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レポート

2018/3/15

がん研究会有明病院で「妊孕性温存ワーキンググループ」が始動(Vol.2)

妊孕性を守る方法があることを知ってほしい

森下紀代美=医学ライター

 妊孕性とは、「妊娠する力」のこと。卵巣や子宮、精巣にがんができてしまったら、手術で切除せざるを得ない場合があるし、こうした臓器以外のがんの場合でも、薬物療法や放射線療法を行うことでこれらの臓器に影響が及び、機能不全が生じたりする場合がある。そこで妊孕性を温存できる方法が開発されてきているが、日本では患者だけでなく、医療従事者の間でもまだ十分には認識されていないのが現状だ。こうした状況を改善するため、がん研究会有明病院の医師たちが立ち上げたのが、「妊孕性温存ワーキンググループ(WG)」だ。

 取り組みを紹介する第1回目では、発足の経緯と活動の様子を紹介した。第2回目となる今回は、同院のがん研チャイルド・ライフ・サポート(Ganken child life support:GCLS)研究会と妊孕性温存WGが共催した講演会「不妊治療技術を用いたがん患者のための妊孕能温存治療−卵巣凍結技術から子宮移植まで−」の内容を紹介する。


がん研究会有明病院婦人科副医長の青木洋一氏

 がん研究会有明病院婦人科副医長の青木洋一氏は、不妊症治療と婦人科疾患に対する腹腔鏡手術の豊富な経験から、生殖補助医療のがん患者への応用について解説した。

 生殖補助医療とは、体外で卵子や精子、受精卵を取り扱い、妊娠につなげる医療技術のこと。体外受精もその一つだ。これまでは主に不妊症に悩む人を対象として様々な取り組みが行われてきたが、現在ではがん患者の妊孕性温存にも重要な役割を果たすようになってきた。

 不妊症と同様に、将来子どもを持ちたいと希望する女性がん患者に、受精卵または卵子(未受精卵)を凍結して保存しておくという方法がある。どちらもがん治療を開始する前に行う必要がある。この方法では、患者にパートナーがいる場合は、卵子を採取(採卵)してパートナーの精子と体外受精を行い、受精卵を凍結保存しておく。がん治療が終わって妊娠・出産が可能な状態になったら、この受精卵を融解して子宮内に戻せば、妊娠・出産が期待できる。がんの診断を受けた時点でパートナーがいない場合は、採卵した未受精卵を凍結保存しておく。この場合も、がん治療が終わり、パートナーとの子どもを望む時がきたら、未受精卵を融解してパートナーの精子との体外受精を行ってから移植する。

 一般的な不妊症のための不妊治療では、採卵と体外受精を行って得られた受精卵の移植を同じ月経周期の中で行ってきた。ただし、体外受精には多くの卵子を必要とするため、排卵誘発剤で卵巣を刺激し、一度に多数の卵子を得る必要がある。これは卵巣にとって大きなストレスとなり、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)となってしまうことがある。OHSSでは卵巣の膨れや腹水の貯留などが起こることにより、腹部の張りや吐き気、尿量の減少などの症状が起こる。この状態で受精卵を移植すると、血液が濃縮し、脳梗塞や心筋梗塞など、深刻な合併症が起こる可能性があることが課題とされていた。

 そこで開発されたのが、採卵する周期と受精卵の移植を行う時期を別に分ける方法だ。採卵後、いったん受精卵を凍結しておき、卵巣と子宮を休ませる期間を設け、ストレスを軽くしてから、別の周期に受精卵を移植する。受精卵の凍結保存期間は、1カ月から数年まで問題なく行えることが明らかになっている。この方法とOHSSの予防対策を適切に行うことにより、OHSSの発生は減少し、深刻な合併症も減らすことができるようになった。

 これらの方法を応用することで、がん患者は凍結保存期間にがん治療を受けることができるようになった。がん治療で卵巣がダメージを受ける前に、あるいは乳がんのホルモン療法のように治療に何年もかかる場合はより若い年齢の時に、卵子を体外に避難させることが可能になった。

 ただし、がん患者の卵子凍結には課題もある。一つは、採卵のために排卵誘発剤を使う以上、一般的な不妊症の不妊治療と同様にOHSSが起こる可能性があることだ。また採卵は月経周期に依存するため、十分な卵子を保存するには複数回の採卵が必要になり、4〜6カ月かかり、がん治療の開始が遅れるリスクがある。さらに体外受精であるため、自然妊娠はできない。

 そこで開発されたのが「卵巣組織凍結保存」という方法だ。卵巣組織の中には、卵子のもととなる卵母細胞が数千個含まれている。卵巣組織の採取は月経周期に依存せず、いつでも行うことができるため、がん治療を遅らせる心配がない。海外では、凍結保存しておいた卵巣組織をがん治療終了後に体内に戻し(移植)、自然妊娠に至ったケースも報告されている。「がん患者さんには、卵子凍結よりも卵巣組織凍結保存のほうが有益な可能性がある」と青木氏。

 ただし、卵巣組織凍結保存はまだ新しい技術で、実施できる施設は限られる。がんの種類によっては、移植する組織に腫瘍細胞が含まれている可能性もある。さらに、卵巣組織の採取と移植には手術が必要であり、採卵と比べると患者の身体的な負担は大きい。そのため青木氏が以前所属していた施設では、患者の身体的な負担を軽減するため、腹腔鏡手術で採取と移植を行っていた。

 がん患者の妊孕性温存に関する指針として、日本癌治療学会が「小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2017年版」を発表している。青木氏は「妊娠可能な年齢のがん患者さんの治療をするときには、ガイドラインに沿って適切な説明をする必要がある」と話した。

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