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レポート

2018/2/5

分子標的治療の現状は? 日本癌治療学会学術集会より その4

不均一性の強い胃癌では免疫療法を軸に治療法の開発続く

八倉巻尚子=医学ライター

 癌細胞の増殖や転移にかかわる特定の分子の機能を阻害する分子標的薬が癌の治療に導入されてから、15年以上が経過した。今ではさまざまな癌で標準治療の手段として使用されているが、癌の種類によってその位置づけは大きく異なる。標的となる分子が次々と見つかって治療薬の開発が進み、さらなる生存期間の延長を目指す癌もあれば、そうはいかずに分子標的薬よりも新たな免疫療法に期待を寄せる癌もある。

 10月20日から22日まで横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会では「分子標的治療で変わった癌治療」と題したシンポジウムが開催された(司会:熊本大学消化器外科教授の馬場秀夫氏、岡山大学呼吸器・乳腺内分泌外科教授の豊岡伸一氏)。このシンポジウムから、乳癌、肺癌、大腸癌、胃癌、腎細胞癌、婦人科癌それぞれにおける分子標的治療の動向と最近注目の免疫療法の開発状況について、6回シリーズで紹介する。
第4回目は胃癌。


 胃癌で承認されている分子標的薬は、細胞の増殖に関係する蛋白質HER2に対する抗体薬トラスツズマブと、腫瘍の血管新生を促す血管内皮細胞成長因子(VEGF)受容体に対する抗体薬ラムシルマブである。「ラムシルマブは従来の化学療法の感受性を上げるものであり、実際の意味での分子標的薬は最初に承認されたトラスツズマブだけである」。国立がん研究センター東病院先端医療科科長の土井俊彦氏はそう語った。

 トラスツズマブは、人を対象とした最初の臨床試験である第I相試験を世界に先駆けて日本で行い、第I相試験で決定した投与量で第II相試験が実施されて安全性と有効性が示された。さらに化学療法単独と化学療法+トラスツズマブを比較する第III相試験(ToGA)で、HER2が過剰に発現したHER2陽性の進行胃癌に対するトラスツズマブの有効性が証明されるに至った。

 その一方で、VEGFに対する抗体薬ベバシズマブでは、化学療法への上乗せ効果を検討した試験(AVAGAST)で有意な全生存期間(OS)の延長は見られず、胃癌ではその後、「新しい分子標的薬にめぐり合うことはなかった」(土井氏)。

 胃癌は肺癌と異なり、発癌や癌細胞の増殖に直接関係する「ドライバー遺伝子」変異が少なく、しかもさまざまなタイプの細胞が混在し、ヘテロジェナイティ(不均一性)が強いのが特徴である。特定の遺伝子変異をもつさまざまな種類の癌を対象とした「バスケット」デザインの試験に胃癌症例を登録して新薬の開発は行われているが、症例が少ないため企業主導の第III相試験は難しいという。

 そのため「患者由来の癌組織をマウスなどに移植したPDX(patient-derived xenograft)モデルや細胞モデルを確立して感受性の高い薬を見つけて、医師主導治験の体制を作り自分たちで試験を行っている」と土井氏。その成果の1つが化学療法薬のTAS-102である。TAS-102は大腸癌治療薬として使われているが、胃癌に対する日本の医師主導治験(IIT)データを基にした第III相試験が海外で実施され、「TAS-102は米国での承認を待っている状況である」。

 また抗HER2抗体とトポイソメラーゼI阻害薬を結合させた抗体薬物複合体(ADC)のDS8201が有望視されている。抗体に結合している化学療法薬が腫瘍細胞内で放出されHER2を発現している腫瘍を殺傷するが、さらに隣の腫瘍にまで化学療法薬が放出されるというバイスタンダー効果により、ヘテロジェナイティがある癌でも効果が期待されている。

免疫チェックポイント阻害薬が承認
 胃癌に対する分子標的薬の開発はこれまで「惨憺たるものだった」が、それにより変わった面もあったという。「日本において新薬開発の基盤が確立し、海外と共同したグローバルな開発が普通になったこと」。以前は海外で承認された薬がなかなか日本では承認されずに使えないというドラッグラグの問題があったが、「胃癌に関しては世界同時承認もしくは先行承認が得られるようになった」と土井氏は話す。

 そして2017年9月、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブの、化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発胃癌への適応拡大が承認された。これは第III相試験(ATTRACTION-2)で有望な結果が出たためで、奏効率は11%、OSは1.2カ月の差だが有意な延長が示された。また米国では同年9月に第III相試験(KEYNOTE-059)の結果に基づき、別の免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブが胃癌に承認されている。

 「胃癌でも免疫チェックポイント阻害薬という新しい治療薬が見つかったことから、これを基軸に開発が進められる」。すでにペムブロリズマブやニボルマブでは化学療法との併用療法の臨床試験が行われている。ただし、肺癌などでは免疫チェックポイント阻害薬を使った場合の生存曲線の低下が途中から横ばいになって生存期間が長い患者が存在することが示されているが、胃癌の生存曲線は徐々に落ちていくため、「肺癌と胃癌で免疫の状態が同じかどうかは検討する必要がある」(土井氏)とした。
 
 また「胃癌改造計画」も試みられているという。乳癌の動物モデルの研究ではDS8201と免疫チェックポイント阻害薬の併用でDS8201が免疫反応を高め、高い抗腫瘍効果が示されたことが報告されている。胃癌でも、「胃癌を免疫療法が効くような性格に変える」腫瘍溶解ウイルス製剤OBP-301とペムブロリズマブの併用療法の試験が進行しており、放射線療法との併用で免疫反応を高める試みも行われている。「免疫療法による新しい手段が増えたことで、胃癌治療の展開は今後変わってくるだろう」と土井氏。

 治療の選択肢が増え、胃癌の治療成績は“臨床研究”においては向上しているが、日常診療では高齢者、PS不良、合併症を伴う患者さんが多いため、臨床研究に基づく「標準治療の実臨床へのマッチングは課題である」とした。

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