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レポート

2012/12/25

限局性前立腺がんの最新治療 Vol.2

「手術と放射線療法の治療成績は同等、患者自身が何を優先するかで選択を」

宮崎大学医学部附属病院泌尿器科教授 賀本敏行氏

聞き手:福島安紀=医療ライター

注目のロボット支援手術とは

 さらに、表1のように、手術療法、放射線療法にもここ数年でいろいろ選択肢が出てきました。

表1 限局性前立腺がんの根治療法の選択肢(賀本氏より)
手術療法 放射線療法
●開放手術
●ミニマム創手術
●腹腔鏡手術
●ロボット支援手術
●密封小線源療法(ブラキセラピー)
●外照射
 ・通常の外照射
 ・強度変調放射線療法(IMRT)
 ・陽子線・重粒子線治療

 手術療法では、従来から行われてきた開腹して前立腺を取り除く開放手術以外に、ミニマム創手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術のように低侵襲な手術を目指す病院が増えてきています。
 
 その中で、ロボット支援手術は2012年4月に保険が利くようになったこともあり、新聞、雑誌、テレビなどで取り上げられ注目を集めています。ただ、ロボット支援手術といってもロボットが手術をするわけではありません。現在導入されているダヴィンチ・システムでは、執刀医が操作ボックスの中に入って立体的な3D画像を見ながら、メスや鉗子などの手術器具をつけるロボットアームを操作しながら手術を行います。腹部に小さな穴を開け、そこから内視鏡や手術機器を入れて全摘手術を行うという流れは、従来の腹腔鏡手術と基本的に同じです。
 
 2012年版のガイドラインでは、「腹腔鏡下(LRP)、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RALP)は経恥骨後式(開放手術)と手術適応、治療成績に違いがあるか?」という項目にこう回答しています。「腹腔鏡下、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術は経恥骨後式と手術適応に差はなく、同等の制癌効果、術後尿禁制の回復、ならびに術後性機能回復が得られる。また、経恥骨後式と比較して低侵襲である」(推奨グレードC1、科学的根拠はないが行うよう勧められる)。つまり、開放手術と比べて治癒率や尿失禁や性機能の回復率には差がなく、患者の身体的な負担は少ないというように読めます。

 それでは、ロボット支援手術はこれまでの腹腔鏡手術より優れているのかというと、現時点ではほとんど変わらないと言えます。ガイドラインでも海外の研究を検討し、「いずれも手術時間、出血量、輸血の有無、合併症、入院期間、カテーテル留置期間、切除断端陽性率において差を認めなかった」「十分な経験を積めばLRPにおいてもRALPと同等の成績が得られる」としています。ただ、ロボット支援手術を使えば、より細かな神経温存が可能になるなど、開放手術や従来の腹腔鏡手術ではできないことができるようになる可能性もあり期待されますが、本邦に導入されて間もない現時点では術者がやりやすい腹腔鏡手術の一つと考えられます。
 
 また、ロボット支援手術の導入には膨大なコストがかかります。ロボット支援手術の診療報酬は1回95万2800円です。保険が使えるので患者さんの窓口での支払いは、高額療養費制度を使えば69歳以下一般所得の人なら約9万円で、開放手術や腹腔鏡手術とほとんど変わりありませんが、導入できる施設は限られてくることになります。

 すでにダヴィンチ・システムが普及し前立腺がん手術の8割がロボット支援手術になっているという米国では、その費用を回収するために手術が必要のない人まで治療が行われているのではないか、と過剰診療の問題が取りざたされています。

 一方、ミニマム創手術は、前立腺が取り出せるぐらいの小さい穴を一つだけ開けて、従来の腹腔鏡手術のように炭酸ガスを腹部に入れるようなことをせずに内視鏡を使った全摘手術を行う方法です。新しいガイドラインでは、この手術についても、低侵襲である利点を認め、「開放手術に比べて明らかな欠点は指摘されない」(グレードC1)としています。


陽子線・重粒子線治療の利点

 放射線療法では、ヨウ素125という放射線同位元素が入った小さな線源(カプセル)を前立腺に埋め込み中から放射線を照射する密封小線源療法が低リスクの限局性前立腺がんの標準治療として定着してきました。中リスク以上の患者さんがこの治療法を選ぶ場合には、基本的に放射線を前立腺の外から当てる外照射の併用が必要です。
 
 前述のように外照射の問題点は、数カ月後あるいは数年後に直腸出血のような晩期障害が起こるリスクがあることです。コンピュータを駆使してがんにだけ強く放射線を当て、直腸や正常組織には放射線が当たらないようにする強度変調放射線療法(IMRT)では、合併症や晩期障害の発生率は下がりますが、技術的にどこの病院でもできるわけではありません。

 一方で陽子線および重粒子線治療は、X線を使った従来の放射線療法とは少し違った放射線療法です。ガイドラインでは「研究的治療の段階」とされているものの、エネルギーが最大になる深さ(ブラッグピーク)を利用して病変部に強い放射線を当てることができるのが最大の利点です。IMRTも含め外照射は一度に強い放射線を当てることができないので、1回2グレイ合計68〜78グレイ、週5回7〜8週間外来で放射線療法を受ける必要がありますが、陽子線や重粒子線の研究がもっと進んで将来的に治療が短期間で済むようになり晩期障害も少ないということになれば、陽子線や重粒子線を選ぶメリットが大きくなる可能性もあります。ただし、陽子線・重粒子線治療は先進医療として認められてはいますが、放射線療法の費用には保険が利かず、総額約300万円かかるのが難点です。

 治療法の選択には、ただ治るかどうかだけではなく、治療中や治療後のQOL(生活の質)やこれからは特に費用面を考慮することも重要になってくると思われます。治療法を検討する際には、泌尿器科医だけではなく放射線治療医の意見も聞き、何を優先するかじっくり考えて治療法を選んでください。

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