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レポート

2012/11/27

体幹部定位放射線治療──高齢者での成績は手術に匹敵、早期肺癌をはじめ適応も広がる

 日経メディカル40周年記念特別版より

久保田文=日経メディカル

京大の平岡真寛氏は「高齢者の早期肺癌では治療可能例にも定位放射線治療が選択肢の一つになり得る」と話す。

 2010年11月の米放射線腫瘍学会において、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の放射線治療グループは、早期の非小細胞肺癌に対する定位放射線治療の臨床研究結果を一部発表した。

 先行していた手術可能例の結果で、評価可能だった64例の3年粗生存率は76%、放射線を照射した部位からの再発や再燃を認めない割合を示す局所制御率は88%だった。64例の平均年齢は79 歳。同様の年齢を対象とした日本の手術成績と遜色ない結果が出た。

 手術可能例を対象とした同治療の前向き研究は世界で初めて。主任研究者を務める京大放射線腫瘍学・画像応用治療学教授の平岡真寛氏は、「高齢者では、手術が可能でも定位放射線治療が選択肢の一つになり得るのではないか」と話す。

1990年代半ばからスタート

 定位放射線治療は、多方向から高線量の放射線を癌に集中的に照射する治療法(図1)。1960年代後半、脳腫瘍にガンマ線を集中照射するガンマナイフによる治療として始まったが、90年代半ばから日本を中心に、肺癌など体幹部の癌にも定位放射線治療を応用する研究が始まった。

 体幹部定位放射線治療は、低線量を2方向から広範囲に照射する従来の放射線治療とは異なり、正常組織への影響を減らして癌だけに強いダメージを与えられる。北大や防衛医大などが取り組み始め、実施する医療機関が増加。高度先進医療を経て、04 年に保険適用された。

図1 定位放射線治療の照射のイメージ

 また、04年には国内13施設で早期肺癌患者245例に対して行われた多施設臨床研究の結果がCancer誌に掲載(表2)。体幹部定位放射線治療の臨床研究としては圧倒的な症例数であり、研究結果は世界で注目された。その後国内では、治療法の普及に向けた取り組みも着々と進展。06年には日本放射線腫瘍学会が「体幹部定位放射線治療ガイドライン」を策定したほか、日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン」では手術不能な早期非小細胞肺癌への治療の選択肢の一つとして推奨された。

表2 体幹部定位放射線治療を巡る主な動き

「陽子線による定位放射線治療が可能になれば、より大きな肺癌や肝癌も治療できるようになる」と話す北大の白土博樹氏。

 近年は、これまで行われてきた肺癌や肝癌に加え、腎癌、膵癌、前立腺癌などへも適応癌腫が広がっている。その背景には、癌だけを狙う技術の進歩がある。体幹部の癌への照射は、呼吸や蠕動運動に伴って腫瘍が移動するため、脳腫瘍に比べて難しい。多くの医療機関は照射時、フレームを使って体を固定するなどの呼吸性移動対策を講じている。北大では2000年以降、気管支鏡などで腫瘍近傍に金マーカーを置き、X線で透視しながら腫瘍が特定の範囲内にある場合だけ照射する手法を採ってきた(下囲み症例を参照)。

 さらに京大は、三菱重工業と共同で放射線治療装置(MHIVero4DRT)を開発。11年からは、腫瘍の位置の変化について4 次元モデルを作成した上で、X 線で透視しながら腫瘍近傍に置いた金マーカーなどと4 次元モデルを連動させて腫瘍の位置を把握し、それに合わせて方向を変えつつ照射している。この装置は米国やベルギーの病院などに納入され、海外でも使われ始めている。北大放射線医学分野教授の白土博樹氏は、「金マーカーを置くことなどで照射の精度は上がっているはず。今後は合併症の減少効果に結びついているかなどを検討したい」と話す。

 北大では現在、日立製作所と共同で、動きを捉えながら腫瘍だけに集中して陽子線を照射する治療装置を開発中。14 年にも新しい装置を使った治療を始める。白土氏は「X 線に比べ、線量分布を腫瘍に集中させられる陽子線を使うことで、より大きな腫瘍も治療対象になる」と話す。今後、新しい装置の開発やエビデンスの蓄積が進めば、幅広い癌で、体幹部定位放射線治療が手術に代わる選択肢となりそうだ。


定位放射線治療が奏効した早期肺癌の一例(白土氏による)

症例 71歳、女性。

既往歴 16 年前に洞不全症候群、心ペースメーカー留置。14 年前に胆石、 胆囊摘出。約10 年前に右変形性膝関節症。9 年前に甲状腺癌、右葉峡部切除。家族歴は姉が乳癌、妹が肺癌。

経過 9 年前に甲状腺乳頭癌に対して甲状腺右葉峡部切除、D1郭清術を施行した。術後、甲状腺ホルモン抑制療法として甲状腺ホルモン製剤を内服。経過観察されていたが、10カ月前にCEA上昇を認め、胸部CT 検査で右肺下葉に径25mm大の腫瘤を指摘された(写真A)。生検で腺癌を検出。明らかな転移性病変を認めず、肺腺癌 (ステージ?A) と診断された。
 心ペースメーカーを留置しており、高齢でもあるため放射線治療の適応と考えられ、当科に入院。気管支鏡下で腫瘍近傍に金マーカーを4 個留置した上で、40Gy×4 回の動体追跡照射法を用いた体幹部定位放射線治療を施行した。3カ月後の胸部CT像で腫瘍は径15mmと縮小し、明らかな放射性肺臓炎の所見を認めなかった。その後、有害事象も認められず、経過した。
 腫瘍は徐々に縮小し、1年4カ月後のCT像では瘢痕状の線状影を認めるのみとなり、画像上完全寛解(CR)となった。治療後、4 年6カ月無再発で経過しており、局所もCRを維持している(写真B)。

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