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レポート

2013/1/15

継続して働ける環境づくりが進んでいます─がんと共に働く─

国立がん研究センターと日経BP社による「働く世代」に向けたがん情報提供サイト「がんと共に働く」サイトより

 かつて、がんに罹ったら「治療に専念」が常識だった。しかし、医療の発達で、進行度合いに合わせながら、働きながら治療を続けるのが可能な時代となってきた。では、いま病院や医療が「がんと共に働く」ためにどんなサポートを行っているのか。どんな医療が展開されているのか。3人のエキスパートに、病院のサポートの現状について語っていただいた。(本記事は、国立がん研究センターと日経BP社が開始した、「働く世代」を対象としたがんとその対策に関する情報提供からの転載です。情報提供サイトはこちらです)。


国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科科長の藤原康弘氏

 従来、がん治療の基本は手術でした。しかし、近年、薬物療法や放射線療法が著しく進歩し、これらの多彩な治療法を組み合わせた「集学的治療」が行われています。

 手術は、再発を防ぐために、できるだけ広範囲を切除する拡大手術が主流でした。それが最近では、可能な限り切除範囲を小さくする縮小手術が重視され、患者さんの身体的な負担も少なくなっています。また、乳がんの手術などで行われる再建術にも進展がみられ、今後は、再生医療の技術が導入される可能性もあります。

 薬物療法では、従来の化学療法薬(抗がん剤)に加え、分子標的薬の開発が急速に進んでいます。化学療法薬は、がん細胞と正常細胞を区別せずに作用します。そのため、正常細胞を傷つけることで,重い有害事象(副作用)が発現しやすい傾向があります。

 一方、近年の分子生物学の進歩により、発がんのメカニズムの解明が急速に進んでいます。その結果、がん細胞の増殖を抑制可能な特定の標的分子がみつかっています。この分子に狙いを定めて創薬されたのが「分子標的薬」です。

 現在、多くの「分子標的薬」が臨床に導入されています。以前は治療法のなかったがんの治療が可能となったり、生存期間を大幅に延長したりするなど、大きな成果が得られています。

 「分子標的薬」は、がん細胞にのみ作用するので副作用が少ないと考えられます。とはいうものの、従来の抗がん剤に比べれば重い副作用は少ないものの、まったくないわけではありません。場合によっては、重い副作用もありえることを、憶えておいてください。

 以前は、薬剤の開発はどうしても患者さんの多いがんが優先され、希少ながんは後回しにされる傾向がありました。しかし、分子標的薬の登場により、希少ながんの治療を目的とした薬剤の開発が活発化しています。

 放射線治療では,呼吸の影響で動く臓器(肺、肝臓など)にも放射線を正確に当てる技術や、3次元画像を用いて照射の正確性を高める方法などが開発され、普及しつつあります。

 緩和治療の領域でも、有効な鎮痛薬,医療用麻薬の開発が進んでいます。これらの薬剤を治療の早期から使うことで、治療効果が上がることがわかっています。また,がんによる心理的な苦痛の治療を目的とする精神腫瘍学(サイコオンコロジー)や、がん患者の社会復帰に向けたリハビリテーションの分野にも進展がみられます。

 働くがん患者さんが、これら最新の有効な治療を継続して受療できる環境づくりを視野に入れた研究が進められています。

 ドラッグラグという言葉を耳にしたことがあるでしょうか。ドラッグラグとは、外国ですでに使用可能な有効ながん治療薬が、日本では承認が遅れて使えない状況を指します。しかも、その薬剤が日本で最初に発見されたもの、その後の開発は外国で行われ、先に外国で承認され使われはじめるという皮肉な状況さえ生じています。

 日本は、世界の標準的ながん治療薬の開発開始から市販されるまでの期間が、先進国の中で長い方といわれます。ラグの要因には、 1)薬剤の治験開始の遅れ(申請ラグ)、2)治験に時間がかかる(申請ラグ)、3)申請してから審査が終わるまでの時間が長い(審査ラグ)の3つがあります。治験とは、厚労省の製造・販売承認を受けるために薬剤の安全性や有効性を評価する臨床試験のことで、申請に必要なデータを集めます。

 このうち、2)と3)の原因として、がん薬物療法の専門医(腫瘍内科医)の不足(2012年1月現在現在、全国で716人)や、治験のシステムの未整備が大きいと考えられています。それでも、これらの課題は少しずつ改善が進んでいます。

 しかし、ドラッグラグそのものは改善していないのではないか、との見方があります。その原因として、1)の問題が増大していることが指摘されています。有望な治療薬の治験が日本では、なかなか始まらないというのです。これには、製薬企業にとって、市場としての日本に魅力が乏しいといった要因が考えられます。

 患者さんにとっては歓迎できない事実ですが、がん医療を取り巻く現状を知ることは重要です。私たち国立がん研究センターは、このような現状に責任を負っており、改善に向け、積極的な取り組みを進めています。

 日本では、生涯のうちに2人に1人ががんに罹り、そのうち3人に1人は就労が可能な年齢です。つまり、がんを抱えながら働く患者さんが増えつつあります。

 これまで病院は急性期の治療に追われるばかりで、その後の患者さんの職場復帰を考慮した対応はなかなかできていない、というのが実態でした。そのため、職場復帰や働きながら治療を続けるシステムの構築を求める声が高まっています。

 このような社会的要請には、働く女性の増加も一役買っています。乳がんや子宮頸がんなどの女性特有のがんは罹患数が多く、働く女性の職業生活上の大きなリスクとなっているからです。また、これらの女性のがんでは、罹った後も長期に元気に暮らせる患者さんも多いのです。

 前述したように、負担の少ない治療法や治療薬が進展してきましたので、働きながら治療をし続けることも可能になってきました。

 そこで、国立がん研究センター中央病院では、厚生労働省委託事業として「がん患者における治療と職業生活の両立支援モデル事業」に取り組んでいます。

 「がん治療と職業生活の両立」とは、がんを抱えながらも働く意欲と能力のある患者さんが、仕事を理由に治療機会を逃すことなく、また治療を理由に職業生活の継続を妨げられることなく、適切な治療を受けながら生き生きと働き続けられることを意味します。

 このモデル事業では、まずソーシャルワーカーが中心となって社会保険労務士や産業カウンセラーも交えて個々の患者さんの実情に即した「両立プラン」を立てます。「両立プラン」とは、病院と会社の連携のもとで、患者さんの職場復帰と、その後の治療と仕事の両立を図るものです。

 そして、このプランに基づいて働く患者さんの支援を実施したのち、患者さんとご家族、担当医、ソーシャルワーカー、会社の満足度を調査します。得られた結果は、フィードバックされて「両立プラン」の立て方の改善に活かされることになります。成果は、「がん患者がより働きやすい社会」の実現に寄与するものと期待されています。


 藤原氏の詳細なインタビューはこちらを参照ください

 次ページには、チーム医療を実践している日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之氏らの取り組みを紹介します。

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