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レポート

2016/9/5

インプラントによる乳房再建術の保険適用から3年

乳房を失っても「取り戻す」という治療選択がある

長竹 淑子=医療ライター

 2013年7月、乳がん治療のために乳房切除術を受けた患者の乳房再建に、インプラント(シリコン製人工乳房)を用いた再建術が新たに保険適用となった。インプラントによる乳房再建は、それまでの自家組織による再建と比較して手術時の体への負担が小さいという特徴がある。しかし、保険適用から3年が経過した現在、その手術件数は年々増加しているものの、乳房再建についての社会的な認知は未だ十分ではない。そこで、2016年8月に東京都内で、乳房再建に関する正しい情報を伝えることを目的にセミナーが開催された。昭和大学医学部乳腺外科教授の中村清吾氏が乳がん治療の最新状況を、また都立駒込病院形成再建外科部長の寺尾保信氏が乳房再建術の詳細を解説した。


昭和大学医学部乳腺外科の中村清吾教授

日本人の12人に1人が乳がんに罹患する時代に
 わが国の乳がん患者数は、1985年に約2万人でしたが、2007年には6万人を超え、2016年には9万人になると予測されています。中村氏は、「日本人の栄養摂取の量と質が大きく変化したことが、わが国で乳がん患者が増加した背景の1つです。食の欧米化で、動物性脂肪の摂取量は1955年からの20年間で4倍以上に増加しましたが、高脂肪食は乳がんのリスク因子の1つです。実際に米国では女性の8人に1人が乳がんに罹患するとされていますが、日本も現在は12人に1人の割合とされ、徐々に欧米に近づいています。初潮年齢が低くなり、閉経年齢が高くなる一方で出産回数が減少し、女性ホルモンにさらされる期間が長くなったことなども影響して、日本人における乳がんの罹患率は今後さらに高くなることが推測されます」と述べました。

都立駒込病院形成再建外科の寺尾保信部長

インプラントによる乳房再建術の保険適用で術式の選択豊富に
 乳がんの治療はがん細胞を体から取り除くことが前提であり、その術式の選択はがんの進行度合いにより異なります。がんが小さく転移のない段階であれば、その部分だけを切除して、残った乳房に放射線治療を行います。しかし、がんが広がっている、あるいはリンパ節への転移が認められるような段階では、全摘手術すなわち乳房の切除が必要となります。乳房を温存できるか乳房を切除するかという選択は、患者さんにとって重大な岐路であったわけですが、ここに乳房切除後の再建術が加わったことで、選択に変化が生じてきたと中村氏は振り返ります。

 「2013年にインプラントによる乳房再建術が保険適用されて以降、無理な温存により再発のリスクが高くなったり、またかえって整容性を損なったりするよりも、乳房切除と再建術の組み合わせを選択することが多くなってきました。左右差のないきれいな乳房を復元できるということは、がんで乳房を失う患者さんにとって大きな福音となります。患者さんのライフスタイルや希望に沿う選択が可能な時代になったと感じています」(中村氏)。

 この点について寺尾氏は、都立駒込病院での手術数の推移を示しながら補足しました。「当院で2004年まで増加を続けた乳房温存手術は、術後の再発や整容性の問題から、その後は適応が絞られるようになっていきました。無理な温存手術は行わず、より適切な患者さんのみを対象としたことで、温存手術が減り全摘手術(切除手術)が増えています。特に2013年以降は、インプラントによる乳房再建術が保険適用となり、選択の幅が広がりました。それまでは根治性と整容性を天秤にかけ、どちらか一方のみを重視せざるを得ないこともありましたが、現在は根治性という土台の上に整容性が確保される形で両立を目指すことができるようになったと考えています」(寺尾氏)。

アンケート結果からみえてきた乳房再建の選択
 寺尾氏は、「乳房再建とは、自分らしさ、自分の生活、心の平穏を維持し取り戻すための手段です」と説明します。寺尾氏が2005〜2010年に同院で乳房切除術を受けた患者さんを対象にアンケート調査を行ったところ、乳房切除術と同時に再建術を受けた患者さんの多く(60歳未満の66%)が、その理由を「乳房を失うことが受け入れられなかった」あるいは「女性であるために必要」などの精神的なものと答えています。一方、乳房を切除し再建しなかった患者さんにも理由を聞いたところ、「必要性を感じない」という回答のほか、全体の約半数が「乳がん治療に専念したい」「乳がんの再発や転移が心配」と答え、約4割は再建術に対する不安を理由に挙げていました。

「再建しないことを選択する患者さんの心情はもちろん尊重されるべきですが、再建術が乳がんの治療や再発に影響するのではないかという不安や、再建術による負担を心配する声の中には誤解も含まれており、今後も再建術についての情報提供に努めていく必要があると感じます。特に、再建しなかった患者さんに対しては、乳房の切除から時間をおいて、改めて再建術を実施できることを積極的に伝えていきたいです」と寺尾氏は語ります。

乳房再建術における手術時期、手術方法の選択
 いまや乳房再建は乳がんの初期治療の選択肢の1つとなり、乳房を残すことを望む患者さんが温存療法と比較して選択することもできるようになりました。実際、先に述べたアンケート調査では、乳房温存術も選択可能であった中で乳房の切除と再建を選択した患者さんが、60歳未満では4人に1人の割合でいたといいます。再発や整容性への不安から、乳房温存術ではなく、切除と再建を選択したとの回答でした。

 乳房再建術は、乳房切除と同時に行う一次再建と、乳房切除後に時間をおいてから行う二次再建があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。手術回数の少ない一次再建の方が体への負担は小さいですが、治療と同時に再建についても考え、決断することは、患者さんの心に大きな負担となります。判断に迷うのであればまずは治療に専念し、時間をおいて必要性を実感してから再建を考えるのも1つの選択肢だと寺尾氏は指摘します。

 また、乳房再建術の方法には、腹部や背部などの自分の体の組織(自家組織)を胸に移植する方法と、人工乳房であるインプラントを胸に挿入する方法があります(表)。こちらもそれぞれメリットとデメリットがあり、いずれを選択するかは患者さんの身体的、社会的な状況、また患者さんが何を望むかによって異なります。寺尾氏は、「当院では乳房切除術を受ける患者さんの6割が一次再建を行っています。一次再建は特に手術時の負担が小さいことが大きなメリットとなりますので、現在は7割の患者さんがインプラントによる再建術を選択しています」と話します。

表 乳房再建術の再建方法の違いによるメリットとデメリット

インプラントメリット:手術時の負担が少ない、傷や痛みを増やさない、社会復帰が早い
 デメリット:形態に制限がある、下垂した乳房は不向き、デコルテの再建ができない、動かない・温かみが少ない、永久的でない
 合併症:感染症にかかるといったん抜き取る必要がある
自家組織メリット:自然な形態の触感、下垂した乳房に対応できる、デコルテを再建できる、動きがあり温かい、永久的
 デメリット:手術時の負担が大きい、傷や痛みが増える、社会復帰が遅れる
 合併症:組織が壊死する可能性がある

 インプラントによる乳房再建術が保険適用となって以降、その件数は増加し、自家組織によるものも含めて、乳房再建に対する認知は高まってきています。今後、乳房再建術が、乳がん治療の一環として考えられることが当たり前の社会になることが期待されます。

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