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レポート

2017/8/18

国立がん研究センター・希少がんセミナーより

未だ保険診療で使える治療薬がない胸腺がんの現状

福島安紀=医療ライター

 20万人に1人が発症するといわれる胸腺腫と胸腺がんの特徴と治療法について学ぶ患者向けのセミナー「第6回希少がんを知り学び集うセミナー・希少がん Meet the Expert:胸腺がん・胸腺腫」が7月14日、国立がん研究センター希少がんセンターで開催された。このセミナーは、同センターと認定NPO法人キャンサーネットジャパン、がん情報サイト「オンコロ」の共催。同センター中央病院呼吸器内科の後藤悌氏が、胸腺がん・胸腺腫の特徴や治療方針、新たな治療開発について講演した。


胸腺腫の治療は胸腺全摘手術で完全切除を目指す
 胸腺とは、心臓の少し上、胸骨の真裏の上縦隔の前部に位置するリンパ性器官(図)。人間の体には、ウイルスや細菌などの外敵が来た時に、それを非自己と認識して攻撃し排除する免疫機能が備わっている。胸腺はその際、自己と非自己を選択する役割を担っている。

図 胸腺

 「胸腺は不思議な臓器で、生まれた時には10〜15g、10代〜20代くらいまでにピンポン玉くらいの大きさになるものの、その後はどんどん小さくなって、周囲の脂肪と区別がつかなくなります。胸腺は呼吸器ではないのですが、胸部にある臓器なので、胸腺腫・胸腺がんは、呼吸器内科や呼吸器外科で治療をすることが多くなっています。後述するように、胸腺腫では重症筋無力症などの症状が出ることがあるので、神経内科で治療している病院もあります」。講演の冒頭で、後藤氏はそう説明した。

 胸腺腫の多くは30歳以上に発症し、特に40〜70歳に多い。40〜50%の患者は症状がないが、腫瘍によって肺や心臓など周囲の大切な臓器に食い込んだり、圧迫したりすることによって、胸痛、咳、呼吸困難などの症状が出る場合がある。また、進行がゆっくりである半面、手足の筋肉に力が入りにくくなる重症筋無力症、赤血球が減る赤芽球癆(せきがきゅうろう)、低γ-グロブリン血症、多発筋炎などの腫瘍随伴症状が起こることがあるのが特徴だ。重症筋無力症を発症し、画像検査を受けたところ胸腺腫が見つかる人もいるという。

胸腺腫・胸腺がんが適応症の治療薬が一つもないのが大きな課題
 胸腺腫・胸腺がんの治療は、日本肺癌学会が作成している「肺癌診療ガイドライン(悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む)」に標準化治療が記されている。「まずは、縦隔にある腫瘍が胸腺腫、あるいは胸腺がんなのか、腫瘍から採取した組織を顕微鏡で見て確定診断をすることが重要です。胸腺腫と診断された場合の治療は、腫瘍がどこまで広がっているかを調べ、腫瘍の完全切除を目指します。心膜や大血管へ腫瘍が広がっている郡で、手術で腫瘍がすべて切除できなかった時には、術後に放射線治療を行います。一般的に他のがん種では、離れた臓器に転移のある鹸では手術をしませんが、腫瘍の量を減らしたほうが胸腺腫の症状が軽減するので、鹸でも手術をする場合があります」と後藤氏は話した。

 胸腺腫・胸腺がんは、患者数の少ない希少がんであるために、治験が実施されにくく、保険適用になっている薬が一つもないのが現状だ。「転移・再発胸腺腫には、シスプラチンとアントラサイクリンを含む併用療法が70〜90%の人に効きますが、胸腺腫は進行がゆっくりで、症状のない段階で治療をする意味があるのかは分かっていません。胸膜腫自体の進行を抑えるというよりは、重症筋無力症など、随伴症状の治療に難渋することが多いです。随伴症状の治療には、免疫系を抑えるステロイドを使いますが、そのために感染症になりやすいので注意が必要です」(後藤氏)。

 一方、胸腺がんに対しては、肺がんに準じた治療が行われる。手術できる状態で見つかった場合には、やはり腫瘍の完全切除を目指し、手術で取り残しがあった場合や手術が困難な時には、放射線療法を行う。他の臓器に転移のある胸腺がんに対する化学療法は、日本では、カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法を実施することが多いという。分子標的薬のスニチニブが有効との報告もあるが、日本では保険診療で使えないのが実情だ。

 「前述のように、胸腺がんを適応症にした保険請求できる治療薬はないので、カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法などの化学療法を行う場合には適応外使用になります。適応外使用は、社会保険診療報酬支払基金の審査で認められなければ、全額病院の負担になります。病院側もそういうリスクを冒しながら患者さんのために処方している現状を理解していただきたい」と後藤氏は強調した。

 現在、既治療・切除不能進行胸腺がんに対するS-1療法の臨床試験が、がん・感染症センター都立駒込病院、国立がん研究センター中央病院など4病院共同で進行中だ。その結果は、今年10月に横浜市で開催される第58回日本肺癌学会学術集会で発表される予定という。また、切除不能または再発胸腺がんに対するレンバチニブの医師主導治験も同センター中央病院を中心に近いうちに開始されることになっている。後藤氏は、「レンバチニブは甲状腺がんの治療に使われている薬です。希少がんの治療薬の開発は、製薬会社主導の治験がなかなか行われないのが現状ですが、いい結果が出て、胸腺がんの患者さんに使えるようになることを夢見て研究を進めています」と話し、講演を締めくくった。

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