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レポート

2018/2/19

分子標的治療の現状は? 日本癌治療学会学術集会より その6

卵巣癌の治療はこの数年で大きく変わる

八倉巻尚子=医学ライター

 癌細胞の増殖や転移にかかわる特定の分子の機能を阻害する分子標的薬が癌の治療に導入されてから、15年以上が経過した。今ではさまざまな癌で標準治療の手段として使用されているが、癌の種類によってその位置づけは大きく異なる。標的となる分子が次々と見つかって治療薬の開発が進み、さらなる生存期間の延長を目指す癌もあれば、そうはいかずに分子標的薬よりも新たな免疫療法に期待を寄せる癌もある。

 10月20日から22日まで横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会では「分子標的治療で変わった癌治療」と題したシンポジウムが開催された(司会:熊本大学消化器外科教授の馬場秀夫氏、岡山大学呼吸器・乳腺内分泌外科教授の豊岡伸一氏)。このシンポジウムから、乳癌、肺癌、大腸癌、胃癌、腎細胞癌、婦人科癌それぞれにおける分子標的治療の動向と最近注目の免疫療法の開発状況について、6回シリーズで紹介する。
第6回目は婦人科癌。


 婦人科癌の治療は化学療法中心の状況が続いており、承認されている分子標的薬は現在1剤。腫瘍の血管新生を促す血管内皮細胞成長因子(VEGF)に対する抗体薬ベバシズマブのみである。しかし近年、新しいタイプの分子標的薬や免疫療法への期待が高まっている。

 婦人科腫瘍では、子宮体癌の罹患数が最も多く、死亡数は卵巣癌が最も多い。婦人科癌は化学療法のプラチナ系製剤、タキサン系製剤への感受性が強いことから、プラチナ系製剤とタキサン系製剤パクリタキセルの併用療法が標準的に用いられている。子宮頸癌ではプラチナ系製剤シスプラチンとパクリタキセルの併用療法(TP療法)に対し、別のプラチナ系製剤カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法(TC療法)の有効性は劣らないこと(非劣性)が証明されており、子宮体癌、卵巣癌でもTC療法が用いられている。

 ただし、「卵巣癌の治療を一括するのは間違いである」と岩手医科大学産婦人科教授の杉山徹氏は強調した。卵巣癌は組織学的に4種類の腺癌に分けられる。欧米では漿液性腺癌が多く、明細胞腺癌は5%程度だが、日本では明細胞腺癌が20%以上を占める。化学療法の効果も違い、漿液性腺癌、類内膜性腺癌は化学療法薬に比較的感受性が高いが、明細胞腺癌、粘膜性腺癌は感受性が低いといわれる。このため組織型を考慮した治療に移りつつあるという。

 卵巣癌の初回化学療法は、TC療法のほか、日本の試験(JGOG3016)でdose-dense TC療法(カルボプラチン+パクリタキセル週1回投与)が検証され、TC療法に比べ全生存期間(OS)を改善した。ところが今年発表された追試の結果ではOSに差がなく、「背景などが違うが、これをどう解析するか検討しているところである」と杉山氏は話した。

 化学療法の開発が続いていた婦人科癌であったが、「分子標的薬のベバシズマブが入ってきて、10数年ぶりに治療が動いてきた」。2013年に卵巣癌、2016年に子宮頸癌を適応にベバシズマブが承認されている。

 卵巣癌では、1次治療としてTC療法+ベバシズマブを検討した米国の臨床試験(GOG218)に、日本から婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)の医師主導試験として参加し、「TC療法単独に比べてベバシズマブ追加で無増悪生存期間(PFS)は4カ月弱延長する」ことが明らかになった。その結果に基づいて日本でベバシズマブが承認された。しかし日本人の登録は44例のみであったため、日本での詳細なデータが必要であり、TC療法+ベバシズマブの前向き観察研究(JGOG3022)が行われ、日本人でも安全に行うことができることが確認された。生存期間に関しては解析中で、来年の秋には発表される見込みだ。

PARP阻害剤などの新薬に期待
 これらのことから、卵巣癌の治療は、2013年以降、dose-dense TC療法、TC療法+ベバシズマブが行われるようになっている。さらに今後は癌抑制遺伝子のBRCA遺伝子に変異がある卵巣癌に対し、新しい分子標的薬のPARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)阻害薬olaparibが登場すると見られる。またPARP阻害薬niraparibではBRCA遺伝子変異の有無にかかわらず、PFSを改善することが臨床試験で示されている。

 再発卵巣癌に対する治療法の開発も進んでいる。プラチナ系製剤に感受性のある再発例では化学療法(カルボプラチン、ゲムシタビン)+ベバシズマブの試験(OCEANS)、プラチナ系製剤に抵抗性を示す再発例には化学療法単剤+ベバシズマブの試験(AURELIA)が行われ、化学療法単独に比べて有意なPFS延長が示されている。さらに増悪後の治療継続(beyond PD)について、ベバシズマブ既治療のプラチナ系製剤抵抗性の卵巣癌を対象に、化学療法単独と化学療法+ベバシズマブの比較試験が実施されている(JGOG3023)。

 また卵巣癌では新しい免疫療法である免疫チェックポイント阻害薬の開発も進んでおり、抗PD-1抗体ニボルマブ、ペムブロリズマブ、抗PD-L1抗体アベルマブ、atezolizumabが検討されている。

 子宮頸癌の化学療法も、シスプラチンを用いた併用療法の試験が行われ、米国ではシスプラチン+パクリタキセル(TP療法)が標準的に使われている。TP療法をベースにベバシズマブ上乗せの試験(GOG0240)が行われ、OSの有意な延長が示された。それにより「TP療法+ベバシズマブが世界のゴールドスタンダードになっている」。日本ではTP療法とTC療法の比較試験でPFS、OSに関し非劣性が認められ、「現在多くの施設でTC療法が行われている」とした。

 子宮体癌の術後補助療法は日本では化学療法(プラチナ系製剤、アントラサイクリン系製剤のドキソルビシン、タキサン系製剤)だが、欧米では放射線療法が用いられている。そのため「共同のグローバル試験が難しいところである」。術後補助療法としては、ドキソルビシン+シスプラチンに対して、TC療法、ドセタキセル+シスプラチンが比較され、生存期間に有意な違いはなかった(JGOG2043)。しかし3つの治療法の中では「ドセタキセル+シスプラチンが比較的良かったことから、今後ドセタキセル+シスプラチンも使われるようになるだろう」と杉山氏。なお、子宮体癌では承認された分子標的薬はないが、子宮平滑筋肉腫では血管新生を促す血管内皮成長因子受容体(VEGFR)などを阻害して腫瘍の成長を妨げるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)パゾパニブが使用されている。

 このように婦人科癌では使用されている分子標的薬は1剤のみだが、卵巣癌においてはPARP阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬の試験が進められており、「数年のうちに卵巣癌の薬物療法は大きく変化するだろう」と杉山氏は話した。

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