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レポート

2018/3/22

病院別の「生存率ランキング」、病院選びに役立たない理由は?

福原麻希=医療ジャーナリスト

 「施設別(病院別)の5年生存率」が公表されると、病院を比較するランキング記事を見かけることがある。しかし、「生存率」の数値には、いろいろな意味が含まれているため、単に数字を比較するだけでは正しく判断できない。生存率の算出根拠を理解した上で、判断材料にできるよう今回は「生存率を読み解くポイント」を紹介しよう。


がん患者学会2017の様子

 昨年12月、大阪国際がんセンターで「全国がん患者団体連合会(全がん連)」が主催する「がん患者学会2017」が開催された。本稿ではプログラムの中から、特にがん登録の意義を考えるために組まれた「施設別データを読み解くための統計の基礎知識」(全国がん登録協議会との共催)を取り上げる。

どの病院のどんな患者を対象とした調査か
 がんと診断されたら、一度は「生存率」をインターネットで検索してみるだろう。ネット上にはいろいろな調査の生存率が見られるが、同じ臓器のがんでも、数字だけの比較は意味がない。それぞれの調査には特徴や偏りがあり、生存率に影響をもたらしているからだ。

 そこで、大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部主任研究員の伊藤ゆりさんに、生存率を見るときは、どんなことをチェックして判断すればいいか教えてもらった。

●生存率を読み解く2つのポイント

 生存率:がんと診断された日から、一定期間(5年、10年)、生存している確率
 (参考:国立がん研究センターがん情報サービス)

1.【調査の母集団を確認する】どのような患者を対象にしているか。
(1)病院の種類は?
全国の病院すべてか。がんセンターやがん診療連携拠点病院、小児がん拠点病院か、それ以外の病院か。自由診療のクリニックか。

(2)どの臓器のどんなタイプのがんで、患者はどのような状態か?
がんの種類、性別、年齢層別、ステージ(進行度)別、がん細胞の組織型(タイプ)別、どんな治療を受けたか、治療後の合併症はあったかなど。

2.【数値の信頼性を読み解く】データの精度は?生存率は数字が高ければいいのか

(3)生存確認の方法は?
・来院した患者の情報か、厚生労働省の人口動態調査による死亡情報との照合か、住民票(住基ネット)で死亡確認したか。

(4)調査対象の人数が多い方が信頼度は高い。それはどうしてか?

 前掲の「生存率を読み解く2つのポイント」を、それぞれ詳しく説明しよう。

 まず、1の「調査の母集団を確認する」とは、母集団(調査対象者、ここでは「がんと診断された人」)が、どのような患者かチェックすることを意味する。確認すべきことは「どんな病院(あるいは、診療所・クリニック)で治療を受けているか」「どのような病態の患者か」の2点という。

 がんの生存率の場合、がん登録のデータベースによる解析結果が一番信頼性は高い。がん登録とは、がんの診断・治療・経過などに関する情報を集め、保管・整理・解析するしくみ。目的は、がん診療の現状を把握し、国や都道府県のがん対策の基本方針と目標、および重点的に取り組むべき課題を抽出することだ。

 このがん登録には、病院で診断・治療を受けたことで登録される「院内がん登録」、院内がん登録情報を都道府県ごとに集める「地域がん登録」、学会や研究会が中心となり、所属する医師が勤務先病院から情報を集める「臓器別がん登録」の3種類がある。

 2016年から「がん登録推進法」の成立によって、「地域がん登録」は「全国がん登録」となり、日本国内でがんと診断された人全員から登録データを集められるようになった。データ整理時、同じ患者を複数件、登録することのないよう、がんに関する情報とともに、姓名や性別、生年月日、住所なども集められている。これらは個人情報だが、国際標準として患者・家族が手続きしたり、同意を取ることなく、病院内で登録されている。最終的に国立がん研究センターで統合化され、分析に用いられている。

 このがん登録の解析結果が、以下の3種類の生存率になる。

【信頼できる生存率に関する情報】
●地域がん登録によるがん生存率データ:全国がん罹患モニタリング集計 2006-2008年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2016)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html

●がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計報告書
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/hosp_c_reg_surv.html

●全国がんセンター協議会(部位別・病期別・がんサバイバー・性別・年齢別の5年および10年生存率)
https://kapweb.chiba-cancer-registry.org

 近年、がんの診断や初期治療を受けるときは、診療ガイドラインにのっとった治療を受けられるよう、各都道府県のがんセンターやがん診療連携拠点病院へ紹介されることが多い。がんセンターや都道府県のがん診療連携拠点病院は、専門的ながん医療が提供できると認定されている(*1)。このため、それ以外の病院と比べて生存率が高くなりやすい。

 これは、日本全国の病院で実施されているがん医療全体の現状を反映しているわけではないため、「偏りのあるデータ(バイアスがかかっている)」となる。しかし、偏りのあるデータで算出された生存率が間違いというわけではない。データの分析方法が正しく、利用者がその偏りを理解したうえで、数値の意味を解釈すればよい。

*1)認定要件:診療に必要な検査機器の設備、職員配置、標準治療が提供できる体制、緩和ケアが提供できる体制、地域の医療機関との連携、セカンドオピニオン提供体制、がん患者からの相談に対応する体制、診療実績、院内がん登録体制の整備等。

(2)の調査対象者の病態を確認することも大切になる。病態とは、がんの種類だけでなく、ステージ(がんの進行度)・年齢層・合併症の有無などを指し、これらも生存率に大きな影響をもたらす。

 例えば、見つかったがんが臓器内にとどまっている、いわゆる早期がんの患者が多い病院は他院より生存率が高くなりやすい(図1)。一方、膵がんや肺がんのように予後が悪い、あるいは、進行したステージ(病期)の患者が多い病院は、他院より生存率が低くなる。大阪府内のがん診療連携拠点病院では「肺がんが局所内(肺の中だけ)にとどまる患者の割合は病院によって7.2%〜47.4%も開きがある」と伊藤さんは言う。これらは、生存率の数値に反映される。

図1 A、B、Cは病院を指す。大阪府内のがん診療連携拠点病院における生存率の折れ線グラフで差異が見られるのは、病院ごとに治療患者の進行度の割合が異なる(棒グラフ)からだ。(提供:伊藤ゆりさん、画像をクリックすると拡大します)

 また、一般的には、若年者のほうが高齢者より治療後の病状がいい。地域や病院により高齢者の比率は異なるため、これも生存率に大きく影響を及ぼす。このため、特に75歳以上の患者の割合がを調整した数値かどうか確認する。大阪府内のがん診療連携拠点病院の場合、75歳以上の肺がん患者の割合は14.5%〜33.3%と数値に2倍近くの開きがある。

 この生存率について、伊藤さんがそれぞれの調査の特徴を表にまとめているので紹介しよう(図2)。

図2 がんの生存率には、調査の目的ごとに特徴(偏り、バイアス)がある。(提供:伊藤ゆりさん、画像をクリックすると拡大します)

生存率で信頼性を見抜く2つのポイントは?
 2番目のポイントとなる「数値の信頼性を読み解く」では、データの精度の高さをチェックする。生存率の場合は「どのように生存確認をしているか」が非常に大切になる。

 生存率のなかには「病院に患者が来院したかどうか(最終来院日)」で生存率を算出していることもある。しかし、病院に来なくなった人は別の病院で診てもらっているかもしれないが、残念ながらもう亡くなっているかもしれない。これも生存率に影響する。

 地域がん登録や全国がん登録では厚生労働省の人口動態調査における死亡情報と照合することになっている。さらに、その方法だけでは確認が漏れる可能性があるため、例えば、大阪府などでは住基ネット(*2)による生存確認調査(予後調査)もしている。

 伊藤さんはこう説明する。「国内の研究によると、院内がん登録において、患者が来院したかどうかだけで生死状況を確認した場合、患者の3、4割は生死の確認ができませんでした。一方、人口動態調査における死亡情報および住民票(住基ネット)で予後調査をした場合、確認できなかった人は、ほぼゼロに近いことがわかっています。このため、しっかりと調べなかった調査では生存率が高くなり、一方、生存確認ができていない調査ほど生存率が低くなります(*3)」

 つまり、「どの時点で、どんな方法で予後調査をしたか」の説明がなくて生存率の記載だけをしているようなものは、その数値が信頼できるかどうかは疑わしいと言える。また、この生死確認の不明の割合が5%以下のデータは信頼性が高いとみなされる。

*2)住基ネット…住民基本台帳ネットワーク。住民票コードによって、全国で本人確認ができるシステム。
*3)木下洋子他. 癌の臨床. 2000. 46(10)1197-1203

病院別の生存率 数値が高い順に並べてはいけない理由
 さらに、調査対象となる患者数がどれくらいかという点も、統計分析における信頼性に影響する。例えば、「5年生存率60%(100人中60人)」「5年生存率60%(1万人中6000人)」では、どちらの調査の信頼性が高いだろうか?調査のデータ分析では、後者のように分母の人数が多ければ多いほど、数値の信頼性は高くなる。

 その理由を説明しよう。一般的に、統計解析(データ分析)では算出された数値には偶然性があるとみなされるため、「〇○以上〜〇○以下の範囲」と表現する。データ分析の結果が公表されるとき、しばしばセットで出てくる「95%信頼区間」とは、100回のうち95回の確率で算出される数値の範囲のことで、データの信頼性が高いことを示している。

 このとき、データの数(分母)が少ないと算出される数値にばらつきが大きくなり、信頼区間の幅(範囲)が広がる。一方、データの数が多くなると信頼区間の幅が狭くなるため、信頼性も高くなる。このため、分母は多い方がいい。

 ここで、施設別の生存率の説明に戻ろう。がん診療連携拠点病院の年間の治療患者数は大阪府の場合、平均値で474.5例(中央値*4は375.5例)。このうち、もっとも多い病院は1384例だが、もっとも少ない病院は42例だった。国内第二の都市の大阪府であっても、年間の治療患者数が500例未満の施設は7割にのぼる。

 施設別に生存率を算出するときは、さらに、がんの種類別やステージ別、年齢別に分けていくため、統計解析では人数が少ない。このため、大阪府では「施設別生存率」を算出するとき、「複数年の診断例を束ねて分析する」など工夫しているという。

 さらに、生存率の数値を高い順に並べると、どんな誤解が生じるか。

 図3のグラフではA〜Nまで14病院のなかで、5年相対生存率(*5)が一番高いのは90%のA病院に見える。だが、前述した「95%信頼区間」をグラフに書き加えると、実はC病院とD病院の95%信頼区間の幅は平均値を超えているため、平均値より高い、つまり、この生存率は「統計的に有意に平均値よりも高い(統計的に有意差がある、という言い方もする)」と言える。しかし、C病院とD病院の生存率のどちらが高いかまでは判断できない。わかることは、C病院のほうが95%信頼区間の幅が広いので、D病院より人数が少ないことぐらいだ。

図3 施設別5年生存率のグラフ(提供:伊藤ゆりさん、画像をクリックすると拡大します)

 一方、M病院とN病院は生存率が同じ38%だが、M病院は信頼区間がとても広いため、少ない人数で算出されていることがわかる。この場合、平均値より高いとも低いとも判断できない。N病院の場合は、95%信頼区間が狭く、平均より低いため、統計的には有意に生存率が低いと言える。

 伊藤さんは「メディアはよく『病院別の生存率のランキング』を作っていますが、単純な病院間の生存率の数値の比較だけでは、どちらの病院のほうがいいか、悪いかはとても判断できません。間違った情報につながりかねない」と警告する。

 海外では、この生存率を「ファンネル・プロット(*6)」で表わしている(図4参照)。棒グラフでは、95%信頼区間を加えていても、ランキングのように意識されてしまい、誤解を生みやすい。このファンネル・プロットというグラフでは縦軸は14病院における5年生存率の高さ、横軸には患者数を置く。グラフの読み方は、平均値の60%を示す真ん中の線の上下に95%信頼区間を示す曲線があるが、この上側の曲線の外に点があるCとD病院は「統計的に有意に高い(平均値より数値が高い)」 。一方、N病院は下側の曲線のさらに下にあるため「統計的に有意に低い(平均値より数値が低い)」ことが一目でわかる。

図4 各施設の5年生存率をプロットしたファンネル・プロットグラフ(提供:伊藤ゆりさん、画像をクリックすると拡大します)

 「こうすれば、飛び抜けて数値が低い病院を見分けることができ、国や都道府県のがん対策に役立てることができます」と伊藤さんは提案する。
 
 このようにグラフやデータを見るときの知識を持っておけば、病院別の生存率の数値に一喜一憂することはなくなるだろう。


*4)中央値:データを小さい順に並べたとき、真ん中に来る数値のこと。7つのデータがある場合は、4番目の数値のことをいう。平均値とは異なる。
*5)相対生存率:死因に関係なく、全ての死亡を計算に含めた生存率(実測生存率)を調整し、がん以外で死亡したケースを除外した数値(デジタル大辞林)。
*6)Quaresma M. et al. Stat Med. 2014;33:1070‐80


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