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レポート

2014/12/9

〜アイビー千葉(乳がん体験者の会)公開講座〜

乳房再建で「温かく、柔らかく、美しい乳房」を取り戻す Vol.1

森下紀代美=医学ライター

 日本人女性の約20人に1人が罹患するとされる乳がん。治療では根治性が最優先されるが、QOLも重要であり、手術は乳房をできるだけ残す術式へと移ってきた。それでもなお、全切除術による乳房の喪失や、温存手術後の乳房の変形など、悩みを抱える患者は多い。

 乳がん体験者の会「アイビー千葉」が2014年10月に千葉県八千代市で開催した公開講座「進歩する乳房再建〜温かく柔らかい乳房再建を〜」では、これまで1000名に上る乳がん患者の乳房再建に携わってきた横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科准教授の佐武利彦氏が、乳がん手術後の再建方法について講演。続いて、同センター病棟看護師の岩元絵美氏が乳房再建術の看護について解説した。


横浜市立大学附属市民総合医療センター准教授の佐武利彦氏

自家組織で温かく柔らかい乳房を再建
 佐武氏は「乳がんの様々なパターンに合わせて薬物療法が選択されるように、乳房再建も患者さんが100人いたら100人とも状況は異なる。それぞれの患者さんに合った再建方法を見つけることが大切」と話す。

 乳房再建は、患者自身の身体組織(自家組織)を用いる方法と、人工物を用いる方法の2つに大別される。自家組織を用いた方法はさらに、筋皮弁移植、穿通枝皮弁移植、脂肪移植の3つに分けられる。皮弁移植とは「血流の保たれた状況で皮膚や皮下脂肪を移動する方法」のことだ(詳しくは後述)。また、乳房再建の時期と手術回数によっても分類され、乳がん手術と同時に乳房再建を行う一次再建、乳がん手術から一定期間を経て乳房再建を行う二次再建、乳房再建が1回の手術で終了する一期再建、2回の手術で終了する二期再建がある。

 自家組織を用いる方法の1つである「筋皮弁」法は、下腹部や背部から筋肉・脂肪組織・皮膚を血管も含めて採取し、胸に移植する方法だ(図1「筋皮弁と穿通枝皮弁」)。この方法は、10年ほど前まで自家組織を用いる再建の主流だった。ただし、筋皮弁法では筋肉をとってしまうため、合併症につながることがある。例えば、腹筋を用いる場合、手術後に腹壁が弱くなり、内臓が外に出ようとして腹部が膨れることがあった。こうした合併症は患者のQOLを大きく損ねてしまう。

図1 筋皮弁と穿通枝皮弁
(※クリックすると拡大します)
(出典:黒田真由・佐武利彦、からだの科学2013年春号; 277:53-57)

 こうした筋皮弁法の欠点を改善した方法が「穿通枝皮弁」法だ。この方法では筋肉はとらずに残し、脂肪組織と皮膚のみを穿通枝から連なる血管を含めて採取し、移植する(図2「腹部からの穿通枝皮弁による一次乳房再建)。穿通枝は、筋肉の中や下を通る太い血管から枝分かれして、脂肪や皮膚に血液を運ぶ細い血管のこと。筋肉をとらないため筋皮弁法よりも身体の負担が軽く、血流を十分確保したまま移植することから、温かく柔らかい乳房を再建することができる。穿通枝皮弁を採取する部位(ドナー部)には下腹部が選ばれることが一般的だったが、佐武氏は患者の希望に合わせて範囲を広げ、現在では13カ所から自由に採取できるようにした。例えば、「将来出産したい」と希望する患者では腹部ではなく臀部と大腿から、「ウエストを細くしたい」と希望する患者では腹部から、「おしりを小さくしたい」と希望する患者では臀部から、穿通枝皮弁を採取することが可能だ。

図2 腹部からの穿通枝皮弁による一次乳房再建
(※クリックすると拡大します)
(出典:黒田真由・佐武利彦、からだの科学2013年春号; 277:53-57)

 さらに佐武氏は世界初となる移植法を複数実現してきた。例えば、左右の臀部から穿通枝皮弁を1個ずつ採取し、胸に縦方向に2個移植する方法や、小さい乳房に悩む患者には大きめの穿通枝皮弁を用いて大きな乳房を再建し、反対側の小さな乳房には余った脂肪を移植し、血管をつないで豊胸する方法などにも成功している。個々の患者の希望に合わせた、テーラーメイドの再建術が現実のものとなっている。

 下腹部や臀部、大腿部の穿通枝皮弁を用いる再建では、組織を一度切り離し、手術用顕微鏡を用いて血管を再びつないで移植する「遊離穿通枝皮弁」法が用いられる。この方法は手技が煩雑で手術時間がかかり、術後管理も必要なため、実施する施設は限られている。また、臀部から穿通枝皮弁を採取して移植する方法は、国内では佐武氏らの施設でしか行われていない。

 これらの方法は、乳房の大きさと形を再建するだけでなく、機能的な目的も果たす。乳房を失うと身体のバランスが崩れ、肩こりが起きやすくなったり、首が痛くなったり、頭痛や腰痛などが起きやすくなったりすることがあるが、乳房再建はこれらの問題を解決する方法の一つとなる。さらに、乳がん手術後のリンパ浮腫も解決できるようになってきた。佐武氏らは、下腹部から穿通枝皮弁を採取する際、足の付け根のリンパ節も同時に採取し、それぞれ胸と腋の下に同時に移植している。その結果、リンパ浮腫の改善は見た目や測定値だけでなく、CT画像上でも、移植したリンパ節にリンパが流れることが確認されている。

 佐武氏らの施設の穿通枝皮弁を用いた再建の成功率は99%で、世界の施設と比べても突出した数字となっている。そのカギを握っているのが術後のモニタリング(後述)であり、病棟の看護師が果たしている役割は大きいと佐武氏は分析している。

 自家組織による再建には、下腹部や大腿部などから吸引した脂肪組織を注入移植する脂肪移植法もある。脂肪注入法では、下腹部や大腿部から吸引した脂肪を、移植する組織の深い部分から浅い部分に向かって一粒ずつ、万遍なく細かく移植する。この方法は脂肪を採取する部分に大きな傷を作ることがなく、また温かく柔らかい乳房が再建できる。

 佐武氏らは、脂肪移植法をインプラントと併用することで輪郭を自然な形にしたり、インプラントが皮膚から直接触れないようにしている。また再建した乳房の修正を行う際にもこの方法で行っている。ただし、脂肪移植法は現時点では保険の適応がなく、自費診療となる。また、1回に大量の脂肪を移植することが難しいため、目的とする大きさまで回復するためには、何回か繰り返して移植する必要がある。海外では、脂肪移植法により、顔や手の甲の若返り、損傷した筋肉の修復、乳がん術後の痛みの緩和などの効果が報告されている。

 最近注目されているのが、脂肪幹細胞を含む脂肪組織を利用する方法だ。脂肪幹細胞は脂肪組織に一定の割合で含まれている細胞で、新しい脂肪組織などに分化したり、新たな血管を作ったりするなど、多くの機能を持つ。移植した脂肪の生着率を高めることが期待されている。

 佐武氏はこれまでに約1000例の乳がん患者の乳房再建に携わっており、現在は穿通枝皮弁法は年間約100例、脂肪注入法は約80例に行っている。

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