精度が高く安全な手術を証明

森下紀代美=医学ライター

 ロボット支援下内視鏡手術(通称:ロボット手術)とは、内視鏡下手術用ロボット「ダヴィンチ」を用いて行う腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術のこと。ロボット手術には、これまで行われてきた手術の安全性をより高めることが期待されている。すでに前立腺がんと腎がんのロボット手術には健康保険が適用(保険適用)されているが、その他のがんはこれまで対象となっていなかった。

 しかし、2018年4月から状況は大きく変わる。胃がんや食道がんの手術を含む、12術式のロボット手術が新たに保険適用となるためだ。2009年1月から胃がんと食道がんでロボット手術を開始し、胃がん手術では保険適用のための先進医療を主導してきた藤田保健衛生大学医学部総合消化器外科学講座主任教授の宇山一朗氏に、ロボット手術が導入された背景と現状、病院を選ぶポイントなどを聞いた。2回目の今回は、胃癌のロボット手術に関して、先進医療として行われた臨床試験を中心に紹介する。


世界初、臨床試験でロボット手術が合併症を減らすことを示す
 新しい手術や薬剤が保険適用されるためには、既存の手術や薬剤と比べて有効性と安全性が同等、または優れることを示す必要がある。そのための方法の1つに臨床試験があり、中でも無作為化比較試験(RCT)は科学的根拠(エビデンス)のレベルが高いとされる。

 しかし、薬剤と異なり、手術のRCTには大きな課題がある。手術を行う医師(術者)による差、患者による差があり、全く同じ手術は1つとして存在しないことだ。さらに、薬剤の臨床試験では、主観に基づく結果の偏りを取り除くため、参加する患者や医師などに治療法の割り付けを知らせない「盲検化」が行われるが、手術ではできない。そのため、新しい手術で保険適用を目指す場合は、有効性や安全性を示すためにさまざまな工夫が行われている。

 宇山氏らが先進医療として行った臨床試験もその1つで、目的は、胃がんではロボット手術が腹腔鏡下手術よりも優れていることを証明することだった。

 胃がんに対するロボット手術の安全性については、これまでにも過去のデータからの報告や、腹腔鏡下手術と比べて出血量が減少するといった報告はあったが、エビデンスのレベルは十分とは言えなかった。宇山氏らが行った臨床試験は立案から始まり、患者を登録してロボット手術を行い、その結果についてデータを集めて解析したもので、RCTではないものの、一定のレベルのエビデンスとなった。この臨床試験は、腹腔鏡下手術と比べてロボット手術が術後合併症を減らすことを示した世界初の試験となった。

 臨床試験の対象は、内視鏡では切除できないと判断されたI期またはII期の胃がん患者。胃の入口側を切除する「噴門側胃切除術」、胃の出口側を切除する「幽門側胃切除術」、胃をすべて切除する「胃全摘術」のいずれかにより、根治手術が可能なこととされた。2014年から2年をかけて、日本の15施設から330例が登録された。

 この臨床試験ではまず、当初から参加を予定していた3施設(藤田保健衛生大学病院、京都大学医学部附属病院、佐賀大学医学部附属病院)の過去のデータを再調査した。腹腔鏡下手術を行ったI期またはII期に該当する801例について、世界で広く使用されている術後合併症の規準を用いて評価したところ、入院期間の延長につながるグレード3以上の術後合併症は6.4%に発生していた。宇山氏らは、ロボット手術ではこの値を半分以下にできるとする仮説を立て、比較した。

 その結果、ロボット手術では、グレード3以上の術後合併症の発生率は2.45%、p=0.0018となり、統計学的に有意に低い値となった。ロボット手術は腹腔鏡下手術と比べて、安全性で優れることが示された。

 この試験では3年間の経過観察が予定されている。今後、術後3年間の無再発生存期間(再発せずに生存している期間)、QOL、医療費などが評価され、報告される予定である。

手術の精度と安全性を高めるロボット手術
 宇山氏は、「ロボット手術の良さが得られるのは、より進行した症例や難易度が高い手術」だと話す。

 藤田保健衛生大学病院で行われた手術のデータからは、I期の早期がんで、胃がん手術では最も簡単な幽門側胃切除術が行われた症例では、ロボット手術と腹腔鏡下手術の安全性にはほとんど差がないことがわかった。腹腔鏡下手術の十分な実績があり、ロボット手術と同等の安全性が確保できている専門施設では、患者に両方の手術を選択肢として提示できると考えられる。

 また、癒着が激しいような場合は、ロボット手術よりも腹腔鏡下手術の方が癒着を剥がす操作などがしやすいという。これはダヴィンチの構造によるもので、アームにより手前側の操作がやりにくいケースがあるためだ。

 宇山氏は「ロボット手術は、手術が不可能なものを可能にするわけではない。しかし、腹腔鏡下手術では治療成績が安定しない手術や重い合併症を起こすような手術でも、ロボット手術では安全に行うことができる。手術の精度、安全性を高めることがロボット手術の最大の目的」と話した。

 今回の臨床試験に参加したのは下記の15施設。臨床試験に参加するためには、ロボット手術による胃切除術を20例以上行っており、そのうち5例は胃全摘術であること、過去4年間に胃がんに対する腹腔鏡下手術を50例以上行った実績があること、過去4年間の胃がんに対する腹腔鏡下手術でグレード3以上の合併症発生率が12%以下であることなど、厳しい条件が課せられた。

 4月からロボット手術に健康保険が適用されれば、全国の多くの施設でロボット手術が実施されると予想される。安全にロボット手術が普及するよう、厚生労働省は施設基準を定めており、その基準を満たす施設が届出をし、審査により認められれば、その施設でロボット手術を健康保険で行うことができる。施設基準には、ロボット手術で胃切除術、噴門側胃切除術、胃全摘術を術者として10例以上行った常勤の医師がいること、開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット手術で上記の胃の手術を年間50例以上行っており、そのうち腹腔鏡手術またはロボット手術を年間20例以上行っていることなどが含まれている。

 宇山氏らは、今後は全国で行われるロボット手術のデータを集め、安全に行われているかの把握に努めるとともに、今回健康保険が適用とならなかったがんについても、保険適用を目指していくという。


先進医療の臨床試験に参加した15施設

○国際医療福祉大学病院(栃木県)
○埼玉県立がんセンター(埼玉県)
○国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院(千葉県)
○社会福祉法人恩賜財団済生会横浜市東部病院(神奈川県)
○新潟市民病院(新潟県)
○静岡県立静岡がんセンター(静岡県)
○浜松医科大学医学部附属病院(静岡県)
○藤田保健衛生大学病院(愛知県)
○大津市民病院(滋賀県)
○京都市立病院(京都府)
○京都大学医学部附属病院(京都府)
○地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター(大阪府)
○大阪大学医学部附属病院(大阪府)
○愛媛大学医学部附属病院(愛媛県)
○佐賀大学医学部附属病院(佐賀県)

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