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2013/8/20

がん患者が在宅医療を受ける際のポイント

福原麻希=医療ジャーナリスト

 厚生労働省は超高齢化社会に向けて、病院で治療を終えた後は、できるだけ自宅で療養できるよう、在宅医療政策を進めている。こうした状況の中、がん患者は在宅医療を受けながら一人暮らしができるのだろうか。独居のがん患者を多く診ている、在宅サポートセンター村山大和診療所(東京都東大和市)医師の森清氏、看護師の渡邉美華氏、姫野美穂子氏に、在宅医療の実際を聞いた。


在宅サポートセンター村山大和診療所(東京都東大和市)の看護師である渡邉美華氏(左)、姫野美穂子氏(右)

 近年、一人暮らしの高齢者が増えている。その理由はさまざまだが、厚生労働白書によれば、1983年に比べて2000年時点で子どもとの同居を希望する高齢者が減少し、「近くにいれば、別居でもよい」と考えている人が増加しているのが現状だ。

 このため、高齢者が「ひとり」になる日常は、次の3パターンに大別されるという。
(1)昼も夜も一人暮らし。
(2)家族と同居しているが、昼は家族が働いているので一人で過ごす。夜は家族がいる。
(3)子どもと別居しているが、昼は一緒に過ごす。夜は高齢者が一人になる。
 今回は、(1)のパターンとなる、70代男性で胃がん患者のAさんが終末期医療を在宅で受けている様子を聞いた。

さまざまな問題、不安をどう解決するか

 Aさんは胃がんによる胃全摘手術および食道と膵臓の一部を切除した。4年後には腹膜播種による腸閉塞で腹壁と腸管が癒着して排便ができなくなり、人工肛門を造設。食事は口から食べていた。妻を亡くしてからは一人暮らしで、他に身寄りはなかった。高層団地に住み、経済状況は生活保護を受給していた。

 退院時、Aさんひとりでは自立した生活はほとんどできない状態だった。歩行も一人ではままならず、介護度は5の判定だった。だが、Aさんは「病院という閉ざされた空間から抜け出したい」「妻との思い出の多い自宅で暮らしたい」と強い思いを持っていた。そこで、退院前から市役所の高齢介護課の職員やケアマネージャーが介入し、どのようにしたら、Aさんの希望をかなえることができるか話し合った。

 当初は、病院のカンファレンス(会議)で、「一人暮らしは無理」「とにかく入院を」という声があがった。だが、Aさんの「入院したくない」という希望は強く、それを受け、周囲は「どうしたら、ご自宅で過ごせるか」と前向きに話し合うようになった。その結果、退院後は、○訪問看護を毎日、○訪問介護を1日2回、○夜間対応型介護サービスを1日1回、○訪問診療を適宜、介入させることになった。

 在宅医療では、手術や集中的な化学療法などの積極的な治療はできない。だが、経口抗がん剤を用いた薬物療法、および、痛みや吐き気・嘔吐などのつらい症状をやわらげることはできる。Aさんの場合も医療・看護・介護のサービスが連携してチームを組んだ。

 本人も含めて心配だったのは、(1)経済的な問題、(2)生活環境の問題、(3)死後の不安、だった。「経済的な問題」とは、おもに金銭の管理のことだった。が、入院中に歩行器を用いて移動する練習をした結果、自宅から銀行に行き、毎月生活保護費を引き出すことができるようになった。

 「生活環境の問題」とは、食事の準備や入浴、部屋の掃除などだったが、ケアマネージャーが生活保護費内で賄えるよう訪問介護のプログラムを組むことで解決できた。家の中は、もともとバリアフリータイプだった。夜は夜間対応型のヘルパーを利用した。一晩に1回巡回に来てくれ、何かあったら訪問看護ステーションへ報告してくれるシステムになっている。「死後の不安」については、市役所職員と相談しながら葬式や墓のことを決めておき、司法書士に伝えた。

 自宅に戻ってからのAさんの生活での楽しみは新聞折り込みのチラシで「どこのアイスクリームが安いか」を調べて、歩行器を用いて近所のスーパーまで外出し、好きな商品を買ってくることだった。外出時はヘルパーが付き添った。

 病院退院時から痛みや呼吸苦はあったが、最期まで自宅にいたいという明確で強い意志があったので病院には搬送されず、訪問診療によって森医師をはじめとする複数の医師と、渡邉看護師、姫野看護師が対応した。近所の薬局薬剤師は薬を処方するごとにAさん宅を訪問し、おもに、薬が問題なく飲めているか、残っている薬の数や種類を確認した。病態によって薬が飲みにくくなった場合は、例えば錠剤を砕いて粉薬にしたり、朝・昼・夜の薬を1つの袋に入れたりするなどの対応をした。

 自宅で過ごすAさんは「病気になっても、管につながれていても、今までと変わらず家で過ごせるのは本当に有り難い」と言いながら、妻との思い出をスタッフに話していたという。姫野看護師は「患者さんが最期まで自宅にいたいというご希望があれば、それはかないます。市役所などの周囲とよく話し合っていれば、経済的なこともあまり心配いりません。医療や福祉のプロが専門性を活かしながらサポートします」と力強い口調で言う。


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