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2013/4/9

家庭での抗がん剤曝露防止―患者・家族もほんのちょっとの心がけを

関西電力病院 薬剤部長の濱口良彦氏と同院がん薬物療法認定薬剤師の倉橋基尚氏に聞く

野中希=医学ライター

――こうした曝露防止対策を患者に知らせることで、もしかしたら、それほど毒性の強い薬を飲むのか、それを家族に知らせなければいけないのか、または、自分自身が差別的に扱われるのではないかと否定的に受け取る患者もいるのではないでしょうか。

倉橋 当初、この取り組みを始めるにあたって、我々が一番危惧していたのは、その点でした。だからこそ、アンケートをしてみようと考えたのです。

――先生方がまとめられた調査結果では、患者からはずいぶん前向きな回答が得られています。パンフレットを読んだ感想として、ほとんどの患者が「本人や家族が知っておくべき」と回答されていますね。3.3%おそらく1例ぐらいでしょうが「家族には知られたくない」、あるいは、「対策の一部だけを実践する」と回答した人がいたわけですが。

倉橋 おっしゃる通り、患者の回答は我々が驚くほど前向きでした。「是非、本人や家族が知っておくべきだ」と回答された方がほぼ全員だったので。その要因としては、最近は、治療前に医師や薬剤師、看護師などが、これから行う治療の内容やそれに伴う副作用を十分に説明するようになっていることがあると考えています。これによって患者も、これから自分が行う治療を知るようになっています。また、インターネットの普及も寄与していると思います。他の疾患の患者に比べ、がん患者は勉強熱心な方が多く、さまざまな情報を入手しています。そのため、抗がん剤に対する誤解や誤解からくる不安はずいぶん減っていると感じています。
 
 調査で「対策の一部だけを実践する」と回答した方は車椅子を使われている患者でした。そのため物理的に制約があり、全項目を実施することができないということでした。「家族に知らせたくない」と回答した人も1名ありましたが、備考欄の記載によると、「自分のいないところで家族だけに知らせるようなやり方はして欲しくないが、自分と同席なら構わない」ということで、つまり全員の患者が受け入れられるという結果だったのです。

――患者向けパンフレットによると、尿、便、嘔吐物、汗などの注意がポイントとなっています。せめて男性が小用をたすときぐらいは座ってしましょうという、いわばいずれもエチケットと言える範囲のことが書かれていますね。

倉橋 そうです。抗がん剤成分が排出される経路として、汗、尿、便、または内服抗がん剤を飲んだ直後に嘔吐した場合の嘔吐物、そういったものを主に取り上げていこうということになりました。

 家族が一番接触しやすいのは患者の汗ですが、調べてもデータはほとんどなく、汗には出てきてもごく微量ですし、医師とも相談しましたが、その汗に出てくる抗がん剤によって家族に影響が出るならば、そもそも患者の皮膚に異常が出てくるでしょうと。実際には、汗によって出てきた抗がん剤が皮膚に異常を起こすことはありません。汗による曝露はほとんど考えなくて良いと思います。

 一般の方でも汗をびしょびしょにかいて、それを他人が触れるかもしれないならばエチケットとして汗を拭き取りますよね。がん患者であってもそれは同じだと思います。ですから、汗については、大量にかいたら拭きましょう、汗に触れたら手を洗いましょうと書いています。

濱口 尿についても、最近では、ご家庭で男性は奥さんに、「掃除が大変だから、小用をするときは座ってしてくれ」と言われませんか。ご自宅では立って小用をするのではなく、座ってするのがエチケットと考える方が増えてきていると思います。また、男女問わず、横にこぼしてしまったら拭き取るのもエチケットです。抗がん剤服用中に、座って小用を足すこと、こぼしたら拭き取ることはそれほど違和感のあること、特別に対策をしていると感じられるようなことではありませんよね。この程度のことで曝露リスクは減らせられるわけですし、そもそもこれらの行為はエチケットと言えるものですから。

――パンフレットには何日間という期間も明記されていますね。例えば、尿中残留48時間未満の抗がん剤では投与後2日間注意することと記載されています。数日間連続で投与した場合、最終投与日から2日後まで注意が必要で、その後は気にしなくても大丈夫ということですね。

倉橋 多くの薬剤は、最後に投与した日から2、3日間注意すれば問題ないと思います。いくつかの薬剤については、最後に投与した日から7日間対策を取るとしましたが、これも中には3〜4日間でよいものもあります。ただし、薬剤別に日数を覚えるのは大変なので、一律に7日間としました。これも、対策そのものがエチケット程度のものとしたこと、排泄物が手に触れれば手洗いするという当たり前の行為をベースにしたことで、7日間行ったとしても負担のない対策だと考えたからです。

濱口 過去には、効果の高い制吐剤などがなく、「抗がん剤=嘔吐」という時代がありました。しかし、今や制吐剤の効果は非常に高く、むかつきや悪心などを経験することはあっても、トイレから出られないくらい嘔吐するというケースは少なくなっています。とはいえ、抗がん剤服用してしばらくは嘔吐しやすい時間でもあります。こうした嘔吐物で汚れたものは念のためよく洗ってくださいという対策としました。通常の衣服の洗濯とは別に洗濯するとしましたが、これも今の時代はあまり違和感のない対処だと思います。

――曝露することによって何かが起こることはほとんどないとパンフレットにも書かれていますが、起こるとすればどのような症状が考えられますか。また、患者に尋ねられたらどのように説明されますか。

倉橋 これを作成した時は、曝露してもほぼ何も起こらないだろうと想定して作りましたし、経験上、実際にパンフレットで説明しても、「曝露したらどうなるのですか?」と聞かれることはあまりありませんね。患者には「そうだよね。そういう対応はしないといけないよね」と普通に受け止められていると感じています。

 患者への曝露ではないですが、薬剤師に発症した発疹や結膜充血について、業務との因果関係が示され、公務災害で認定されたと最近1例報告されました。日常的に抗がん剤を取り扱っている薬剤師のケースですが、微量の取り込みにより症状が発生するケースはあるということです。

 もし家族が曝露した場合、症状として考えられるのは、ぜんそく様症状や皮膚症状などで、つまり抗がん剤の急性毒性を説明するよりほかないのですが、実際にはほとんど起こらないと考えています。

 ただ、よく尋ねられるのは、お孫さんなど小さいお子さん、特に乳幼児がいらっしゃる場合です。小さい子供であれば大人よりも影響を受けやすいことが考えられますので、その場合はきちんと対策を行っていただいたほうがよいでしょう。例えば、口移しで食べ物をやりとりするなどは避けていただくなどの指導はしています。

 ただし、過去に看護師のアンケートであったのですが、患者が手袋をしなければ人に触れようともしないというケースもあるようです。しかし、このような過剰な反応は全く必要ありません。家族と触れ合うことは一向に構いませんし、間違った知識で家族との触れあいを避けることは患者にとって不利益でしかないと思います。

濱口 理解してもらいたいのは、こうした自宅での対処について、抗がん剤の投与を受けている患者だけが特別なのではない、ということです。例えば、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症に家族が罹患した場合、介抱する方は手洗いをよくするでしょうし、嘔吐物や排泄物の処理は慎重に行います。または嘔吐物や排泄物が付いた衣服、タオルなどは、ほかの洗濯物とは別に洗ったりしますよね。こうした感染症の場合の対処は、エチケットというよりも少し厳しいくらいのものです。

――パンフレットで対象となっている抗がん剤は、細胞障害性抗がん剤ですね。最近、登場している分子標的薬とは異なるものと考えてよいのでしょうか。また、ホルモン療法薬や、モルヒネなどオピオイド系鎮痛剤などはどのような扱いになりますか。

倉橋 ホルモン療法剤やオピオイド剤については問題が起こるとは考えられず、曝露防止の対策を講じる必要はありません。

 分子標的薬は難しいところです。殺細胞性抗がん剤に特徴的な毒性の1つとして遺伝毒性がありますが、分子標的薬にはそのような報告はなく、毒性のプロファイルはかなり違っています。そのため現在はパンフレットの対象外としていますが、今後の検討課題だと思っています。

――経口剤についてはどうですか。

倉橋 今回作成したパンフレットは、注射剤、内服抗がん剤すべてに利用できるものとして作ったのですが、ご家族が内服抗がん剤を扱うときの注意点は十分に盛り込めていません。現在のところ当院では薬剤師が直接対応することで補っています。

――錠剤ではフイルムコートがなされていて、患者や家族が触れても大丈夫なようになっていますね。

倉橋 そうですね。錠剤やカプセルは手で触れることを前提としていますので、すでに薬剤そのものに対応がなされています。一方、最近は服用しやすいように顆粒製剤なども出てきていますので、今後、検討していければと思っています。

 なお、患者の状態により、より服用しやすいよう病院薬剤部で薬剤を細かく粉砕して袋詰めするといったケースも少なからずあります。こうした場合、吸入や接触のリスクが高まりますので、服薬時の注意点などをまとめることは重要だと思っています。

濱口 近年、抗がん剤の進歩は著しく、現在の抗がん剤治療は飛躍的に進歩しましたし、また、海外で使えるのに日本で使えないといったドラッグラグもなくなってきました。その一方で、いろいろと考えなければならないことも増えてきたということでしょう。そこで、抗がん剤治療を受けられる患者の日々の暮らしに少しでも手助けとなれば、疑問に思われるところは少しでも解消できれば、と思い、こうしたマニュアルを作りました。こうしたマニュアルを見ていただき、より良い QOLにつながってほしいと思っています。

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