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レポート

2017/12/25

治療の選び方 Vol.1

高齢者ががんになったとき

福原麻希=医療ジャーナリスト

 がんの罹患者は、男性は50代以降、女性は40代以降に増加し、男女とも80代まで右肩上がりになる(※1)。高齢になったとき、どのようながんの治療が受けられるのだろうか。第55回日本癌治療学会学術集会のシンポジウム「超高齢社会のがん治療」で発表された内容と取材をもとに、基本的な考え方と事例を紹介する。


杏林大学内科学腫瘍科教授の長島文夫氏

高齢者ががんになったときの基本的な考え方
 高齢者ががんになった場合、ほかの年代と比べて、治療戦略が異なることがある。理由はまず、高齢になると身体・こころ・認知の機能が低下しやすく、退院後の生活状況も変わりやすいことが挙げられる。また、高齢者は普段から病気の治療のため飲んでいる薬の数が多く、相互作用が起こりやすくなったり、臓器の機能が低下しているため、他の年代と比べて抗がん剤治療の有害反応が出やすかったりする。さらに、入院による生活環境の変化や手術等によって、高齢者に多くみられやすい「せん妄(一時的に、意識や認識が混乱すること。話の内容の不一致、興奮・幻覚症状等が見られる)」や「尿失禁」などが起こる人がいる(※2)。

 わが国の医療制度では、65歳〜74歳までを「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と規定している。だが、80代でも比較的体力が維持されて元気な人がいれば、70代でも栄養状態や筋力の低下が著しい人もいる。このため、「高齢者のがん」といっても、個人差が大きいといえる。

 「高齢者のがんを、どのような方針で治療するか」は、今まさに国と臨床研究班が協働で検討しているところだ。「日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG:Japan Clinical Oncology Group※3)」の高齢者研究委員会は、がんになった高齢者を「G8」というスクリーニングツール(詳しくは表1参照)で評価することを提案している。

 G8 では(1)身体機能(2)精神機能(うつの有無等)(3)認知機能(認知症の有無等)(4)生活状況などから、概念的には以下の3種類に分けられるとする。ただし、今は試行段階で、どの病院でもこの方法に基づいているわけではない。

1)元気な他の年代と同じように、標準治療を受けられる状態の患者
2)元気な他の年代と同じように標準治療を受けることはできないが、何らかの治療は受けられる状態の患者
3)手術や抗がん剤などを受けることはできない患者

表1 G8スクリーニングツール(NMA日本語版の関連項目を編集部で抜粋、一部改変)

Q1. 過去3カ月間で食欲不振、消化器系の問題、そしゃく・嚥下困難などで食事量が減少しましたか?
著しい食事量の減少/中等度の食事量の減少/食事量の減少なし
Q2. 過去3カ月間で体重の減少はありましたか?
3kg以上の減少/1〜3kgの減少/体重減少なし/わからない
Q3. 自力で歩けますか?
寝たきりまたは車椅子を常時使用/ベッドや車椅子を離れられるが、歩いて外出できない/自由に歩いて外出できる
Q4. 神経や精神的な問題がありますか?
高度の認知症またはうつ状態/中程度の認知障害/精神的問題なし
Q5. BMI値はどのくらいですか?
19未満/19以上21未満/21以上23未満/23以上
Q6. 1日に4種類以上の処方薬を飲んでいますか?
はい/いいえ
Q7. 同年齢の人と比べて、自分の健康状態をどう思いますか?
よくない/同じ/よい/わからない
Q8. 年齢はおいくつですか?
86歳以上/80歳〜85歳/80歳未満

 治療方針については、次のように考えていくという。

1)G8の質問票等を参考に、患者の身体・精神・認知の機能や生活状況を評価する
ただし、高齢者といっても多様性に富んでおり、このG8だけで単純に分けられるわけではない。
2)「患者の意思決定能力」を評価する
意思決定能力を評価するためには、医師から患者に治療方針を説明したあと、例えば「今、説明した治療内容を言えますか」「それをどう考えますか」「治療選択肢と、伴う合併症について言えますか」などを質問して答えてもらう。
3)患者の人生観や生活における価値観を聞きながら話し合い、希望する治療を選んでもらう。

 JCOGの高齢者研究委員会委員長である杏林大学内科学腫瘍科教授の長島文夫氏は、高齢者ががんになったときの治療選択について、こう説明する。「一般的に、がんの治療方針の決定では生存期間の延長を主な目的としますが、高齢者の場合は寝たきりにならないことや認知機能が低下しないなど、これまでと変わらない生活が送れるかどうかも重要です。さらに、治療選択にあたっては、退院後の食事や移動のサポートがあるかどうかなども考慮しなければなりません」。

 つまり、「高齢者だから」や「何歳だから(暦年齢)」と判断して手術や抗がん剤治療をやめることはない。手術の場合は、「心臓や肺の機能などを評価し、全身麻酔に耐えられるかどうか。その上で技術的に手術によってがんを取り切れるかどうか、それが患者の利益につながるかどうかなどを、総合的に判断します」と長島氏は説明する。


※1 国立がん研究センターがん情報サービス「がんの統計」
※2 Japan Clinical Oncology Group ポリシーNo.39「高齢者研究」
※3 JCOG:国立がん研究センター研究開発費研究班を中心とする共同研究グループ。がんに対する標準治療の確立と進歩を目的とした研究活動(多施設共同臨床試験)を実施する。

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