このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2016/4/26

家族ががんになったとき、どのようにサポートできるか(前編)

患者のサポートには「作戦」が必要

福原 麻希=医療ジャーナリスト

インタビュー時の轟哲也さん、浩美さん

 突然、がんと診断されたとき、頭の中が真っ白になるのは患者だけではありません。家族も驚き、悲しみ、今後のことを考えて不安になり、何日間も動揺します。それでも、患者に「何かしなくては」「何か言わなくては」と思い悩むことでしょう。家族ががんになったとき、何ができるでしょうか。一方、患者が望んでいることは、どんなことでしょうか。前編では、夫婦が紆余曲折のうえ、二人三脚の形で結束できた場合を紹介します。





 東京都在住の轟哲也さん(54)は2013年12月、「スキルス胃がん」と診断された。胃から離れたリンパ節にも転移し、腹膜播種を起こしていたため、病期はステージIV。肝臓などの主要な臓器への転移は見られなかった。

 自覚症状は1年前から。食後の胃の強い痛みから始まり、食べ物がのどでつかえる感じがして、ゲップも出せなくなった。やがて、食事中に胃が動かないような重苦しさを感じるようになり、食べられる量も減った。当時、胃の内視鏡検査を受けたところ、胃炎と診断され、ピロリ菌除去治療を行った。だが、その後も胃の不調は続いたため、轟さんはインターネットで情報を集めながら「もしかしたらスキルス胃がんではないか」と疑っていたという。このため、診断されたときは、「ようやく治療を始められる」という気持ちになり、ホッとしたそうだ。初めての診察から、約一年が経過していた。

 主治医からは、まず、抗がん剤で腹膜への転移層を治療し、その後、胃を手術で全摘することを提案された。妻の浩美さん(53)と相談し、セカンドオピニオンも受けた。その医師からは「胃を全摘しなければ、体の中にがんが残り、転移していく」「抗がん剤治療だけでは根治は望めない」と言われ、主治医の治療方針に問題がないとわかった。そこで、轟さんは翌月から、DS-1療法(ドセタキセルとTS-1の併用療法)を受けることに決めた。

ニンジンジュースを飲み過ぎて副作用が強まった
哲也さん
 スキルス胃がんと告知されたとき、医師から「余命は月単位」と言われ、すぐ“終活”を始めました。当時、フリーランスの特許技術者(※1)として仕事をしていたため、取引先に迷惑をかけないよう、やりかけの仕事を終わらせました。それと同時に、家の中のことはすべて私が管理していたので、諸手続きに関するファイルを作りながら整理しました。3カ月後にできあがったときは「これでいつでも大丈夫」と安堵したことをよく覚えています。

浩美さん 主人が淡々と準備している間、私は「妻として、自分がすべきことをしていなかったから発見が遅れたのでは」という自責の念にかられて落ち込む日々を過ごしていました。何をしていても涙が出て止まらなくて、「そういえば、あのとき、あまり食べていなかった」「もっと早く気づいていれば」と思い返すばかり……。私は幼稚園教諭で29年間、外で働いていました。毎日、家に帰って寝て、また職場へ行くことの繰り返しで、主人とは連絡事項を交わすぐらいでした。
 やがて、その失敗分を何とか取り戻そうと、「治したり、支えたりするのは私の役目」「自分にできることは、すべてやろう」と思うようになりました。サプリメントや食事療法など、色々な情報が押し寄せるなか、「何か一つでも怠ったら、この人は死んでしまう」という強迫観念に縛られてしまい……。でも、理系の主人からは「そんな療法、信じない」と言われ続けました。その頃、淡々と終活している主人とは気持ちの上で距離を感じてしまい、夫婦仲は決裂していました。

哲也さん 当時、家内が毎朝ニンジンジュースを作ってくれるので、飲んでいました。体に悪いわけではないのでしょうが、がんが小さくなるとも思えませんでした。ニンジンジュースを2、3杯飲むとおなかが一杯になり、食事ができなくなってしまって。そのうちに体力が落ちて、抗がん剤の副作用が強く出てきました。7カ月後には口の中が口内炎だらけになって、口を開けるのも痛い、食べるのも痛いとなったほどです。
 一方、家内は「いつもニンジンを冷蔵庫に入れておかなくては」とつぶやき始めました。1日に何本もニンジンをジューサーにかけるので、「ニンジンに追いかけられる夢を見る」とまで言い出しました。そんな姿を見ているうちに、こちらもつらくなり、「病気で苦しいのはこちらだよ。あなたが追い詰められてどうするの?」「どちらが病人だよ」と思うようになり……。ある朝、ニンジンジュースを作る家内の背中に、「もうやめてくれないか」と言いました。




※1 特許技術者…発明者から話を聞いて、特許庁へ申請する書類を書く職種。

この記事を友達に伝える印刷用ページ