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レポート

2016/7/25

成人患者主体のがん専門病院で始まった取り組み―がん研究会有明病院「GCLS研究会」

親ががんになった子どもを支えたい

森下紀代美=医学ライター

 がんと告知されたとき、患者自身はもちろん、家族も大きな衝撃を受ける。特に患者の子どもは、その後の生活環境が急激に変化するだけでなく、心理的なストレスを抱えて過ごすことを余儀なくされる。しかし、日本の成人患者を主体とするがん専門病院では、患者の子どもの問題が十分理解され、支援されているとは言えないのが現状である。

 がん研究会有明病院のがん研チャイルド・ライフ・サポート(Ganken child life support:GCLS)研究会では、がん患者の子どもの心のケアの必要性について高い意識を持つ医師、看護師、ソーシャルワーカー、臨床心理士らが自発的に集まり、支援に取り組んでいる。対象となるのは、がん患者の子どもと同院で治療を受けている小児がんの患者だ。研究会の活動を中心となって進めている消化器化学療法科副医長の市村崇氏に、活動を始めたきっかけ、現在の活動の状況、今後の課題について聞いた。



がん研究会有明病院消化器化学療法科の市村崇副医長

認知されにくい患者の子どもの心のケア
 親のがんによって影響を受ける子どもについて、国立がん研究センターがん対策情報センターが実態調査を行い、結果を2015年11月に発表している。18歳未満の子どもの数は年間8万7017人に上ると推定され、平均年齢は11.2歳、半数以上が0歳から12歳までの子どもであることがわかった(Izumi Inoue, et al. Cancer Epidemiology 2015; 39(6): 838-41)。

 しかし、成人患者を主な対象とするがん専門病院では、患者の家族のケアにまで手が回らないことが多く、中でも患者の子どもの心のケアの問題は認知されにくい。未成年の子どもの親の多くは若年患者であるが、最近では晩婚化が進み、40代、50代の親の子どもの年齢が低いことも珍しくない。

 がん研究会有明病院の入院患者のうち、39歳以下の患者は約1割を占める。若年患者は整形外科病棟に多いが、消化器化学療法科、消化器外科、婦人科、乳腺センターなど、さまざまな病棟に入院している。また、整形外科病棟には常に3、4人の小児がんの患者が入院中で、同病棟の入院患者の約1割を占めている。

 市村氏には、レジデントの時に経験した忘れられないケースがあるという。その患者は病期(ステージ)IVの消化器癌で、高校生の男の子を持つ母親だった。担当医が患者の夫に病状を説明し、化学療法を行っても余命は約1年と考えられることを伝えた。ところが、その日の夜に夫は自殺。後に、夫はうつ病で治療中だったことがわかった。患者は急遽外泊し、夫の葬儀の喪主を気丈に務めた。しかし、高校生の息子は突然父親を失ったうえ、親族から母親が消化器癌で余命は長くないこと、その後の面倒はみられないことを突然告げられ、茫然自失の状態に陥ってしまった。

 市村氏は当時を振り返り、「医師の多くは、患者さんの精神的なダメージには配慮しても、家族にはその患者さんをフォローしてほしいという思いがあり、余命を含む厳しい状況を最初に伝える傾向にあります。家族は健康で、本当のことを話しても耐えられるだろうという前提から、特別な配慮はされていませんでした」と話した。この患者の夫も、会った時は健康な印象で、自身の病気のことは何も話さなかった。

 この後、市村氏は他院に異動となったが、この患者の子どものことがずっと気にかかっていたという。同氏は「多くの医師は目の前の患者さんを治すことが第一で、周囲の家族まで目が届きません。しかし、患者さんだけでなく、家族にも配慮は必要で、特に子どもには大人とは違う特別なケアが不可欠と考えています」と話す。

残された時間を家族で有効に過ごしてもらいたい
 子どもの心のサポートに向け、実際に活動が始まったのは、2015年4月、市村氏と整形外科病棟出身の看護師との立ち話からだった。整形外科病棟には治癒が望めない小児がんの患者も入院している。子どものために特別な配慮がされているわけではない成人患者向けの病棟で、小児看護に慣れていない看護師たちが試行錯誤しながら、小児がんの患者の心のケアに当たっている状況があった。

 一方、消化器化学療法病棟に入院している治癒が望めない患者の中には、子どもがまだ小さく、子育て中の患者も少なくない。患者は自分の状態や残された時間を子どもにうまく伝えることができないまま、一緒に過ごす時間が限られた環境の中で、時間だけが過ぎてしまう。多くの場合、最期の段階になってから、子どもは変わり果てた姿の親に対面することになる。

 「残された時間が短いがん患者さんの子どもには、年齢相応のアプローチをしっかりして、告知し、残された時間を家族で有効に過ごしてもらいたい」と考えている看護師がいることがわかり、市村氏は子どもの心のケアを問題と考える有志を集め、勉強会を始めることにした。

 2015年5月の発足時のメンバーは6人。医師は市村氏のみで、看護師は消化器化学療法病棟、整形外科病棟、緩和ケア病棟の5人だった。最初の勉強会では、米国サウスカロライナ大学看護大学教授で、親のがんを伝えられた子どもたちを支援するプログラムを開発したSue P. Heiney氏の講演会の動画を視聴した。米国では、医療環境にいる子どもや家族を心理的・社会的に支援する取り組みが広く認知されており、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)と呼ばれる専門職が4000人以上いる。一方、日本のCLSは29施設で活動している40人(2016年5月現在、チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会調べ)にとどまっており、まだ認知度は低い。

 がん研究会有明病院には子どもの支援に関するスペシャリストがいないため、CLSの「スペシャリスト」を「サポート」に変え、研究会の名前をGCLS研究会とした。8月には埼玉県立小児医療センターのCLSである天野香菜絵氏を招いて講演会を開催し、職種を問わずに100人近い職員が参加。さらに2016年2月には、東京都立小児総合医療センター心理・福祉科医長である菊地祐子氏による講演会も開催している。

GCLS研究会のメンバーは、2016年6月にはメーリングリストで46人まで増えた。現在では発足時のメンバーに加え、整形外科、緩和治療科、腫瘍精神科、遺伝子診療部の医師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、ボランティアも参加している。さらに院内の職員だけでなく、CLSの天野氏や菊地氏もリストに加わっており、院内の職員が助言や意見を求めることができる形になっている。

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