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レポート

2013/1/29

新しいがん診断・治療開発の流れをつくりたい

満武里奈=日経メディカル別冊編集

 これまでにない新しいコンセプトの診断法や治療法を開発するがん研究を支援するプロジェクトが進行している。文部科学省が平成21年からスタートしている文部科学省科学研究費新学術領域研究「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」だ。研究の中には、臨床応用するまでには10年から15年先とまだ時間はかかるが、がん治療に新たな選択肢を提供すると期待されている治療法がいくつも研究されている。同プロジェクト研究代表者の今井浩三氏(東京大学医科学研究所・病院長)に、がん診療の課題、そして同プロジェクトの目指すところについて話を伺った。また、同プロジェクトのうち、田原栄俊氏(広島大学医歯薬保健学研究院基礎生命科学部門教授)と中村貴史氏(鳥取大学大学院医学系研究科准教授)が進めている2つの研究についても紹介する。


がん診療の現状と課題を
「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」研究代表者の今井浩三氏
(東京大学医科学研究所・病院長)に聞く

―がん診療の現状についてお聞かせください。


今井 がん診療とその開発には、2つの大きな流れがあります。1つは「個別化医療」、2つ目は「早期診断・早期治療」です。

 個別化医療とは、遺伝子情報を含めた一人一人の患者の状態に合わせて最適な治療法を選択するという考え方です。これは、治療効果を高める一方で、できるだけ副作用を抑えるという点でとても重要な方針です。

 個別化医療を実現するには、投薬前にその薬によって高い治療効果が期待できる患者を見つけ出すためのバイオマーカーが必要になります。乳がん患者のうち、HER2蛋白が強く発現している患者に対してトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)が高い治療効果が得られるというのはその代表例です。個別化医療は徐々に広がってきているのです。

 最近、非小細胞肺がん患者のうち、ALK 融合タンパク質を作り出すALK 融合遺伝子が肺がんの発がんに重要な役割を果たしていることが明らかになり、さらにこのALK融合遺伝子が陽性の患者に対し、ALK阻害剤のクリゾチニブ(商品名:ザーコリ)を投与すると非常に高い治療効果を得られることも分かりました。対象となるALK 融合遺伝子陽性患者は肺がんの数%ほどなので、従来であればなかなか開発が進みにくい側面があったかと思いますが、ALK 融合遺伝子陽性患者に対して非常によく効くことが分かったので、開発が進み、臨床現場で使用できるようになりました。今後も希少ながんであっても特定の異常が発がんに関与していることが明らかになり、それに対して著効する薬剤が見いだされれば、開発が進められると期待されます。

 もう一つ、がん診療で重要なのは、早期発見・早期治療です。がん患者の予後を改善するためには欠かせません。

 たとえば、大腸がん検診の方法は、便潜血で陽性だった場合に内視鏡検査を行うという手順で進められていますが、がんの疑いがあるということで内視鏡で精査しても実際にがんが見つかる割合が低く、もっと精度高くがん患者を見つけられるよう改善が必要であると感じています。現在の検診は、患者への身体的な負担も大きく、効率が悪いものもあるのです。

 がんは国民のおよそ半分が罹患する時代ですから、効率よくがんを見つけ出す方法を研究して、早期発見・早期治療できるようにすることはとても重要だと感じています。


―がんの化学療法で使用される薬剤もここ数年でずいぶんと増えました。化学療法の課題について教えてください。

今井 増殖が活発な細胞にダメージを与えるというコンセプトで開発されている従来の抗がん剤は、分裂の盛んな正常な細胞にも影響を与えてしまうというデメリットがありました。しかし、その後にがん細胞が持つ特定の標的だけに作用する分子標的薬が登場し、高い治療効果が得られるようになりました。これは、細胞増殖に関わる経路が明らかにされるなど、がん細胞の性質が少しずつ解明されたためです。

 しかし、がん細胞が増殖する経路は複雑で、1つの経路をブロックして増殖を阻害するという今の治療法には限界があることも分かってきました。がん細胞は非常に強い生命力を持つため、増殖経路を1つブロックしても、がんはどうにかして生き延びようとするのです。一時的にがん細胞が縮小してもいずれ他の経路を使ったり、変異を起こしたりして再び増殖してしまうのです。ですから、複数の経路を同時に阻害する、あるいはがんがもつ特徴をうまく使って、がん細胞だけを殺す技術を開発するなど、これまでの考え方とは少し違ったコンセプトを見いだし、実用化に結びつける必要があるのです。文部科学省の「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」では、こうしたがん研究についてサポートしています。

臨床応用をスムースにするため無料で研究支援

 このプロジェクトでは、国内のがん研究者800人ほどを対象に、がん研究の成果を実臨床に応用するまでの道のりをスムースにするために支援活動を行っています。

 通常、1人で臨床応用まで実現しようとなると、莫大な必要がかかりますし、技術習得までに膨大な時間がかかっていまいます。そこで、研究費を助成するほか、遺伝子改変マウスの作製や新規抗がん剤を発見するためのツールなどを無料で提供しています。発見した新規薬剤候補物質を投与した際の発現遺伝子の解析、病理医による病理診断サービスなども無償で行っています。肺がんについては1300例、胃がん、乳がん、大腸がん、食道がんは400-600例ほどのデータを持っており、DNA、RNA、蛋白の発現量を調べることができます。

 また、このプロジェクトでは、日本人10万人を目標にしたがん疫学調査を行っていることも特徴です。今年まで登録を行い、2025年まで追跡します。がんを発症した人の生活習慣や臨床的特徴、遺伝子情報を解析する予定で、早期診断のマーカーやがん予防に関する貴重なデータとなることが期待されます。

 現在研究されているがん治療薬の候補物質が実際に臨床現場で使用できるようになるまでには、かなりの時間がかかりますが、できる限り早く患者さんのもとに届くようにするためには、こうした費用面や技術面での研究支援は非常に重要であると考えます。


 次ページから、今井氏が研究代表者を務める「がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動」プロジェクトのうち、注目されているテーマをいくつか紹介します。

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