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レポート

2018/1/31

治療の選び方(頭頸部がん) Vol.3

高齢者ががんになったとき

福原麻希=医療ジャーナリスト

 高齢のがん患者は増加しており、第55回日本癌治療学会学術集会ではシンポジウム「超高齢社会のがん治療」が組まれた。高齢者が罹患しやすいがんのうち、今回は頭頸部がんについての発表内容と独自の取材を組み合わせて、その考え方と事例を紹介する。


大阪府立病院機構大阪国際がんセンター頭頸部外科主任部長の藤井隆医師

のどのがんの治療で「食べる」か「話す」を選ぶとき
 口の中(口腔)および、のど(咽頭・喉頭)にがんができることがある。口の中とは、おもに舌、歯肉=歯茎、頬粘膜(きょうねんまく:頬の内側やくちびる等の粘膜)、口腔底(こうくうてい:舌と歯肉の間)、硬口蓋(こうこうがい:上あごの粘膜部分)等で、これらは食べ物を咀嚼するときに使われる。のどは上咽頭(じょういんとう)、中咽頭、下咽頭、喉頭(こうとう)に分かれ、呼吸と嚥下(えんげ:食べ物を飲み込むこと)の機能を持つ。喉頭は声帯を含むため、発声する機能も持つ。

 口腔がん、咽頭・喉頭がんの罹患者は65歳以上が多い。地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター頭頸部外科のデータ(1980年〜2014年、5338例)では、65歳以上の占める割合は喉頭がんで51%、下咽頭がん48%、口腔がん36%だった。特に、2010〜2014年の5年間では、喉頭がんの高齢者の比率は65歳以上63%、75歳以上21%、80歳以上が7.4%に達していた。

 口腔がん、咽頭・喉頭がんになった場合、原則的には日常生活にできるだけ支障を来さないよう、「食べる」「話す」の機能を失わない治療方法を検討する。だが、高齢者の進行がんの場合には「食べる」か「話す」のどちらかを選択しなければならないことがある。

 口腔がんや咽頭がんの治療後は、食べ物を咀嚼(そしゃく:噛みつぶすこと)し嚥下する機能が低下しやすい。食べ物を咀嚼するときには、あごを動かして歯で噛みすりつぶし、舌でかたまりになるように丸めてのどに送りこむ。だが、咀嚼機能が低下すると、口腔内や咽頭に食べ物が残り、うまくのみこめなくなることがある。喉頭には蓋(がい:ふた)があり、呼吸をするときは蓋が開いているが、食べ物をのみこもうとすると嚥下反射が起こり蓋は閉まる。だが、がんの治療によって嚥下機能が低下すると、蓋の閉まるタイミングが遅れて、喉頭から気道に食べ物が入りこみ、誤嚥性肺炎を起こしやすくなる。

 また、咽頭・喉頭がんの治療では、話す機能を残すために放射線治療で喉頭を温存した場合でも、治療後、口腔内が乾燥することで嚥下機能が低下するため、食べ物が食道に流れにくくなったり、痰がからんだりすることで誤嚥性肺炎を起こしやすくなる。

 さらに、口腔がんや咽頭・喉頭がんの患者は喫煙者が多く、もともと、肺の機能が低下しているため肺炎を起こしやすく重症化しやすい。肺炎は日本人の死因の第3位であり年々増加している。うまく食べられなければ、せっかくがんが治っても肺炎で命を落としてしまうことになりかねない。

 そこで、誤嚥性肺炎のリスクを回避するための一つの方法として喉頭を全て切除し、呼吸と食事の通り道を分けてしまう治療法がある(図)。この手術を行えば、手術前の声は出なくなるが、誤嚥なく食べることが可能となる。もう一つの方法として、口から食べることをあきらめて、胃瘻から流動食で栄養をとる方法がある。つまり、「食べる」か「話す」の選択をせざるを得ない場合が出てくる。

図 のどのがんの治療(喉頭全摘術)模式図(藤井氏提供) 気道と食道を分離させることで誤嚥性肺炎のリスクを回避し、安全に食事ができるようにする。

 大阪府立病院機構大阪国際がんセンター頭頸部外科主任部長の藤井隆医師は治療選択について、「患者さんが生活していくときに、どちらを優先したいかによります」と言う。「もちろん、どちらの機能をあきらめることも大きな決断になり、究極の選択といえます。どちらかというと、現代においてはコミュニケーションでメールやラインなど、使いやすい代替手段が出てきました。一方、食べることは1日3回あり、それを調理して準備していくのは大変な苦労になります。このため、『食べる』を優先する患者さんは多いです」。藤井氏は「食べる」を優先した例、および「話す」を優先した例を紹介してくれた。

「食べる」を優先した例
 中咽頭がんの治療では、一般的に「手術」あるいは、「放射線治療と抗がん剤治療」の選択肢がある。77歳男性は60代の頃、喉頭がんを放射線で治療したことがあったため、今回、照射する場所が重なり、再度の放射線治療はできなかった。そこで、手術を選ぶことになった。
 男性はがんになる前から肺気腫(肺を構成する肺胞の機能が損なわれ、呼吸しづらくなったり咳が出やすかったりする状態。喫煙と深い関係があることが明らかになっている)があり、肺炎が重症化しやすい状態だった。食べることと話すことの両立を強く希望して、喉頭を温存する手術を受けたが、手術後の肺炎がなかなか回復せず、さらに改善後も在宅酸素療法が必要となる可能性があった。そこで、誤嚥性肺炎のリスクを回避するため喉頭を全摘し、口から食べることを優先した。退院後は好きなものを食べている。喉頭を全摘時、声帯を含めて切除したため「話す」機能は失われたが、人工喉頭(手で持つタイプの医療機器)を使って会話をしている。
 口から食べられると、身体の栄養状態がよくなり、気力や体力をつけることができる。気力や体力が回復してくれば、患者の希望を実現することができ、人生の満足度を高められる。

「話す」を優先した例
 歯肉がんの78歳男性は60代の頃、舌がんになり、手術で舌の右半分を切除した。今回の左歯肉がんでも、手術でがんを切除したが、術後、嚥下の練習をしていたところ、軽度の誤嚥が見られた。男性はインスリン注射が必要な糖尿病を患っていたため、誤嚥性肺炎が重症となった。
 そこで今後、安全に食事ができるように、喉頭全摘の手術を勧められた。だが、男性は認知症の妻を介護しており、声を出すことが生活上どうしても必要だった。このため、喉頭全摘の手術を受けず、口から「食べる」ことはあきらめて栄養はすべて胃ろうから摂取することを選んだ。今でも認知症の妻を介護しながら、二人で暮らしているという。

 高齢者のがんの治療選択は個別によって異なり、一般化することは難しい。「どのように治療を選択するかは、家庭や生活環境も考慮しなければならない。主治医とよく相談してほしい」と藤井氏は話している。主治医の話だけでなく、セカンドオピニオンを取ってみてもいいだろう。

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