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レポート

2012/7/17

開発進む去勢抵抗性前立腺がんの新規治療薬

満武里奈=日経メディカル別冊

 これまで有効な治療薬が少なかった去勢抵抗性前立腺がんに対し、複数の新しい治療選択肢が将来的に増えることになりそうだ。今年4月に開催された第100回日本泌尿器科学会では、新薬をテーマにした講演が目白押しとなり、また6月には新たな作用機序の薬剤が製造販売承認されたばかり。現在も、有力な新規治療薬のフェーズ3試験が複数進行中だ。新規治療薬登場への期待が高まる前立腺がん治療薬の開発状況について、近畿大学泌尿器科学教室准教授の吉村一宏氏に聞いた。


 前立腺がんは、男性ホルモンであるアンドロゲンにより増殖する疾患だ。そのため、前立腺がんの初期治療では、このアンドロゲンががん細胞に作用するのを遮断することが有効で、アンドロゲンを産生する精巣を摘除してしまう外科手術(外科的去勢術)のほか、内科的去勢術としてアンドロゲンが働かないようにするホルモン療法が行われる。ホルモン療法が外科的去勢術と同等(非劣性=劣らないこと)であることが示されたことで、現在ではホルモン療法が選択されることが多い。

 ホルモン療法では、主にLH-RHアゴニストが使用され、抗アンドロゲン剤と併用する「MAB療法」が実施されるケースが大半だ。LH-RHアゴニストは、LH-RH受容体に結合することで、生体内のLH-RHと同様の振る舞いをする。下垂体前葉を通して精巣に作用し、アンドロゲンの産生・分泌を促進するLHを分泌させる働きがある。このLH-RHアゴニストを継続的に投与すると、LH-RH受容体が持続的に刺激されることでLH-RH受容体の数が徐々に減少し、最終的にはLH-RHに無反応になる。その結果、血中アンドロゲン濃度が低下し、精巣でのアンドロゲン合成が抑制される効果が得られる。日本ではLH-RHアゴニスト徐放製剤としてゴセレリン(製品名:ゾラデックス)とリュープロレリン(製品名:リュープリン)があり、1カ月または3カ月間、皮下投与される。

 併用される抗アンドロゲン剤は、アンドロゲン受容体と結合することで、アンドロゲンとアンドロゲン受容体との結合を阻害する。前立腺細胞内のアンドロゲンのうち40%は副腎由来とされるため、LH-RHアゴニスト製剤で精巣からのアンドロゲン合成を抑制してもがん細胞が増殖してしまうことがある。そこで抗アンドロゲン剤を併用し、精巣だけでなく副腎由来のアンドロゲンの結合を阻害する効果を期待して治療する。抗アンドロゲン剤は、ステロイド性抗アンドロゲン剤のクロルマジノン(商品名:プロスタール)と、非ステロイド性抗アンドロゲン剤のフルタミド(商品名:オズダイン)、ビカルタミド(商品名:カソデックス)に大別されるが、現在ではアンドロゲン受容体への結合力が高い非ステロイド性抗アンドロゲン剤が使用されることが多い。

 ただ、ホルモン療法には大きな課題がある。それは、ホルモン療法を長期間継続すると、徐々にホルモン療法に抵抗性を示すがん細胞が増え、治療効果が消失しまう点だ。近年では、このようなホルモン療法抵抗性となった状態のことを、外科的去勢術後に増悪した患者とあわせて「去勢抵抗性前立腺がん」と呼ぶようになってきた。有効な治療選択肢のない去勢抵抗性前立腺がんへの新たな治療法を生み出すため、従来薬とは異なるターゲットの新規治療薬の開発が模索されている。

6月にはデガレリクスが製造販売承認を取得

 こうした状況の中、2008年にタキサン系の抗がん剤ドセタキセル(商品名:タキソテール)が登場。当時、海外で標準療法だったミトキサントロン+プレドニゾン併用患者と比べ、ドセタキセル+プレドニゾン併用患者の死亡リスクが20〜24%減少することが示され、去勢抵抗性前立腺がんへの新たな治療選択肢となった。

 さらに今年6月には、開発中だったLH-RHアンタゴニストのデガレリクス(製品名:ゴナックス)が製造販売承認された。LH-RHアンタゴニストは、LH-RHがLH−RH受容体へ結合するのを阻害する作用を持っており、即効性のほか、従来のLH−RHアゴニスト投与3日後に起こる一過性の血中テストステロン値の上昇(フレアアップ)を回避することが期待されている。

 そのほかにも、新規治療薬の開発が急ピッチで進められており、その多くは国内でフェーズ3試験として進行中だ。開発中の前立腺がん新規治療薬を大きく分けると、(1)アンドロゲン合成酵素阻害薬(2)アンドロゲン受容体アンタゴニスト(3)タキサン系化合物の次世代薬−の3つがある。

 (1)のアンドロゲン合成酵素阻害剤には、abiraterone(アビラテロン)、TAK-700などがある。治療薬によりアンドロゲンの分泌を抑制していても、前立腺組織や転移巣においてコレステロールから微量のアンドロゲンが合成されており、このアンドロゲンによってがん細胞が増殖してしまう。この微量アンドロゲンの合成を阻害する薬剤として開発されているのが、アンドロゲン合成酵素阻害剤で、アンドロゲン合成酵素CYP17A1の17αヒドロキシラーゼ活性と17、20リアーゼ活性の両方を阻害する。すでに米国では2011年4月に、欧州では9月に承認済みで、日本では今年にも第2相試験が開始される見込みだ。一方、TAK-700は、アビラテロンとは異なり、低用量で使用した際に17,20リアーゼ活性のみ特異的に阻害するという特徴を併せ持つ。現在、日本では、化学療法前後の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者を対象にした第3相試験が進められている。

 (2)のアンドロゲン受容体アンタゴニストとしては、MDV3100の開発が進む。MDV3100は、テストステロンがアンドロゲン受容体に結合するのを阻害するアンタゴニストとしての作用のほか、アンドロゲン受容体の核内移行とDNA結合、活性化補助因子の動員を抑制する。非ステロイド性抗アンドロゲン剤のビカルタミドと比べ、アンドロゲン受容体に対して高い親和性を持ち、ビカルタミド抵抗性の去勢抵抗性前立腺がんに有効な薬剤として期待されている。日本では、化学療法前の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者を対象にした第3相試験のほか、化学療法後の患者を対象にした第1・2相試験が進行中だ。

 (3)のタキサン系化合物の次世代薬の代表例がcabazitaxel(カバジタキセル)だ。チューブリンを標的とした新規治療薬で、ドセタキセル抵抗性がん細胞にも作用するのが特徴。これまでの臨床試験結果から、ドセタキセル感受性および抵抗性患者への抗腫瘍活性が確認されている。すでに米国では2010年6月に、欧州では2011年3月に承認されており、日本ではドセタキセルによる治療後の去勢抵抗性前立腺がん患者に対する第1相試験が進む。

 吉村氏は、今後の去勢抵抗性前立腺がん治療について、「ファーストライン治療、セカンドライン治療で使用できる薬剤が続々と出てくるだろう」とみる。さらに、今後の課題としては、「使用する順番や、複数の薬剤を併用した方が患者にベネフィットがあるのかということを検討する必要がある。さらに既存薬についても再治療(リチャレンジ)の可能性を模索することが必要となるだろう。将来的には、患者一人一人の状態にあわせた治療法を選択できるようになっていくのではないか」と語る。

 これまで有効な治療法が少なかった去勢抵抗性前立腺がん患者への新たな治療選択肢が大幅に増えることで、前立腺がん患者をとりまく治療環境がさらに改善することが期待される。

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