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レポート

2016/3/7

がん患者でも介護保険サービスを利用できる(その2)

デイサービスが終末期患者の幸せな時間を演出

福原 麻希=医療ジャーナリスト

手打ちうどんを味わい、ドライブへ。翌々日、息を引き取る
 終末期のがん患者を受け入れるとき、スタッフはどんなことに留意するか――。「他の利用者さんと異なることは、ほぼありません。ただ、次の予定を組むときの日時の決め方には配慮します。来週はないかもしれないので、3日後など、少し急ぐようには心がけます」と小池さんは言う。ただし、当日、翌日では日常がワクワクするような楽しみを持てなくなるため、数日先に設定する。

 小池さんは、こんな事例を紹介してくれた。

 2年前に亡くなった、90代で大腸がんを患っていた男性は週2回、全部で9回オリジンを利用した。がん患者の在宅介護をサポートする居宅介護支援事業所さくら(NPO法人在宅福祉かんわケア大地、群馬県高崎市)の主任介護支援専門員(ケアマネージャー)の新井薫さんは、当初、ヘルパーによる男性の身体介助のサービスを提案した。だが、男性の妻は他人が家に入ることに抵抗感を持っていたため、妻の介護力をサポートする意義も併せて日中のデイサービスの利用をケアプランに組み込んだ。

 新井さん自身も、終末期のがん患者さんをデイサービスに送りだすのは初めてのことだったため、家族とはよく話し合ったという。

 これが功を奏した。当時、男性はあまり食欲がなく、自宅では食事をほとんど摂っていなかった。口数も少なく、ときどき、習字をするだけの生活だったそうだ。

 オリジンでは、初回こそあまり話さなかったが、少しずつスタッフや他の利用者と打ち解けた。男性が昔話をすると、同年代の利用者から「あら、それ、わたしも知ってるわよ!」と合いの手が返ってくるため、ワイワイ、話に花を咲かせるようになった。
 
 男性の変化に、家族もスタッフも驚いた。小池さんはこう説明する。「私たちにも家と外と別々の顔があるように、社会に出て他の人と話すことで、その人らしさが引き出されることがあります。そんな時間を多く作ることが、私たちの役割だと思っています」。

 男性とスタッフとの雑談から、大のうどん好きとわかり、男性がオリジンに来るときは毎回、うどんを用意した。男性は毎回、「うまい!」と完食した。そこで、利用者のなかにうどんが打てる人がいたため、スタッフはうどん打ちを企画して、賑やかな時間をつくった。男性は「手打ちは最高!」親指と人差し指で丸を作って、うれしそうに笑っていたという。

 また、デイサービスの送迎で、この男性はドライブが好きなことが分かり、その次の回からは他の利用者の家を回ってから男性の家に行くというルートに変更した。口数少なかった男性が、送迎の道すがら、町の様子を解説してくれるようになった。

 さらに、紅葉シーズンだったため、小池さんがが「ドライブに行きませんか」と誘って、榛名まで行ったこともあった。男性の体調を考慮してルートを組んだが、「榛名湖に記念碑がある」と懐かしそうにいろいろ話し始めたため、榛名湖まで足を延ばした。小池さんが記念碑の前に車を横付けすると、男性は車のなかで好きなコーラを飲んだ。

 その翌日、ケアマネージャーの新井さんから「医師があまり長くないと診断した」と連絡が入った。翌々日、男性は息を引き取った。

 葬儀のとき、小池さんは男性の家族から「榛名湖へドライブに行った話を聞きました」と言われたそうだ。
「最後の思い出をつくれ、ご家族にも話されたと聞いて、楽しそうにされていたお姿が目に浮かびました」と小池さんは振り返る。

 新井さんは、デイサービスの利用は家族にとっても有意義な時間になると話す。「終末期のがん患者さんをデイサービスに出すとき、ご家族は『外出先で亡くなったらどうしよう』と躊躇するという声を聞きます。でも、お別れが近いという緊張状態のなか、家族にはちょっと一服できるレスパイトケア(一時的にケアを替って、家族にリフレッシュしてもらうサービス)も必要です」と新井さんはアドバイスする。

 終末期を過ごす場所は自宅でも施設でもいい。大切なことは、ご本人が好きなことや自分らしさを知っている人が周囲にいること。それが最期の幸せな時間につながる。

オリジン管理者の小池裕子さん、小池昭雅さん。

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