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2013/3/19

がんペプチドワクチン、現在の実力は?

加藤勇治

 山上氏は、「統計学的な解釈の詳細は省略しますが、潰瘍ができた患者全てで高い効果が期待できるという結果ではありません。結果を単純にしてみると、100例の患者にelpamotideを投与すると10%にあたる10例に潰瘍ができ、その10例の中にはelpamotideがとてもよく効いて生存期間がよく延長する患者と、elpamotideは効いてはいるもののそれほど生存期間の延長が得られなかった患者がいるのです」と語る。また、「elpamotideがよく効いている患者であっても、残念ながらいずれ病状が進行してしまっていることも事実です」(山上氏)。

 続けて山上氏はいう。「こうした効果の出方は、抗がん剤の効果の出方とよく似ています。抗がん剤においても、患者の中にはとてもよく効果が得られる患者がいて、その方々の生存期間は延長します。しかし、残念ながらいずれ病状が進行してしまいます」。

 また山上氏は、「抗がん剤は投与した瞬間から効果を発揮します。しかし、ペプチドワクチンの作用メカニズムから考えると、ペプチドを投与して体内で細胞障害性T細胞が誘導されるまでに少なくとも2〜3カ月の時間が必要なのです。そのため、こうした臨床試験を行って生存曲線を引いてみると、試験開始直後は実薬群とプラセボ群の間で差はないだろうと考えていました。しかし、実際には、潰瘍が認められた、つまり高い効果が期待できる患者群とプラセボ群の間で、試験開始直後から差が認められたのです。こうしたことも抗がん剤とよく似ています」と指摘する。

 一方で、「まだ詳細な検討は進んでいませんが、ペプチドワクチンがよく効いた患者では効かなかった患者に比べ治療開始時点で白血球数が多い傾向が見られました。やはり免疫療法らしい特徴があるのです」と山上氏はいう。

 2010年に米国で承認されて話題を集めた、前立腺がんを対象としたがんワクチンである「Provenge」においても、臨床試験の成績を見る限り、生存期間中央値をプラセボ群に比べて4カ月延長してはいるものの、Provenge群の患者もいずれ病状が進行してしまっている。Provengeはペプチドで刺激した単核球を体内に注入し、この単核球が細胞障害性T細胞を誘導するというもので、今回のelpamotideと似たメカニズムだ。

 こうしたことから山上氏は、「進行がんの治療で大切なことは、いかに生存期間を長くできるかと言うこと。現在の進行がんの治療は、ファーストライン治療、次にセカンドライン治療、サードライン治療と有効な治療をつなげていくことですが、こうした治療の選択肢にがんペプチドワクチンを追加し、選択肢を駆使することでいかに生存期間を延長していけるか、ということが重要なのではないかと考えています」と語る。

 また、「がんと診断され、手術によって切除できた患者に対し、再発を予防するために術後補助療法を行いますが、がんペプチドワクチンは、この術後補助療法として有効ではないかと考えています。術後に再発するというのは、目に見えない小さながん細胞が体内に残っていると言うことです。この小さながん細胞を、ペプチドワクチンで誘導した細胞障害性T細胞で死滅させれば、再発を予防できるのではないかと期待しています」(山上氏)。

 現在、このがんペプチドワクチンについては、elpamotideだけでなく、他の抗原を模したペプチドを複数混合した製剤を用いた臨床試験(COMPETE-PC試験)が進められている。対象は標準療法に不応となってしまった膵癌だ。1つの標的だけでなく、複数の標的を同時に攻撃すれば、生存期間延長効果が高まるのではないかというコンセプトだ。

患者会の寄付によるがんペプチドワクチンの研究を進める寄付講座を開設

 今回の臨床試験の結果から、ペプチドワクチンを投与することで高い効果が得られる患者がかもしれないということが示された。そうした患者を見いだす上で“目印”となったのが潰瘍だった。

2月13日、和歌山県立医科大学は、全国で初めてとなる患者団体からの寄付による寄附講座の開設を発表した。

 となると、elpamotide投与に伴い認められた潰瘍は何を意味しているのかという疑問が浮かび上がる。また、ペプチドワクチンを投与すると、体内ではどんな反応が起きているのか、体内でどんな反応が起きたらペプチドワクチンの効果が期待できるのか。研究すべきテーマは山積している。

 2013年2月、和歌山県立医科大学は、がん患者団体(一般社団法人 市民のためのがんペプチドワクチンの会 http://www.ccpvc.org/citizen3.html)の寄付を受けて、「がんペプチドワクチン治療学講座」という寄付講座を開設した。患者団体から寄付を受けて開設されるという、日本で初めての取り組みだ。

 この寄付講座の教授にもなる山上氏は、「まだまだペプチドワクチンには分からないことが多く残っています。また、臨床試験を進めていくには、試験を実施しやすい体制を整えることが必要です。今回寄付講座を設立することで、こうした研究や治験の推進役を担っていきたいと考えています」と抱負を語っている。

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