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レポート

2015/11/24

来年4月から始まる患者申出療養制度

「患者申出療養制度は、がん患者にとって問題の多い制度」

全国がん患者団体連合会理事長と副理事長にインタビュー

福島安紀=医療ライター

 全国のがん患者団体のネットワーク組織である「一般社団法人全国がん患者団体連合会」(全がん連)が、今年5月に発足した。これまでに「がん対策基本法改正に関する要望書」や「患者申出療養制度に関する共同アピール」を提出するなど、活発な活動を展開している。設立発起人で理事長の天野慎介氏(一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン理事長)と副理事長の松本陽子氏(特定非営利活動法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長)に、がん患者団がネットワークを組む意義と患者申出療養制度の問題点などについて聞いた。


――全国がん患者団体連合会を立ち上げた目的とその意義を教えてください。

松本氏
 事務局長の三好綾氏(特定非営利活動法人がんサポートかごしま理事長)を含め、私たち設立発起人の3人は国のがん対策推進協議会委員として、患者の声を国のがん対策担当者に届けてきたつもりです。しかし、ある時から、私が見聞きしている愛媛の患者さんや家族の声、自分自身の経験だけでは、多くのがん患者さんの声や思いを本当の意味で拾い上げて対外的に届けられているのか疑問に思い始めるようになりました。全国にこれだけたくさん、がん関連の患者会があるわけですから、交流の場を作ることで横のつながりを作って意見を集約し、がん患者とその家族が何を必要とし、何に困っているのかという声を対外的に届けることが必要だと考えたのです。

一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長で一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン理事長の天野慎介氏。
2000年、27歳のときに悪性リンパ腫を発症、再発、再再発も経験。厚生労働省厚生科学審議会がん登録部会委員なども務める。

天野氏 僕自身が、連合会の必要性を強く感じたのは、2年くらい前のことです。グループ・ネクサス・ジャパンの理事長として、国会議員会館へ要望に行ったときに、国会議員やその秘書から、「がんの患者団体ってあなた以外はほとんど来ないよね」「がん対策を頑張っても票にならない」などと言われたのがきっかけです。個々の団体で要望するのではなく、多くのがん患者団体がまとまって意見を言わないとがん対策の政策立案者にはなかなか要望を聞いてもらえないと痛感しました。日本人の死因第1位で罹患者の多い病気ですから、この状況を変えなければと強く思いました。

 僕は沖縄県のがん対策推進協議会委員も務めていますが、沖縄本島や離島の患者さんたちの声を聞くと、がんに対する偏見が強い地域があったり、がんに罹ったことで仕事を失い、社会的なつながりまでも奪われたりといった社会的痛みを抱えている人が多いことが分かりました。こういった地域の患者さんの声は厚生労働省や国会議員に届いていないと思いますので、しっかりと届けたいと感じています。

 国のがん対策推進協議会委員をしていたときには、第2期のがん対策推進基本計画に新たな全体目標として「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」を盛り込むことを提案したことがあります。「がんになっても安心して暮らせる社会」にするには、医療者や患者・家族だけで何とかなるものではありません。広く社会を巻き込まなければならないですし、そのためには少なくとも患者団体は連携して取り組まなければ話になりません。来年、がん対策基本法制定から10年を迎えるにあたり、国会がん患者と家族の会(がん議連)を中心に基本法改正の動きが出てきていますし、第3期のがん対策推進基本計画の作成もほぼ同時に行われます。地域の患者・家族の声を集約し、必要なことを訴えていかないと、がん医療の向上やがんになっても安心して暮らせる社会の構築につながる法改正や計画作りは実現できないと考えました。

一般社団法人全国がん患者団体連合会副理事長の松本陽子氏。NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長。19歳のときに父親をがんで亡くし、33歳のときに子宮頸がんを経験。サバイバーとして、また遺族の立場でがん対策に取り組む。厚生労働省厚生科学審議会がん登録部会委員。

――現在の加盟団体は何団体ですか。

松本氏
 最初は、私たち設立発起人が国の委員などでご一緒した方たちが加盟されている患者団体を中心に16団体でスタートしましたが、現在(10月末現在)は26団体になりました。今後、さらに仲間を増やしていければと思います。


――すでに、「がん対策基本法改正に関する要望書」「患者申出療養制度に関する意見書」などを出されていますね。

天野氏
 6月に「がん対策基本法の改正に関する要望書」を国会がん患者・家族の会、厚生労働大臣の塩崎恭久氏、厚生労働省健康局がん対策健康増進課長の正林督章氏、厚生労働省がん対策推進協議会会長の門田守人氏宛に提出しました。主に(1)「救える命を救う」「避けられるがんを防ぐ」ための対策、(2)緩和ケアと在宅医療の推進、(3)小児がん・希少がん・難治がん対策、(4)がん患者の就労を含めた社会的な問題への支援、(5)がん患者と家族の権利と尊厳を守るための対策――などを要望しました。

 また、安倍首相のリーダーシップのもとに今年度中にまとめられることになっている「がん対策加速化プラン」に対する要望書も出したほか、8月には厚生労働省に対して「患者申出療養制度に関する意見書」を提出しました。患者申出療養制度に関しては、日本難病疾病団体協議会(JPA)の代表の方々と話し合う機会があり、疾病を超えて要望していかなければいけない問題だということで、8月には共同記者会見を開き、9月後半には「患者申出療養制度に関する共同アピール」を発表しました。

松本氏 全がん連として要望書を出す際には、加盟団体の方々の意見を集め、それを集約して要望書を作成するようにしています。(1)混合診療の全面解禁は今後も行わず、日本の国民皆保険制度を堅持すること、(2)患者申出療養制度における患者の安全性の確保と負担軽減に努めること、(3)患者申出療養制度を含む医療政策の策定プロセスへの患者参画を進めること――などを要望しました。


――患者申出療養制度は来年4月からスタートすることになっています。がん患者にとって特に問題なのは、どのような点でしょうか。

天野氏
 あまり知られていないようですが、患者申出療養制度は、現在原則的に禁止されている混合診療の全面解禁につながりかねない制度です。我々が危惧しているのは、患者申出療養制度によって未承認の医薬品や医療機器を使うことが、保険承認されるまでの一時的なものではなく、通常の状態になってしまうことです。その結果、金銭的に余裕のないがん患者がいつまでたっても新しい薬剤や治療法にアクセスできなくなることにつながりかねません。患者申出療養制度が導入されることで、薬剤や医療機器の保険適用が遅れたり、保険適用されない薬や医療機器が増えたりするのではないかといった危機感が根底にあります。

 特に、難治性のがん、患者数が少ない希少がんなど治療法が限られたがんの患者さんの中には、国内未承認薬の医薬品を全額自費でもよいから使いたいと考え、混合診療の解禁を求める患者さんが一定数いるのは事実です。しかし、国立がん研究センターの推計では、国内未承認のがん治療薬(今年8月17日現在)の7割以上は、1カ月当たりの治療費が100万円を超え、月700万円以上掛かる薬もあります。保険適用になっている薬でさえ、がんの治療薬には高額なものが多く、「お金の切れ目が命の切れ目」になっている患者さんは少なくありません。患者申出療養制度を利用して1カ月に100万円以上の治療を続けられる患者さんはかなり限られるはずです。患者申出療養制度で混合診療が認められた状態というのは、あくまで過渡的なものであり、例外的な状態であるべきです。有効性・安全性が認められた薬や医療機器には基本的に全て保険が適用されるというのがこれまでの保険制度ですし、それを継続していただきたいというのが私たちの考えです。患者申出療養制度は一見、患者のために考えられた制度のように思うかもしれませんが、この制度の導入が、混合診療の解禁、国民皆保険制度のなし崩しにつながったら、私たちがんの患者だけではなく、国民全員が困ることになります。

患者申出療養制度とは
 がんや難病などの患者からの申出に基づいて、国内未承認の医薬品や医療機器、あるいは、他のがん種の治療に使われている適応外の医薬品や医療機器などを、保険適用の診察、検査、治療、入院費などと併用できる仕組み。今年5月に成立した医療制度改革関連法で、2016年度からの導入が決定している。患者の申出を受け、臨床研究中核病院が申請すると、国の専門家会議が安全性・有効性・実施計画の内容を原則6週間(2例目以降は2週間)で迅速に審査し、承認されれば臨床研究中核病院で治療を受けられる。ただし、国内未承認あるいは適応外の医薬品や医療機器には保険が適応されず全額自己負担となる。

――意見書を出した手応えはいかがですか。

天野氏
 9月前半に、中央社会保険医療協議会総会(中医協、※健康保険制度や診療報酬改定に関して審議する厚生労働大臣の諮問機関)で、日本難病疾病団体協議会と全がん連の代表が2人ずつ、意見を述べる機会を得ました。私と松本副理事長が、患者申出制度のスタートによって国民皆保険制度のなし崩し的な空洞化につながってほしくないことや、科学的根拠に基づいた有効性・安全性が示された治療薬についてはこれまでと同様に、薬事承認と保険適用を進めてほしいなどといった意見を述べました。1号委員(保険者)、2号委員(医療関係者)、3号委員(公益委員)からも、「言っていることはその通りだ」「概ね私たちの今までの考え方と一致していることが分かった」といったご意見をいただきました。「もっと早く患者団体の声を聞くべきだった」と言ってくださる方もいました。制度の導入はすでに決まっているので、日本難病疾病団体協議会とも協力して、患者の不利益にならないような制度になるように、これからも提言を続けていきたいです。

 何しろ、実際にはまだまだ問題点が多いのが実情です。例えば、厚生労働省の担当者は、患者申出療養制度を利用した患者さんのデータを活用して新規治療薬や医療機器の保険承認につなげるといった説明をしているのですが、新しい薬の有効性・安全性を評価するためには、その薬の投与を受ける前にどのような治療を受けたか、患者の進行度、併存疾患の有無などと併せて総合的に判断する必要があります。患者申出療養制度を利用する患者さんは、新規治療薬を使う前に受けた治療や進行度もバラバラである可能性が高く、そういった患者さんのデータを本当に、科学的根拠に基づいた有効性・安全性を評価するためのデータとして使えるのか疑問です。

松本氏 それから、患者申出療養制度を使って国内未承認の薬を使い、大きな副作用が出て死亡したり障害が残ったりしたときに、誰が保障してくれるのかという点、副作用の治療は保険診療で受けられるのかといった点など、具体的なことが何も決まっていないことも不安です。患者申出療養制度を使って未承認薬を使うのか否かや、制度を利用したい患者がどこに相談したらよいのかも分かりません。がん治療の場合、がん診療連携拠点病院の相談支援センターをその相談場所として想定しているような話も出ましたが、現実的ではないように思います。現時点でも相談支援センターは膨大な件数の相談に応じていてパンク寸前になっているところもあるからです。わらにでもすがりたい患者が、科学的根拠のある情報を得て、冷静に治療法を選択できる環境が整わない限り、わたしたちのための制度にはならないと考えます。また、相談支援センターにいるソーシャルワーカーや看護師さんが未承認薬を使うかどうかの相談に十分にのれるのかといった点にも課題があると感じています。日本難病疾病団体協議会の方もおっしゃっていましたが、患者申出療養制度は私たち患者・家族側が望んだ制度では決してありません。


――要望活動とは別に、12月に「がん患者学会」を開くそうですね。

松本氏
 12月19日、20日の2日間、がん研究振興財団との共催で、国立がん研究センター国際研究交流会館(東京都中央区)で「がん患者学会2015」を開催します。目的は、全国のがんの患者団体が交流を深めつつ、がん医療やがん対策の課題について学び、患者団体が取り組むべき課題を議論することです。全がん連の加盟団体だけではなく、参加団体を公募し、選考された団体に対しては旅費の一部を助成します。

 私たちが、全がん連を発足させた目的の1つとして、患者団体同士が情報交換する場、がん医療やがん対策の課題について学ぶ場がほしかったということがありました。患者団体運営の経験や悩みをシェアする場はほとんどありませんでしたし、がん対策に対して改善を求める方向性を誤らないためにも、がん医療やがん対策の課題について正確な知識を身に付けておく必要があると考えたからです。例えば、がん検診について、私たち患者は自分ががんになっているので、早く見つけて助かる人が増えてほしい一心でつい闇雲にがん検診を勧めてしまう傾向がありますが、検診の限界、不利益、精度管理などについても理解しておくことが重要です。それを知らないと患者団体としての活動の方向性を誤ることになりかねません。

 「がん患者学会2015」では、(1)緩和ケア、(2)がん検診、(3)がん教育、(4)がん登録、(5)希少がん、(6)がん研究・臨床試験、(7)小児がん・AYA世代のがん、(8)医療費、(9)これからのがん医療――といった9つのテーマについて専門家の講演を聞いて学び、それぞれのテーマについて患者団体だけでパネルディスカッションを行い議論する予定です。学会の最後には、国の第3期のがん対策推進基本計画作成に向けて、私たちが何を訴えていくかを整理する時間を設けます。ステートメントとして当日まとめられるかは分かりませんが、国の基本計画策定を行うがん対策推進協議会への要望につなげたいと考えています。

天野氏 がん対策基本法が制定されてから今までの10年は、不十分ではあったけれども患者参画の時代でした。今後は、がん対策の協議の場に患者・家族が加わったことで何が変わったのか問われる時代が来ます。そのときに、僕たちが患者団体としてしっかり責務を果たしていく上で、がん医療やがん対策の課題に関する知識を持つことは不可欠です。寄付金で運営しているので資金面に困難を抱えてはいますが、毎年、がん患者学会の開催や政策提言活動など、患者の声を集約して届ける活動を進めていく予定です。


――最後に、今後の抱負をお聞かせください。

松本氏
 単にがん患者のしんどさ、大変さを訴えるだけではなく、患者・家族にとってよい方向へ、がんに関連する法律や制度を変えて行けるように具体的に働き掛けていきたいです。もう1つ、全国の仲間の連携を進め、共に学び合いつつ、連合体だからこそできることにも取り組んでいきたいと思っています。どうしても、がん対策の改善というときれいごとに終わりがちです。きれいごとで終わらせず、がんになって精神的、社会的につらい思いをする人が減るように、がん対策基本法改正と第3期がん対策推進基本計画の作成に向けて汗をかいていきたいです。

天野氏 「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」の施策の1つに「就労支援」がありますが、まだまだがん患者に対する社会の目は厳しいのが現実です。ある場所で、私ががん患者の就労支援の必要性を訴えたところ、経済団体の方に「大変だね。俺、がんにならなくてよかったよ」と言われました。2人に1人ががんになる時代ではありますし、この方のコメントには愕然としますが、それが一般の人の率直な感想ではないかと思います。身近にがん患者がいない人にとって、まだまだがんは他人事なのです。一方、ご自身、家族、親御さんががんになった方は大変な思いをされているのが現実です。患者団体が連携するのは当然のこととして、患者団体と医療関係者、行政担当者が話し合うことで、本当の意味で、社会全体でがんについて考えていけるようにするのが目標です。

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