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レポート

2018/1/22

分子標的治療の現状は? 日本癌治療学会学術集会より その2

分子標的治療で肺癌患者の生存期間は2倍に延長、しかし治癒は難しい

八倉巻尚子=医学ライター

 癌細胞の増殖や転移にかかわる特定の分子の機能を阻害する分子標的薬が癌の治療に導入されてから、15年以上が経過した。今ではさまざまな癌で標準治療の手段として使用されているが、癌の種類によってその位置づけは大きく異なる。標的となる分子が次々と見つかって治療薬の開発が進み、さらなる生存期間の延長を目指す癌もあれば、そうはいかずに分子標的薬よりも新たな免疫療法に期待を寄せる癌もある。

 10月20日から22日まで横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会では「分子標的治療で変わった癌治療」と題したシンポジウムが開催された(司会:熊本大学消化器外科教授の馬場秀夫氏、岡山大学呼吸器・乳腺内分泌外科教授の豊岡伸一氏)。このシンポジウムから、乳癌、肺癌、大腸癌、胃癌、腎細胞癌、婦人科癌それぞれにおける分子標的治療の動向と最近注目の免疫療法の開発状況について、6回シリーズで紹介する。
第2回目は肺癌。


 進行肺癌の治療には1960年代からさまざまな細胞障害性の化学療法が使われてきた。臨床病期IV期の非小細胞肺癌に対する標準的な治療がシスプラチンなどのプラチナ系製剤を含む2剤併用療法だった「20世紀の段階では、化学療法による奏効率は30%程度、無増悪生存期間(PFS)中央値は5〜6カ月、全生存期間(OS)の中央値は1年あまりだった」と、近畿大学呼吸器外科教授の光冨徹哉氏は説明した。しかし21世紀に入り、分子標的薬が登場してからは肺癌の治療成績は向上し、OSは2年を超え、「この20年で肺癌治療のパラダイムは大きくシフトした」。

 肺癌治療を大きく前進させたのは、細胞の癌化や癌細胞の増殖に直接関与する「ドライバー遺伝子」の発見と、そのドライバー遺伝子に対する分子標的薬の開発である。ドライバー遺伝子は、癌の発生や進展に直接的に重要な役割を果たしている。今までに見つかっているドライバー遺伝子には、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)遺伝子、ROS1遺伝子などがある。

 ドライバー遺伝子に対して最初に登場した分子標的薬は、EGFRに対するチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)ゲフィチニブであり、2002年に世界に先駆けて日本で承認された。また同じような働きをする薬としてエルロチニブがあり、これらは第1世代EGFR-TKIと呼ばれる。

 ゲフィチニブは当初、癌の増殖に関係する蛋白質(チロシンキナーゼ)を阻害する薬剤として登場した。「臨床の現場ではゲフィチニブによる著明な腫瘍縮小あるいは腫瘍消失を稀ならず経験した」が、ゲフィチニブやエルロチニブと従来の細胞障害性抗癌薬を比較した臨床試験ではことごとく無増悪生存期間(PFS)に関する有用性が示されず、「臨床でみる劇的な抗腫瘍効果との乖離を覚えた」と光冨氏は振り返る。

 その状況が変わったのが、2004年のEGFR遺伝子変異の発見である。チロシンキナーゼに存在する受容体を作るEGFR遺伝子に変異がある肺癌患者では、ゲフィチニブの効果が高いことが報告されたのだ。またそれまでに、ゲフィチニブの効果は腺癌、非喫煙者、アジア人、女性で高いことが分かって来ていたが、これらの患者にはEGFR遺伝子変異が多いという特徴があった。

 その後、EGFR遺伝子変異がある患者を対象とした臨床試験で、ゲフィチニブは化学療法に比べて有意なPFSの延長効果を示した。OSはEGFR-TKI群と化学療法群で有意な差はなかったが、これは化学療法群で病勢進行後にEGFR-TKIを投与するなどの、後治療の影響が考えられている。現在ではEGFR遺伝子変異のある肺癌患者(日本人肺腺癌の50%)の標準治療としてEGFR-TKIが使われている。また、さらに効果を高めた次世代EGFR-TKIのアファチニブも登場している。ただし、アファチニブは毒性が強いという問題がある。

 2007年に、2番目の肺癌ドライバー遺伝子としてALK遺伝子が発見された。ALK遺伝子における転座(染色体の一部が切断され別の部位に融合すること)が発癌に結びつく。ALK転座は若年者に比較的多く、非喫煙者に多いという特徴をもつ(日本人腺癌の3-5%)。ALK-TKIであるクリゾチニブはALK遺伝子転座のある肺癌に対し、化学療法に比べてPFSを有意に改善することが臨床試験で示され、日本では2012年に承認された。また2017年にクリゾチニブはドライバー遺伝子であるROS1遺伝子変異(日本人腺癌の1-2%)を持つ肺癌に対する適応も承認されている。また、より効果の高い次世代のALK-TKIとして、アレクチニブやセリチニブが登場している。

 新たに発見されたドライバー遺伝子であるBRAF遺伝子やRET遺伝子などに対する分子標的薬の開発も進んでいる。BRAF遺伝子変異に関しては、悪性黒色腫でBRAF阻害薬dabrafenibとMEK阻害薬trametinibの併用療法が有効であることが報告され、肺癌でも応用されて臨床試験が行われている。ただし、これらの遺伝子異常はいずれも肺癌患者の数%と低頻度である。国内で大規模なスクリーニング研究が展開されているが、遺伝子異常を効率よく見つけ出し、「希少な変異を有する肺癌の治療をどのように確立するか」は課題の1つとなっている。

薬剤耐性の問題をどうするか
 このように肺癌に対する分子標的薬の開発は進んでいるが、EGFR-TKIやALK-TKIでは使用から1年ほどで薬剤耐性が起こり、薬の効果が減弱してしまう。耐性メカニズムの1つとしては、EGFR遺伝子あるいはALK遺伝子に二次変異が起こり、薬剤の結合部位が変化するためと考えられている。

 EGFR遺伝子変異にはいろいろなタイプがあるが、その中でもT790M変異が第1世代EGFR-TKI耐性の主な原因といわれている。しかし耐性になったとしても、癌細胞の増殖が「EGFRに依存しているため、新規のEGFR-TKIにより治療は可能である」(光冨氏)。T790M変異によって耐性となったEGFR遺伝子変異のある肺癌に対して、オシメルチニブと化学療法(プラチナ系製剤+ペメトレキセド)を比較する試験(AURA3)が行われ、オシメルチニブの著明なPFS延長効果が示されている。

 ALK-TKI耐性の場合は「二次変異の種類が多いのが特徴」(光冨氏)であり、二次変異の種類によって個々のALK-TKIの感受性は異なっている。クリゾチニブはEML4-ALK転座のある肺癌に効果があるが、セリチニブやアレクチニブはEML4-ALK転座に加え、L1196M変異やC1156Y変異のある肺癌にも感受性を示す。このためクリゾチニブに耐性になっても、次世代ALK-TKIの効果が期待できる。また「各種耐性変異に対し、現在のところ最も感受性をもつALK-TKIは国内未承認のlorlatinibと考えられている」(光冨氏)。

 ただし、光冨氏は「TKIでは耐性が不可避で、新世代薬にもいずれ耐性が起こる。そのため治癒をもたらすことは困難である」と述べた。またTKIにはもう1つ、投与順序という課題がある。EGFR変異を持つ進行癌に対する1次治療として、第1世代TKIと新世代TKIを比較する試験が行なわれ、EGFR-TKIではオシメルチニブがゲフィチニブとエルロチニブに対して、ALK-TKIではアレクチニブがクリゾチニブに対して良好な結果を示した。しかし1次治療で癌が進行した場合、2次治療以降にどの薬を使うべきかは明らかでなく、光冨氏は「現在ある薬をどのような順序で投与すべきか、今後熱心に議論されるだろう」とした。

 肺癌にはTKIとは別の機序を持つ分子標的薬もある。腫瘍の血管新生を促す血管内皮細胞成長因子(VEGF)に対する抗体薬で、ベバシズマブとラムシルマブが治療に使われている。1次治療でのベバシズマブと化学療法の併用は、化学療法単独に比べて有意な生存延長をもたらした。またラムシルマブは2次治療として生存改善効果を示している。「それらの効果は大きいとはいえないが、化学療法を増強する薬物として一定の役割を果たしている」と光冨氏は説明する。

 そして化学療法、分子標的薬に続く、肺癌薬物療法の第3の柱として、免疫療法が近年急速に発展している。2015年に免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ、2016年にペムブロリズマブが肺癌の2次治療薬として承認された。さらに腫瘍の免疫チェックポイント分子であるPD-L1が高発現の患者の1次治療として、ペムブロリズマブはプラチナ系製剤を上回る効果を示している。これについて光冨氏は、免疫チェックポイント阻害薬は一部の患者では治癒をもたらすことが期待されるが、患者選択のバイオマーカーはいまだ不十分で、コストの問題もあるとした。

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