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レポート

2018/2/26

前立腺癌の手術と放射線治療 第1回

高リスク前立腺癌に対する手術が増えて来た

手術支援ロボットが導入され精緻な手術が可能に

八倉巻尚子=医学ライター

大阪大学大学院医学系研究科泌尿器科学の野々村祝夫氏

 日本における前立腺癌患者は年々増加している。その一方で、前立腺癌に対する放射線治療の技術は近年、飛躍的に進歩し、治療効果が高く、より副作用や合併症のない照射方法の開発が行われている。また、手術もロボット支援下手術が行われるようになり、以前には難しいと思われた精度の高い手術も可能になりつつある。

 日本放射線腫瘍学会第30回学術大会(11月17-19日、大阪市)では、シンポジウム「最新エビデンスに基づく前立腺癌診療の現状と今後の展望」が開催され、前立腺癌治療の最新動向が報告された。このシンポジウムで紹介された、手術と放射線治療の最近の動向を3回に分けてレポートする。



 前立腺癌の治療は、癌の広がりによって分けられている。前立腺内に癌がとどまっている「限局性」前立腺癌や前立腺を覆っている被膜を越えて前立腺の外にも広がっている「局所進行」前立腺癌には、手術療法や放射線療法、内分泌療法(ホルモン療法)が治療の選択肢となる。リンパ節転移あるいは肺や骨など他の臓器への遠隔転移がある「転移性」前立腺癌にはホルモン療法や化学療法が行われる。

 転移がない前立腺癌においては、病期や腫瘍の悪性度(グリーソンスコア)、腫瘍マーカーの前立腺特異抗原(PSA)値から、再発率や予後を予測するリスク分類がなされている(低、中間、高など)。

 高リスク限局性前立腺癌に対しては、ホルモン療法を併用した放射線療法が主に行われていた。しかし「以前は手術は少なかったが、最近は増えている」と、大阪大学大学院医学系研究科泌尿器科学の野々村祝夫氏はいう。

 米国の2004年から2011年の癌登録データでは、高リスク患者では手術が増え、反対に放射線療法が減少していた(Ingimarsson JP, et al. Cancer Causes Control. 2015)。「おそらくこれはダ・ヴィンチという手術支援ロボットが導入され、それまでできなかった精緻な手術ができるようになったことが影響している可能性がある」。

 手術の長所は、手術で採取された検体を使った正確なステージング(病期分類)と病理診断が可能であること、高齢者が多い前立腺癌患者では前立腺肥大症を合併することが多く、それによる排尿障害など局所症状が手術で改善することである。また他の治療法との併用療法が可能で、それによって予後が改善する可能性があることや、転移をきたす癌細胞の供給源を除去することによる予後改善の可能性も挙げられる。一方、手術の短所としては、入院が必要で、侵襲性があること、また尿失禁や性機能障害といった合併症が起こりうることがある。

 これまで高リスク限局性前立腺癌に対して手術を行う場合にも手術単独では不十分で、手術前にホルモン療法が行われていた。術前ホルモン療法によって腫瘍が縮小して病期を下げること(ダウンステージング)ができ、無増悪生存期間(PFS)が改善する。しかし生存率の改善には寄与しないことが報告されるようになってからは、術前ホルモン療法はほとんど行われなくなった。ところが最近、化学療法薬のドセタキセルを併用した術前ホルモン化学療法が見直されるようになっている。

 国内外のデータで、ドセタキセル+ホルモン療法(アンドロゲン遮断療法:ADT)によって腫瘍は縮小し、手術時に摘除した標本に癌を認めなかった(病理学的完全奏効)ことも報告されている。ただし「それが予後の改善に役立つかどうかはランダム化試験の結果がでないとわからない」と野々村氏。現在、手術単独(根治的前立腺全摘除術)群と手術前にドセタキセルとホルモン療法薬を6コース行う群を比較する第III相試験が進行している(CALGB 90203)。2018年6月に試験は終了予定であり、その結果によって術前ホルモン化学療法が有用かどうかが明らかになる。

 「患者さんから、手術と放射線療法のどちらが良いかとよく聞かれるが、これはなかなか難しい質問で、はっきりと返事をすることができない」と野々村氏は述べた。というのも、高リスク前立腺癌に対して、手術と放射線療法を比較した前向きの研究やランダム化した試験がないこと、手術あるいは放射線療法へのホルモン治療の追加で予後が改善することや、術後補助療法の時期や種類により予後が変わるため、どちらが優れているかは明確でない。

 しかし大規模なデータベースを用いて、手術と放射線療法を比較した報告はいくつかある。米国の観察研究データベース(CaPSURE)から、手術、放射線療法、内分泌療法を受けた患者7538例を対象に、年齢とリスクで統計学的に調整して比較したところ、手術は放射線療法(外照射)やホルモン療法(ADT)よりも癌特異的死亡率が低いことが示されている(Cooperberg MR, et al. Cancer 2010)。なお放射線療法を受けた患者の50%はホルモン療法(ADT)も受けていた。

 米国の癌登録システム(SEER)のデータを用いた研究では、転移出現後の予後は手術(前立腺全摘除)群のほうが放射線療法群よりも良好だった(Shao YH, et al. Eur Urol 2014)。

 また転移がある前立腺癌でも前立腺を全摘したほうが予後は良いことが後ろ向きの研究で示されている(Gratzke C, et al. Eur Urol 2014)。

 手術と放射線療法に関する複数の試験の結果を統合的に分析するメタ解析も行われている。解析に用いられた試験はどれもランダム化試験ではなかったが、限局性癌もしくは局所進行癌における全生存および前立腺癌特異的死亡に関し、手術のほうが放射線療法よりも良い結果が得られている(Wallis C, et al. Eur Urol. 2016)。

 これらのことから野々村氏は、「高リスク前立腺癌に対する手術はやや見合わされてきた傾向にあるが、ロボット手術の普及などによって放射線療法に優るとも劣らない成績が得られるようになってきた」と述べた。

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