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2013/1/29

新しいがん診断・治療開発の流れをつくりたい

満武里奈=日経メディカル別冊編集

がん細胞に老化を思い出させる治療薬を開発
田原栄俊氏(広島大学医歯薬保健学研究院基礎生命科学部門教授)

 老化することを忘れ、無限に増殖し続けるがん細胞に、老化を思い出させることでがん治療につなげよう―そんなアプローチで研究に取り組んでいるのが広島大学医歯薬保健学研究院基礎生命科学部門の田原栄俊氏だ。
 
 正常な体細胞は、細胞分裂できる回数が限られており、細胞分裂を繰り返すごとに、染色体の構造物“テロメア”が短くなっていく。テロメアが短くなり一定の限界に近づくと、それがシグナルとなり持続的な増殖停止状態である「老化」状態になる。

 これに対し、いつまでも分裂し続けるのががん細胞だ。がん細胞は、分裂回数に制限がないため、無限に増殖でき、いわば老化を忘れた状態になっている。

 田原氏らは、正常細胞と老化している細胞で発現状態の異なる非コードRNAを複数見つけ出した。その1つが「miR-22」という22塩基からなるマイクロRNAだ。miR-22は、タンパク質を作る情報を持たないが、遺伝子やタンパク質の合成を阻害する働きを持つ。このmiR-22が正常細胞内では老化のスイッチをonにする因子であることを突き止めた。

 田原氏は、がん細胞にmiR-22を投与すれば、老化のスイッチが入り、正常細胞のように老化させることができると考えた。つまり、無限に増殖するがん細胞の分裂を永久に停止させることができれば、がんが増殖し続けられなくなり、がん細胞の増殖や転移を抑制できる可能性がある。

 実際に、培養したがん細胞にmiR-22を投与したところ、通常であれば増殖するはずのがん細胞が増殖しないことが確認された。さらに、高転移性の乳がん細胞を移植したマウスを用い、移植したがん細胞の腫瘍の塊にmiR-22を直接塗布したところ、がんが縮小したほか、転移が抑制された。

 田原氏はこの技術について、「老化を忘れてしまったがん細胞に、miR-22を補充することで、老化のスイッチを入れる。その結果、がんを死に導くことができる」と説明する。

 田原氏が治療のターゲットとなりうると考えるがん種は、miR-22の発現低下が確認された乳がん、子宮頸がん、大腸がん、胃がん、膵がんなど。再発や転移を抑制する薬物療法の新たな選択肢になりうると考えている。「がん治療では、外科的切除や、放射線療法後に再発抑制のために薬物療法を行うが、投与期間が長期間になると、やがて薬物耐性が出てしまうという課題があった。このmiR-22を投与する場合、従来生体内にあるもので、不足しているものを補充するという方法なので、薬物耐性の問題を解決できる可能性がある」と期待している。

 この技術では、miR-22をがん細胞だけに作用させる方法を確立するという課題はあるが、今後の研究の進展が注目される。

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