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レポート

2018/2/12

分子標的治療の現状は? 日本癌治療学会学術集会より その5

化学療法が効かない腎細胞癌の治療を劇的に変えたVEGFR-TKI治療

八倉巻尚子=医学ライター

 癌細胞の増殖や転移にかかわる特定の分子の機能を阻害する分子標的薬が癌の治療に導入されてから、15年以上が経過した。今ではさまざまな癌で標準治療の手段として使用されているが、癌の種類によってその位置づけは大きく異なる。標的となる分子が次々と見つかって治療薬の開発が進み、さらなる生存期間の延長を目指す癌もあれば、そうはいかずに分子標的薬よりも新たな免疫療法に期待を寄せる癌もある。

 10月20日から22日まで横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会では「分子標的治療で変わった癌治療」と題したシンポジウムが開催された(司会:熊本大学消化器外科教授の馬場秀夫氏、岡山大学呼吸器・乳腺内分泌外科教授の豊岡伸一氏)。このシンポジウムから、乳癌、肺癌、大腸癌、胃癌、腎細胞癌、婦人科癌それぞれにおける分子標的治療の動向と最近注目の免疫療法の開発状況について、6回シリーズで紹介する。
第5回目は腎癌。


 「腎細胞癌はほかの癌と違って化学療法がまったく効かない癌であったが、分子標的薬により腎細胞癌の治療は劇的に変わった」と、慶應義塾大学泌尿器科教授の大家基嗣氏は述べた。

 転移巣を伴う腎細胞癌に対しては約20年間インターフェロンαあるいはインターロイキン2を中心としたサイトカイン治療が広く行われてきたが、奏効率は10〜20%程度であった。2008年に血管新生を促す血管内皮成長因子受容体(VEGFR)などを阻害して腫瘍の成長を妨げるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)ソラフェニブとスニチニブが相次いで承認され、「転移性腎細胞癌の治療は分子標的薬の時代に突入した」。

 2010年には細胞増殖にかかわる分子であるmTORの阻害薬エベロリムス、テムシロリムスが承認され、2012年には新規VEGFR-TKIであるアキシチニブが、2014年には別のVEGFR-TKIであるパゾパニブが承認された。そして2016年、新たな免疫療法である免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブが腎細胞癌治療に加わった。

 腎癌において、発癌や癌細胞の増殖に直接関与する「ドライバー遺伝子」は腫瘍抑制遺伝子のVHL(von Hippel-Lindau)であり、腎細胞癌患者の多くにこの遺伝子の変異が認められる。変異によって遺伝子が不活性化すると、本来は低酸素下で癌が生き延びようとして産生するhypoxia-inducible factor(低酸素誘導因子:HIF)の恒常的な活性化が生じて、VEGFが誘導され血管が新生される。ソラフェニブ、スニチニブ、アキシチニブ、パゾパニブの4剤はVEGFRのチロシンキナーゼ活性を阻害することで、血管新生を抑制して抗癌作用を発揮する。腎細胞癌は血管新生が顕著であり、分子標的薬が腎細胞癌に効果を示す理由となっている。

分子標的薬の効果に関連する因子
 腎細胞癌の予後予測には近年、世界的な標準であるIMDC(International mRCC Database Consortium)予後リスク分類が用いられている。IMDC予後リスク分類は6つの予後因子(全身状態を評価するKarnofsky PS<80%、診断から治療開始までの期間が1年以内、ヘモグロビン値の低下、補正カルシウム値の上昇、好中球数の上昇、血小板数の上昇)の数によってfavorable、intermediate、poorの3つに分類される。

 大家氏の施設のデータでは、2002年にはfavorableリスク患者の全生存期間(OS)中央値は30カ月だったが、現在は約77カ月に、intermediateリスク患者は14カ月から41カ月、poorリスク患者では5カ月が13カ月になり、「分子標的薬で腎癌治療は変わった」ことを示している。

 なお、分子標的治療における無増悪生存期間(PFS)とOSは、高血圧の有無や下痢の有無、前治療期間の長さで異なることが報告されている。さらに大家氏らが臍高での内臓脂肪面積(100cm2以上、100cm2未満)で2群に分けた結果、内臓脂肪面積が大きい群のほうが分子標的薬によるPFSとOSは有意に良好であった(Mizuno R, et al. Med Oncol 2017;34:47)。このため大家氏は「内臓脂肪は分子標的薬の効果を予測する可能性がある」としている。

 また大家氏らは、治療開始前の臨床因子の中から好中球数とリンパ球数の比(NLR)を予後因子として用いてIMDC予後リスク分類を再検討したところ、より正確に3群が分けられることが示された(Tanaka N, et al. Urologic Oncology 2016; 35(2):39.e19-39.e28)。このため分子標的治療における予後には炎症が少なからず関わっている可能性が示唆された。

 一方、スニチニブ治療におけるバイオマーカーを調べる多施設共同前向き試験では、OSの独立した予測因子は治療開始前の免疫抑制細胞(MDSC)であることが示されている(Mizuno R, et al. Cancer Sci. 2017;108(9):1858-1863)。「免疫療法を行っていないにもかかわらず、免疫関連マーカーが予後因子になっていたことには驚いた」と大家氏。免疫には自然免疫と獲得免疫があり、MDSCのような「自然免疫系細胞が癌の微小環境で負の作用」をしていることから、今後は全身の免疫環境との関連を調べる必要があると話した。

 癌の特性として、自己増殖シグナル、抗腫瘍シグナル耐性、抗アポトーシス作用、無限自己複製能、血管新生、浸潤・転移能の6つが知られている(Hanahan D and Weinberg RA, Cell 2000)。さらに、エネルギー産出の異常、免疫システムから逃れる、染色体異常と不安定なゲノム、炎症という4つの特性も併せ持つ(Hanahan D and Weinberg RA, Cell 2011)。「腎癌において、これまでは“血管新生”が目立っていたが、“免疫”、“炎症”が腎癌のバイオロジーの本質だと考えている」と大家氏は述べ、免疫と炎症に関連した研究の重要性を強調した。

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