このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2013/4/2

「痛みで生活に支障が出ている」と伝えることがポイント

―がん疼痛治療のコツを国立がん研究センター中央病院緩和医療科の的場元弘氏に聞く―

満武里奈=日経メディカル別冊

──治療中は、治療の効果をどのように評価するのでしょうか。

的場 痛みの治療をする際、病院で使用される痛みの評価スコアとして、NRS(Numerical Rating Scale)があります。これは、0から10の整数で痛みの強さを評価するもので、0は痛みのない状態、10は想像できる最高の痛みを指します。「想像できる最高の痛み」というと分かりづらいですが、「ありえない」というくらいの強い痛みをイメージして、それが10だとし、今感じている痛みの強さを数値で示します。

 ここで重要なことは、そのときに評価したNRSの数値そのものがいくつだから軽症だとか重症だとか判断するものではないということです。数値そのものよりも、数値の変化を見ることが重要なのです。たとえば、NRSで8だった人が鎮痛薬を処方したことで6、4と徐々に減少したら、今実施している治療の効果が出ているということが分かります。逆にNRSで5だった人が鎮痛薬を処方したけれど、その後数値が変わらなければ、その治療では効果がないのです。

 最初に言いましたが、痛みの治療の目標は、「痛みでできないことや困っていること」がなくなることです。それには、その患者さんの痛みに対して適切な鎮痛薬の種類と用量を決めることが必要なのです。人によって痛みの程度も感じ方も違います。そのため、鎮痛剤は、どの方でも同じ用量を投与するものではなく、その方に適した量を処方する必要があるのです。

 「痛みによって日常生活に困難が生じている」と訴え、鎮痛薬が処方されます。その鎮痛薬を服用しても改善しないのであれば「まだ痛んで、生活が困難だ」と改善するまで訴えてください。がんの痛みの治療では、それぞれの患者さんで用量を決める必要があります。少ないか多いかではなく、その方に適切な用量を見つけ出すためには、痛いものは痛いと訴えていただくことが必要なのです。

 以前よりは、モルヒネなど医療用麻薬に対する誤解は減りましたが、いまだに存在しています。誤解とは、例えば、「麻薬だから服薬し始めるとだんだん効かなくなって、やめられなくなるのでは」というものです。治療を開始する前に説明をしますが、治療を開始してしばらくするとまた不安に思ってしまうこともあるようです。また、医療用麻薬ではなく、軽症に用いられる鎮痛剤であっても、「薬を増やしたくない」と我慢してしまっているケースもあります。

 しかし、皆さんが想像される違法麻薬と医療用麻薬は大きく違います。医療用麻薬を痛みの治療に使っている範囲では依存性はありません。痛みが強くなっても、用量を増やすことで痛みを抑えられます。用量を増やしてしまうと「もっと痛くなったとき、効かないかもしれない」と不安になる必要はありません。逆に、痛みを放っておくと、さらに強くなり、結局、必要な薬剤量も増えてしまうという悪循環に陥ります。もし、抗がん剤や放射線治療あるいは手術などで痛みが弱くなったり、なくなった時は、医療用麻薬は決められた方法でやめることもできます。

 医療用麻薬を服用すると、その副作用として便秘や吐き気が起こることがあります。こうした経験があるために服用したくないと思われる方もいますが、こうした副作用にもきちんと対処法があります。

 また、定期的に服薬する鎮痛薬とは別に、突発的な痛みに対して処方される頓服薬(痛みを感じたときに飲む薬)についても、痛みがあるのに我慢して使わず、「お守り」のように大事に持っているだけというケースも少なくありません。鎮痛薬はあくまで使うために処方しているので、痛いときはしっかりと服薬することが大事です。ただし、痛みに対して頓服薬だけで対処しているだけではいけません。痛みが出るということはベースとなる鎮痛治療が十分でない可能性があるので、どんな頻度でどれくらいの強さの痛みが出るのか、医療者に知らせるとよいと思います。

──痛みの訴え方が重要なのですね。

的場 ただ、痛みの治療に関しては、医療者側にも問題があるのです。最近、「Painful Truths About Pain Screening(痛みに対する「痛い」真実)」という論文が発表されました。米国では、呼吸や脈拍などと同様に痛みもバイタルサインであると考え、定量化することで、痛みが客観視でき、適切な治療を施すことができると期待されました。しかし、その結果、明らかになったのは、痛みを訴えている患者に対し、適切に治療が行われたのはわずか6分の1程度だったというものです。

 その原因は、「私には(患者が)痛いと言わなかった」「やるべきことはやった」といった程度の理由でしかなく、つまりNRSで定量化して数値として出しても、治療へは結びつかないという現実もあるわけです。客観的に評価するのが難しく、一人一人痛みのとらえ方が違うために、「痛い」という訴えに対して「本当にそこまで痛いのだろうか?」と、下手をすると疑うことが先になってしまっているのです。

 ですから、先に述べたように、「痛くて生活上、できないことや困っていることがある。この困っていることを改善して欲しい」と言い、医療者はその困難が取り除けるまで十分に治療をすることが大切なのです。

 以前よりは、がん疼痛治療が日本に浸透したとは思いますが、いまだ医療用麻薬に対して患者が不安や誤解を抱くのは、その不安を取り除ききれていない医療者に問題があります。今後、痛みの治療を適切に実施するために、医療者が痛みの治療に対する理解を深めることが欠かせないと思っています。

この記事を友達に伝える印刷用ページ