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2012/11/13

患者も治験が進むように後押しを

乳がん患者団体ブーゲンビリアが治験に関するアンケートを実施

福島安紀=医療ライター

 乳がん患者会のNPO法人ブーゲンビリアが11月3日、東京・本郷で、「いのちのバトン 薬はみんなで作るものパートIII〜がん臨床試験・治験について患者・市民の視点で考える」と題したシンポジウムを開催した。ブーゲンビリアでは、これに先立ち、一般市民とがん患者を対象に、「がん医療における『薬』ならびに『治験』に関するアンケート」を実施。がん患者や一般市民の治験に対するイメージが浮き彫りになった。


 「『治験』という言葉は知っている」「人に説明できるくらいよく理解している」

 ブーゲンビリアが実施したアンケートでは、がん体験者(以下、体験者)の22.4%、家族にもがん患者がいない非体験者(以下、非体験者)の8.7%が治験について「(人に簡単に説明できるくらい)よく理解している」、体験者49.4%、非体験者39.9%が「知っている(新薬の開発に関係する、ということぐらい)」と回答した。

 「『治験』『臨床試験』という言葉に持つイメージ」には、「医薬品の開発に欠かせないプロセス」(73.2%)、「治療の進歩につながるもの」(60.8%)、「治療の選択肢が広がる」(44.8%)「次世代の患者への贈り物・社会貢献」(24.8%)と前向きにとらえた意見が多かった。一方で、「研究目的あるいは人体実験、モルモット」(31.3%)、「何となく怖いイメージ」(19.2%)ととらえている人もいた(図1)。

 「がん医療における『薬』ならびに『治験』に関するアンケート」は、乳がん患者団体ブーゲンビリアが、2012年9月〜10月の約1カ月間に会員とその家族や知人、全国の患者会関係者を対象に実施したもの。がん体験者352人、体験者の家族・遺族516人、家族にもがん患者がいない非体験者802人、その他・立場無回答77人、合計1747人が回答(回収率69.9%)した。

図1●「『治験』『臨床試験』という言葉に持つイメージ」に対する回答(NPO法人ブーゲンビリアが実施した調査より)

治験検索サイトは患者が使いやすいように見直しへ

 「臨床試験イコール治験ではなく、臨床試験という大きい枠の中に新しい医薬品や医療機器の承認のために行われる治験がある。アンケート調査では治験のことを知っているという方が多かったので驚いた。医師でも治験と臨床試験の違いをきちんと理解している人は少ない。一般の方がこれだけ治験について知っているというのは意外な結果で、特に非体験者の3割が情報の入手先はメディアと答えていることを考慮すると、本当に、正しく理解されているのか疑問に思う部分もある」──シンポジストの1人として登壇した東京大学医科学研究所附属病院緩和医療科特任講師の岩瀬哲氏は、アンケートの結果を総括し、こう指摘した。

 一方、「新しい抗がん剤を使ってみませんかと言われたら」との質問には、体験者の44.0%(155人)、非体験者の35.2%(282人)が「よく効くはず」、体験者の17.9%(63人)、非体験者の19.1%(153人)が「安全なはず」と答えている(図2)。

 NPO法人グループ・ネクサス代表で悪性リンパ腫体験者の天野慎介氏は、自身が治療中に臨床試験に参加した経験から、「新しい治療は患者にとって希望だが、効果があるのか安全なのか分からないから行われるのが臨床試験。実際、私が受けたのは従来の治療法と新しい治療法を比較する臨床試験で、くじびきでたまたま私は新しい治療法に割り当てられたのですが、臨床試験そのものは、結局、副作用が強くなるだけで従来の治療法と差がないという結果だった。私の受けた副作用の強い新治療法は現在行われていない。臨床試験をやらないと分からないことがまだたくさんあり、その結果が将来の患者さんの治療につながっていくのだと思う」と話した。

 アンケートを実施したブーゲンビリア理事長で乳がん体験者の内田絵子氏は、調査結果を受け、「治験を受けるときにはメリット、デメリットがありその両方を正しく知って選択することが重要だが、必ずしも正確な情報が伝わっていない。患者が不利益を持たないようにする『補保険者保護法』のような法律が必要なのではないだろうか。また、ウェブ上で治験の情報を患者・家族に分かりやすく情報公開することが必要」と強調した。

図2●「新しい抗がん剤を使ってみませんかと言われたら」に対する回答(NPO法人ブーゲンビリアが実施した調査より)

 実際には、治験を含む臨床試験の情報は、国立がん研究センターがん対策情報センターのホームページで、「がんの臨床試験一覧」(http://ganjoho.jp/professional/med_info/clinical_trial/index.html)で、一部の治験を含むがんの臨床試験ががん種別に閲覧できるようになっている。しかし、医療関係者向けの情報であり患者には分かりにくいとの声も多いのが現状だ。

 厚生労働省研究開発振興課長の佐原康之氏は、国立保健医療科学院の臨床研究(試験)情報検索(http://rctportal.niph.go.jp/)で臨床試験の情報が検索できることを紹介。このウェブサイトでは、大学病院医療情報ネットワーク研究センター(通称:UMINセンター)によって運営されている臨床試験登録システム「UMIN臨床試験登録システム」、治験を主とした「日本医療情報センター臨床試験情報」、企業ではなく医師が主導する治験の情報を掲載する「日本医師会治験促進センター」の3つのサイトに載っている臨床試験の情報が検索できる。

 「検索サイトについては、分かりにくく、患者が欲しい情報が入っていないという声がある。今年度から始まった新しい治験5カ年計画の中でも、この治験データベースを患者に親しみやすい形で見直すことになっており、今後、患者会の皆さんとも連携してアンケートなども実施していきたい」。佐原氏は、治験データベースを患者にも使いやすいものにすることに前向きな姿勢を示した。

患者が正しい情報へアクセスできる支援を

 これに対し、グローバルアドボカシーリーダーシップアカデミー共同取締役のポーラ・キム氏は、米国の膵がん患者支援団体PanCANで、自身が中心になって膵がん患者向けの全治験の情報が得られるデータベースを構築した経験から、こう問題提起する。「患者だからといってすべての臨床試験に参加資格があるわけではないので、年齢、これまで受けてきた治療など自分が臨床試験の条件に合うのか、どのような形で臨床試験に参加することができるのか理解するための情報が必要だ。何よりスタッフが、患者やその家族が的確で正しい情報にアクセスできるように手助けできるものとするよう特に配慮した。厚労省の方には、非営利の患者支援団体との協力を1つの方法として提案したい」。

 北里研究臨床薬理研究所臨床試験コーディネーティング部部長の青谷恵利子氏も、「確かに治験、臨床試験は研究目的だが、モルモットに対するような意識で臨床試験を行っている医療者は一人もいない。患者が、参加できる治験の情報にアクセスできるようにするためには、看護師や臨床試験コーディネーター(CRC)が、その病院で実施している治験についてすべて答えられるという窓口を作ることが必要で、これならいますぐにでもできるのではないか」と語った。
 
 同シンポジウムは、第6回アジア乳がん患者大会の一環として開かれたもので、韓国、台湾、タイの患者団体代表らが、「アジアの患者アドボカシー活動からみた臨床試験・治験の現状」について報告した。韓国延世大学システム部乳がんセンター臨床看護師のキム・ミ・キョング氏は、韓国が国を挙げて治験の推進を支援している実情を紹介。2011年には韓国食品医薬品安全庁(KFDA)に認可されている治験が503件(国際治験194、国内治験309)実施されており、10年前、2001年の45件に比べて10倍以上と飛躍的に増えているという。

 国立がん研究センター中央病院企画戦略局長の藤原康弘氏(乳腺・腫瘍内科科長)は、「韓国では、KFDAが薬の認可はしても、高い分子標的薬などは保険償還されず公的保険が効かないので臨床試験に参加する患者が多いという背景がある。一方で、世界の中で日本の国力が落ちていて、日本で新薬を開発したいという製薬企業が少なくなっているのが実態だ。アジアの製薬市場は、米国、欧州の市場の次という位置づけで、自分の健康を自分の国で開発した薬で守ることができなくなっている。危機意識を持って、皆さんが一緒に日本、そしてアジアで治験が進むように支援していただくことが大事」と強調した。

 最後に、東京大学大学院医学系研究科教授の宮川清氏が、「患者に治験、臨床試験の情報を適切に提供し、橋渡しできるような医療者の育成に力を入れていきたい」とまとめ、シンポジウムは閉会した。

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