このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2013/1/29

新しいがん診断・治療開発の流れをつくりたい

満武里奈=日経メディカル別冊編集

がん細胞だけを攻撃するがんウイルス療法を開発中
中村貴史氏(鳥取大学大学院医学系研究科准教授)

 がん細胞だけに見られる特徴を生かし、がん細胞だけで増殖してがん細胞を破壊してしまうウイルス―、そんなウイルスを活用した治療法の開発が進んでいる。

 「がんウイルス療法」と呼ばれるもので、その特徴は、ウイルスが感染したがん細胞を死滅させるだけでなく、周囲のがん細胞にも新たに感染、増殖し、腫瘍全体を縮小させることができるという点だ。すでに、国内外で臨床試験を開始しているケースも出てきている。その多くがヘルペスウイルスやアデノウイルスといったウイルスを使用している。

 鳥取大学大学院医学系研究科准教授の中村貴史氏が研究しているのは、ワクシニアウイルスというウイルスを使ったもの。このワクシニアウイルスは、天然痘を予防するための痘瘡ワクチンに用いるために作製されたもので、過去に10万人の日本人に投与されており、安全性の高い弱毒ワクチン株として知られる。

 通常感染したら、身体は免疫機構を働かせてウイルスを排除しようとする。ワクシニアウイルスは、この身体の免疫機構を逃れて血中を移動でき、かつ感染した細胞内でのウイルスの増殖速度が速いという特徴を持つ。そのため、中村氏が研究しているワクシニアウイルスも、免疫機構でウイルスが排除されるよりも先に血中を介して転移したがんに到達でき、ウイルスが複製・増殖し、細胞を破壊する可能性が高いというメリットが期待できる。

 中村氏が使用するワクシニアウイルス(LC16m8)の特徴は、ウイルスが細胞内で成熟・移動・放出する際に重要な役割を果たす遺伝子が変異していて、細胞内で増殖する能力がなくなっているという点だ。この性質をうまく利用し、正常な細胞では増殖せず、がん細胞に感染した場合のみ、ウイルスが増殖するようにワクシニアウイルスを改変した。具体的には、がん細胞で発現が低下しているマイクロRNAを目印にして、そのマイクロRNAの発現が低下しているがん細胞でのみ、ウイルスの成熟・移動・放出する際に重要な役割を果たす遺伝子が働くようにした。

 これまでに、膵がんモデルマウスを用いた研究で効果を検討しており、改変したワクシニアウイルスをマウスの腹腔内に注射すると、投与11日後には、5匹中全てのマウスにおいて治療前の99%以上のがん細胞が消失した。また、マウスの正常細胞ではウイルスが増殖しないことも確認できた。一方、生理食塩水を投与しただけの対照群のマウスでは、がん細胞が増殖した。

 中村氏は、「現状は短期間の投与効果をマウスで確認できた段階。今後は、安全性のデータをそろえるほか、投与したウイルスの生体内での分布を調べる必要がある」と指摘する。人に投与した際の安全性を検討するフェーズ1試験は、早くて5〜8年後になると見ており、臨床現場で使用できるようになるのはそれからさらに10年以上先になるだろうと語る。中村氏は、研究を進める傍ら、臨床応用をにらみ、ワクチンメーカーや各科の臨床医へのアプローチも行う。中村氏は、「1日でも早く使用できるようになるよう、今は目の前の課題に1つずつ取り組むしかない。高い安全性を確保した上で、質の高い治療法を開発できるよう努力していきたい」と語る。

この記事を友達に伝える印刷用ページ