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レポート

2012/7/31

子どもと闘病中の気持ちを分かち合う

四国がんセンターのチャイルドケアプロジェクト

福原麻希=医療ジャーナリスト

特に終末期は子どもにできることをしてもらう時間を

 子どもにとって、父親や母親を亡くすことは最大の試練で心に深い傷を残す。だが、終末期に、子どもなりに納得のいくサポートができると、それを跳ね返す力、乗り越える力(「レジリエンス」という)が引き出されるという。

 こんな事例も紹介してもらった。

 40代の女性は大腸がんと診断されたが、すでに手術ができないほど進行していた。家族は夫と中学生の長男の3人。女性は自宅で療養していたが、受験を控えた息子には「心配させたくない」と、どうしても病気のことを話せなかった。

 ある日、どうしてもがんによる痛みが我慢できなくなり、とうとう、緩和ケア病棟に入院した。

 入院後、女性の容態が落ち着いたので、臨床心理士の井上実穂さんは訪室し、「何か、気になることはありませんか」と尋ねると、女性は「子どもに今の病状を話してないんだけど・・」と相談を受けた。井上さんは女性がどれだけA君に愛情をかけて育ててきたか話を聞き、「それだけのお子さんなら、信じてあげて大丈夫。むしろ、お母さんの病状を知らされないほうが、A君もつらいのでは・・」と答えたが、女性は「あの子の気持ちを思うと、かわいそうで」と躊躇し、涙を流すばかりだった。

 それから、井上さんは夫と面談し、A君の様子を聞いてみた。すると、すでに医学の道を目指していたA君は「緩和ケア」について調べていて、夫も「お母さんは長くはない」とほのめかしていた。だが、A君は学校帰りにお見舞いに来ても、何をしていいかわからない様子で、だんだんと病室から足が遠のいていった。女性も夫もA君に対して、どのように接したらいいか迷っていたため、井上さんが1週間ぶりに面会にきたA君と会うことになった。

井上氏「お母さん、前に会ったときと比べてどう?」
「なんか、弱っているみたい・・」
井上氏「これまでA君の前では、本当に元気なお母さんを頑張ってきたからね。でも、だんだん寝ている時間が多くなってきたみたいだね」
「うん」
井上氏「お母さんのこれからのこと、少し話していいかな」
と、A君に次のように語りかけた。

井上氏「お母さんは懸命に治療をしてきたけど、病気は治らず、残された時間は短いんだ。1日1日を懸命に生きている状態。でも、それは誰のせいでもなく、ましてやA君のせいではないんだよ。これからは、寝ている時間が増えてきて、だんだん会話が難しくなるだろうけど、A君の声や手の感覚って、お母さん、しっかりわかるから、話しかけたり、さすってあげてね。そして、A君が学校に行っている間に息が止まることがあるかもしれないけど、それはお母さんの命が決めることなので、自分を責めないでね」

 A君は驚いた表情で、「全然知らなかった。もう少ししたら退院するのかと思っていた」そして、涙を浮かべながら「僕はこれまで、お母さんがつらそうにしていたときも、優しくしてあげなかった。僕のこと思って言ってくれたことも、ぶっきらぼうな返事をしてしまった。僕に今からできること、ありますか」と話した。

井上氏「これまで通り、学校に行って、勉強して友だちと遊んでいいよ。それがお母さんの一番の願い。病院に来るときは、退屈だろうから、勉強道具とか持ってきてもいいし。あと、お母さんの世話は看護師さんが教えてくれるから、やってみようと思ったら聞いてみてね」

 それから、A君はスタッフに教えてもらいながら、お母さんにご飯を食べさせ身体を拭くなど、積極的にケアに加わり、時には父親と交代で病室に泊まって通学するようになった。そして、看取りの時を父親や親族と落ち着いて迎えた。

 母親が亡くなって、A君は今どう過ごしているのか。「元気ですよ。父と二人で頑張っています。あの時、しっかり話してもらって、気持ちが固まったというか、考えがまとまったというか、助かりました。今でも、医者になりたい夢は変わりません。猛勉強しています」。父親も「井上さんが息子を信じてくれたからでしょうかね、母親が亡くなってもそれまでと変わらずに過ごしています。親としても嬉しかったです」

 子どもに何も知らせていない場合、突然、危篤状態で話ができなくなった親の前に連れてこられても、驚いて立ち尽くすばかりという。「ご生前の頃から、子どもでも親にできることはあるんだよと伝えると、(子どもたちは)いま何をすればいいか、自分の行動を選ぶようになります。家族の危機的状況に、子どもも役割を持って乗り切った場合、親を失った喪失感を抱えながらも、現実に立ち向う力も引き出されてきます。」と井上さんは言う。

 ただし、注意したいのは「子どもには、どうしても闘病中に伝えなければいけない」というわけではないそうだ。井上さんは言う。「目的は子どもを安心させることだからです。隠し通りしたり、伝えなかったりしたことはよくない、早く伝えなければ・・・、ということではありません。かえって、子どもに『伝えるべき』という考えだけが独り歩きし、『お母さんは病気なんだから・・・』と駆け引きのように使われてしまうことを懸念します」

 お母さんの代わりに誰が食事を作るのか、治療費は大丈夫なのか、など、まだ家族として安心して治療を受けられる体制が整っていない段階は、子どもに伝えるタイミングではないという。

 勧めるのは、入院する、治療の副作用で髪が抜ける、身体がつらくて横になることが多くなった、など生活に変化がある時。「もし、そのようなタイミングを逃してしまった場合は、お子さんの誕生日や故人の命日、お盆など、命を向き合う日がきっかけになるでしょう」(井上さん)

 このような四国がんセンターの取り組みは、全国の病院で始まったばかり。医療に関する環境下に置かれた子どもや、その家族を心理社会面から支援する専門職の「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」や臨床心理士、遺伝カウンセラーがいない病院も、まだまだ多い。

 そんなときは、いつもベッドサイドに来る看護師に相談してみよう。がん看護専門看護師で、この四国がんセンターのプロジェクトを率いる患者・家族総合支援センター室長の菊内由貴さんは「がん看護専門看護師なら、全国でも増えていて、病院と患者・家族をつなぐ役割を持っています」と話す。

 また、最近は、がんになったときに子どもと一緒に読む絵本などが作成されている。こうした冊子が病院内に設置され、患者自身がそうした冊子の存在を知り、手に取るだけで患者の悩みが解決する、あるいは解決に向けた一歩を踏み出すことができるケースも多いという。

 子どもにも話してともに考え分かち合うという知識や経験は子どもの自己肯定感に高めるという。将来、前向きな人生を送るために必要なステップの1つとなるだろう。

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