このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2018/1/29

分子標的治療の現状は? 日本癌治療学会学術集会より その3

化学療法をベースに分子標的薬を組み合わせ大腸癌の治療成績が向上

八倉巻尚子=医学ライター

 癌細胞の増殖や転移にかかわる特定の分子の機能を阻害する分子標的薬が癌の治療に導入されてから、15年以上が経過した。今ではさまざまな癌で標準治療の手段として使用されているが、癌の種類によってその位置づけは大きく異なる。標的となる分子が次々と見つかって治療薬の開発が進み、さらなる生存期間の延長を目指す癌もあれば、そうはいかずに分子標的薬よりも新たな免疫療法に期待を寄せる癌もある。

 10月20日から22日まで横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会では「分子標的治療で変わった癌治療」と題したシンポジウムが開催された(司会:熊本大学消化器外科教授の馬場秀夫氏、岡山大学呼吸器・乳腺内分泌外科教授の豊岡伸一氏)。このシンポジウムから、乳癌、肺癌、大腸癌、胃癌、腎細胞癌、婦人科癌それぞれにおける分子標的治療の動向と最近注目の免疫療法の開発状況について、6回シリーズで紹介する。
第3回目は大腸癌。


 「大腸癌治療は化学療法薬に頼っている状況にあるが、分子標的薬が登場して生存期間は30カ月に延長した」と北海道大学病院腫瘍センター副センター長・化学療法部部長の小松嘉人氏は話した。

 進行大腸癌に対し、積極的な治療は行わないベスト・サポーティブ・ケア(BSC)では、全生存期間(OS)中央値は8〜9カ月といわれていた。1957年にフッ化ピリミジン系製剤の5-FUが開発され、5-FU単剤の治療が始まり、さらに5-FUの効果を高めるロイコボリン(LV)との併用でOSは12カ月まで延長した。その後、イリノテカン、オキサリプラチンといった化学療法が使われるようになった。

 5-FU+LV、オキサリプラチン、イリノテカンはいまでも大腸癌のキードラッグであり、「これら3剤を使い切ることが長期生存につながると考えられている」。また5-FU+LVにオキサリプラチンを追加したFOLFOX療法とイリノテカンを追加したFOLFIRI療法は、どちらを先に使っても生存期間に差がないことが示された(Tournigardら、2004)。FOLFOX療法とFOLFIRI療法が世界的な標準治療と認識されるようになり、「5-FU単剤の時代から、化学療法薬の多剤併用になった40〜50年間で、OSは10カ月延長した」と小松氏はいう。

 経口の化学療法薬を使った併用療法も開発された。経口薬カペシタビンとオキサリプラチンによるXELOX(CapeOx)療法の有用性は、FOLFOX療法に劣らないこと(非劣性)が証明されている。さらに小松氏らは、S-1+イリノテカン(IRIS)療法を開発し、「OS中央値は23.4カ月と、良好なデータになった」。また2次治療としてのIRIS療法は、FOLFIRI療法に対する非劣性が示されている。

 大腸癌治療において、これらの化学療法に分子標的薬を組み合わせる治療法の開発が進められた。その1つは、腫瘍の血管新生で中心的な役割を果たす血管内皮細胞成長因子(VEGF)に対する抗体薬ベバシズマブである。ベバシズマブは2004年に転移性大腸癌の治療薬として米国で承認され、国内では2007年に「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を適応に承認されている。IFL(5-FU急速静注+LV+イリノテカン)療法やFOLFOX療法へのベバシズマブ追加で生存期間の延長が示され、「大腸癌の世界にスムーズにベバシズマブが導入されていった」。また日本での臨床試験(TRICOLORE)で、S-1+イリノテカン+ベバシズマブによる1次治療は、FOLFOX療法またはCapeOx療法+ベバシズマブに対する非劣性が証明されている。

 もう1つの重要な分子標的薬は、癌細胞の増殖にかかわる上皮成長因子受容体(EGFR)の働きを阻害する抗EGFR抗体薬である。抗EGFR抗体薬セツキシマブ、パニツムマブの臨床試験も数多くなされ、その中でKRAS遺伝子変異のない野生型の患者では有効性が高いことが明らかになった。現在では治療の前にRAS遺伝子(KRASとNRAS遺伝子)を調べて、RAS遺伝子が野生型の場合に限って抗EGFR抗体薬が使用される。
 
 また抗EGFR抗体薬は腫瘍縮小効果が高いのが特徴である。転移が肝臓に限局する大腸癌を対象に、FOLFOX療法またはFOLFIRI療法にセツキシマブを追加する試験(CELIM)で、転移巣の完全切除率が高まることが示された。手術できない癌が、薬の効果で腫瘍が縮小して手術できるようになる、いわゆるコンバージョン治療により、「延命を図ることが治療目的であった転移性癌において、切除して根治を狙うという考え方ができるようになってきたのは大きい」と小松氏は述べた。

 では、1次治療にどちらの分子標的薬を使えばより効果が高いのか。抗EGFR抗体薬とベバシズマブを比較する試験(CALGB80405試験、FIRE-3試験、PEAK試験)が行われたが、現時点で結論は出ていない。3つの試験を統合したメタ解析では抗EGFR抗体薬に優位な結果になったが、「有用性がはっきりしないネガティブ試験も含めた解析であったため」、懐疑的な意見もまだあるという。

 そこで現在、RAS遺伝子野生型を対象に1次治療として2つの試験が行なわれている。1つはFOLFIRI療法+セツキシマブとFOLFOX療法+ベバシズマブを比較する臨床試験(STRATEGIC-1)である。また国内でFOLFOX療法+パニツムマブとFOLFOX療法+ベバシズマブを比較する試験(PARADIGM)が進行中である。これらの結果が出れば、1次治療における分子標的薬の使い分けが明らかになると期待されている。

2次治療に新薬が登場
 進行大腸癌において、これまでは1次治療に抗癌剤とベバシズマブを使い、2次治療にも別の抗癌剤に加えてベバシズマブを使う治療法(BBP)がよく行われてきた。しかし最近、2次治療において、VEGFを標的とする新しい分子標的薬であるラムシルマブとアフリベルセプトを投与するという選択肢が登場してきた。標準的な2次治療であるFOLFIRI療法単独に比べ、ラムシルマブ+FOLFIRI療法は有意にOSを延長することが臨床試験(RAISE)で示されている。アフリベルセプトもFOLFIRI療法への上乗せ効果が臨床試験(VELOUR)で認められている。2次治療でベバシズマブを継続して上乗せする代わりに、ラムシルマブやアフリベルセプトを使うことが検討されているが、この3剤の使い分けはまだ明らかではない。

 進行大腸癌の3次治療以降では、腫瘍の血管新生などを阻害する分子標的薬レゴラフェニブや、新規経口化学療法薬のTAS-102も標準的な治療として使われている。

 「分子標的薬の登場後は10年で10カ月の生存延長が得られるようになった。しかも転移を有する大腸癌でも腫瘍を縮小させて切除できれば、palliative(緩和的)な治療からcurative(治癒)を狙えるようになる。これが分子標的薬のメリットだろう」と小松氏は言う。

 今話題の免疫チェックポイント阻害薬の効果があるのは、大腸癌では一部の遺伝的な特徴をもつ患者のみであり、「大腸癌の治療は引き続き化学療法と分子標的薬を使うことになる。しかしバイオマーカー研究の進歩により、無効症例の選択や有効症例の絞り込みが可能になれば、さらなる生存の延長や、根治を得られる割合を増やせる可能性がある」と小松氏は述べた。

この記事を友達に伝える印刷用ページ