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レポート

2012/12/4

施設数が充足した放射線治療、均てん化の次のポイントは集約化

日本放射線腫瘍学会第25回学術大会長(東京女子医科大学放射線腫瘍学講座主任教授)の三橋紀夫氏に聞く

聞き手は満武里奈=日経メディカル別冊

「集約化」が必要に

三橋 しかし、放射線治療の均てん化による成果が出てきた一方で、新たな課題も見えてきました。1つは放射線治療医師の不足です。たとえばIMRTを実施するためには、1)放射線治療を専ら担当する常勤の医師又は歯科医師が二名以上配置されており、うち一名以上は放射線治療について相当の経験を有するものであること。2)当該治療を行うにつき必要な体制が整備されていること。3)当該治療を行うにつき十分な機器及び施設を有していることが必須となっています。しかし、現在、国内の放射線治療専門医は1000人弱で、年間に50〜60人のペースで増えるにとどまっています。せっかくIMRTを設置しても、医師が足りないのです。施設によっては、人材不足により、放射線治療機器を十分に稼働できていません。

 もう1つは、放射線治療にさらなる専門性が求められるようになったことです。通常、放射線治療医は頭頸部から肺、前立腺癌など全身のありとあらゆるがんを治療することになります。しかし、治療計画を立てる際には、各部位のがんについて、その部位を専門とする外科医や内科医と治療方針を決めることになります。そこで求められるのが専門性(サブスペシャリティー)です。がん患者さんにとって、よりよい選択肢を提示するためにもさらなる専門性が医師に求められているというわけです。

 こうした課題が浮上する中、今年6月にはがん対策推進基本計画の中間見直しが行われ、一部のがんについては「集約化」を行うように明記されました。

──放射線治療において、集約化するとはどういうことなのでしょうか。

三橋 こうした「集約化」は、当面、患者数の少ない小児がん患者に対する放射線治療や、陽子線治療、炭素線治療などの新しいタイプの放射線治療で行われることが想定されています。

 実際に、小児がんでは集約化に向け、拠点病院を指定してそこで治療を行おうとする動きがあります。患者数の少ない希少がんにおいては、その希少がんに詳しい専門性の高い医師の人数や設備の問題で全国にまんべんなく受療体制を構築するのは容易ではありません。一方、集約化するとその施設には多くの患者が集まり、その結果、医療者側には多くの経験が蓄積します。経験を蓄積するほど、治療の質の向上、さらには治療成績の向上に結びつくというメリットがあるのです。

 残念ながら、通院の利便性など損なわれることも多いのは事実ですが、一方で集約化により治療成績を向上させていくことも大切であることを知っていただきたいと思います。均てん化には、全国にまんべんなく治療を受けられる体制を整えるというだけでなく、どこで治療を受けても同じような治療成績が得られるという意味もあります。どこで受けても同じように高い治療成績を出していくには、集約化という選択肢も必要と言うことなのです。

──小児がん以外には集約化は行われないのでしょうか。

三橋 そのほかの部位についても、放射線治療の集約化をすることで、さらに治療成績を向上できる可能性があるため、将来的には検討されるかもしれません。

 これは、近畿大学医学部放射線治療科の西村恭昌先生のデータなのですが、食道がんの放射線治療において、年間の放射線治療患者数が多い施設ほど、治療成績が向上する傾向が確認されたと報告しています。つまり、放射線治療は均てん化も必要ですが、集約化を行うことで、ある一部のがんについては治療成績をさらに向上できる余地があるのです。

 都道府県のがん診療連携拠点病院51施設中32施設は、年間500例以上の放射線治療(外照射)を行っているのに対し、地域のがん診療連携拠点病院は199例未満の施設が36%を占めています。こうした状況を見ると、全国各地に放射線治療施設が設置されたことで、患者さんは住まいの近くで治療を受けられるようになりましたが、一方で、医師や症例が分散することで、施設にノウハウが蓄積されにくいというような状況も生まれていることが推測されます。

放射線治療のための宿泊施設の設置も必要

三橋 では、具体的にどのように集約化すればよいのかということになりますが、放射線治療施設が密集している都心部と、交通の便が良くない地域を分けて考えることが重要だと感じています。

 これはあくまで私案ですが、放射線治療施設が密集している都心部では、放射線治療機器や放射線治療医を集め多くの患者の放射線治療を行う、いわゆるhigh volume centerを建設するか、施設ごとに専門とする放射線治療の部位を決めて、その部位の放射線治療を専門にする放射線治療医と患者を施設ごとに集めるという方法がいいのではないかと考えています。例えば、A病院では頭頸部がん、B病院では前立腺がん、C病院では肺がんというようなかたちです。そうすることで、その施設に症例が集まり、さらに治療成績の向上に結び付く可能性が高まるのではないでしょうか。

 一方、交通の便の良くない地域では、つい放射線治療施設の数を増やしたくなりますが、医師が不足している状況を考えると、現実的ではありません。むしろ、例えば病院の周りにホテルなどの宿泊施設を作り、患者やその家族が安く宿泊できるようにすることで治療を受けやすい環境を整えるなどといった支援を行うという考え方もあるのではないかと思うのです。放射線治療は連日の照射が必要になるケースが多いため、交通の便は非常に重要な問題です。国土の広い米国ではこういったサービスが充実していると聞きます。

 放射線治療を受けるがん患者は年間1万人ずつ増加している今、今後、こうした方向に舵を切っていくことが必要になるかもしれません。がん対策推進基本計画から5年が経ち、施設数という意味での均てん化が進んだ今こそ、次の「集約化」という課題が見えてきました。5年後、がん患者を取り巻く放射線治療の環境がよりよいものになるよう、私自身も尽力していきたいと思っています。

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