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レポート

2017/12/18

横浜で開催の世界肺癌学会議で発表

ステージ4の肺がん患者「がんとともに働いた7年間」

福原麻希=医療ジャーナリスト

 今年10月15日〜18日までパシフィコ横浜にて、第58回日本肺癌学会学術集会(学会長・慶應義塾大学医学部外科学教授の淺村尚生氏)に引き続き、第18回世界肺癌学会議(学会長・淺村氏および韓国サムスンメディカルセンターのパク・グンチル氏)が開催された。テーマに掲げられた“Synergy to Conquer Lung Cancer”(「力を合わせて肺癌撲滅に邁進しよう」)の下、世界から第一線の研究者や医療従事者、患者と家族、治療に関連する企業の方々が集まり、活発な議論が繰り広げられた。今回は、このプログラムのポスターセッションで発表された内容とその経緯を紹介する。


2017年、横浜で開催された世界肺癌学会議の功能さんのポスター発表

 発表したのは、ARUN代表で肺がん患者遺族の功能(こうの)聡子さん。タイトルは「肺がんとともに働く−ステージ4の患者の対処術」。功能さんの夫の故・山岡鉄也さん(享年56歳)は2010年7月、非小細胞肺がんステージ4(肺線がん、リンパ節、および両肺内微小結節多発転移)と診断された。その後の治療中に遺伝子検査をしたところ、EGFR遺伝子変異は陽性、ALK遺伝子変異は陰性だった。

 診断時、主治医は余命を告げなかったが、周囲の医療従事者から「1年もたない」と言われた。だが、原発巣の肺には抗がん剤・分子標的薬・免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤)・治験(新規分子標的薬)を、骨転移には放射線治療、脳転移には前述と同じ分子標的薬の投与を受けた。緩和ケアやがんリハビリテーションも積極的に取り入れた。その結果、2017年まで患者の希望通り、治療を受けながら働くことができた(同年7月逝去)。功能さんの発表は、山岡さんの「治療と働くことを両立させた7年間」についてまとめたものだった(ページ下参照)。

 本来、この演題は山岡さんが発表する予定で準備が進んでいた。山岡さんにとって、ホスト国となる横浜での世界肺癌学会議で発表することは、2年越しの目標だったからだ。2015年、山岡さんは米国コロラド州で開催された同会議の「ペーシェント・アドボカシー・アワード」を日本人の患者として初めて受賞、同会議に参加した。このとき、世界では想像していた以上に、患者中心の医療が実施されていることを知ったという。

 例えば、(1)治験に設計段階から患者団体が加わり、一緒に推進している(LUNG-MAP)(2)病院間の格差が大きい治療のレベルアップをはかる活動として、患者団体と医療者が一緒に「コミュニティホスピタルセンター構想」を推進している(3)米国では患者や家族が学会のすべてのプログラムに参加できる(日本の学会は患者が入れる会場と入れない会場があったり、「医薬品、医療機器等の品質、 有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称:薬機法)」によって患者は入手できない情報があったりする)――などだ。功能さんは「山岡はこの会議に参加したことで、大きく視野が広がり、日本で改革すべきことが明確になりました」と振り返る。

 そこで、翌年の会議には「他の肺がん患者さんも一緒の参加」を、2年後は日本がホスト国になることが決まっていたので「独自の患者アドボカシープログラムを作ろう」と夢を抱いたという。その通りに、2016年ウイーンの会議には、肺がん患者会ワンステップの代表・長谷川一男さんと参加した。このとき、山岡さんは「Attempt to improve the patient literacy in Japan(日本における患者力向上の試み)」のテーマで日本の患者アドボカシー活動の経験を発表した。今年2017年は長谷川さんも「A Study on the Damage of Passive Smoking to Japanese Lung Cancer Patients(がん患者は働かなくていいか?――日本の肺がん患者の受動喫煙被害に関する実態調査から)」をテーマに発表した。

【発表概要】
非小細胞肺がんステージ4(肺線がん、リンパ節、および両肺内微小結節多発転移)の男性患者が7年間にわたり「がんとともに働く」をどのように両立させたかをまとめた。

【治療経過】
患者は抗がん剤治療や免疫療法などに取り組んだとともに、診察ごとに自分の生体記録(排尿・排便、服薬状況、食事、メンタルの状態等)を記録し、医師に見せていた。AZD9291の治験に参加したことは、原発の肺だけでなく、脳転移に関しても放射線治療を受けずにすむほど、顕著な効果をもたらした。治験情報はインターネットを通して得られた。このほか、患者は緩和ケアとリハビリテーションの診察を併診し、QOLを改善させた。治療方法は、いつも主治医と患者が意見を出し合って決めていた。

【生活状況】
患者はがんの診断を受けてから、がんとともに働く社会を創ることをライフワークとした。国立がん研究センターのがん情報提供サービス部と協力し、プロジェクトを組んだ。さらに、肺がんの患者会で国内にネットワークを構築するための中心的役割を果たした。患者にとって、これらの活動は生きるための喜びとモチベーションにつながり、治療経過に寄与した可能性が示唆される。

【結論】
患者の闘病生活には波があった。この事例は、患者の病気に対するリテラシーの向上、および、主治医との協働による治療に対する意思決定が治療経過に寄与した可能性を示唆している。患者にとって、仕事を得たことは人生のミッションを特定するとともに意識付けになった。仕事は社会と接点をつくり、人生を意味づけることにつながるからだ。

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