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レポート

2011/1/6

遺伝性乳がんの最新知見(2)

遺伝子検査の1番の目的は血縁者へのアプローチ

国立病院機構四国がんセンター乳腺科医長大住省三氏に聞く

富田文=日経メディカル別冊

「遺伝子検査の1番の目的は、同じ遺伝子変異を受け継ぐ血縁者への介入を行い具体的なアクションを取ること」と話す国立病院機構四国がんセンター乳腺科医長の大住省三氏。

 遺伝性腫瘍の診療に長く関わる国立病院機構四国がんセンター乳腺科医長の大住省三氏は、「遺伝子検査の1番の目的は、同じ遺伝子変異を受け継ぐ血縁者への介入を行い、乳がんや卵巣がんが早期発見できるよう、具体的なアクションを取ること」と話す。同センターでは、専属の認定遺伝カウンセラーが、乳がん、卵巣がん、大腸がんで入院したすべての患者の家族歴をチェックし、遺伝性腫瘍の可能性がある患者やその血縁者に同センターの家族性腫瘍相談室の受診を勧めている。

――四国がんセンターでは、遺伝性腫瘍に対してどのように取り組まれているのでしょうか。

 当センターが遺伝性腫瘍のスクリーニングに取り組む1番の目的は、患者さんの血縁の方々で、がんにかかりやすい体質を受け継いでいる方、あるいは受け継いでいる可能性の高い方に介入し、早期発見・治療を実現することです。

 当センターでがんの治療を受けておられる患者さんの血縁者の中には、がんにかかりやすい体質を受け継いでいる方が一定数いるはずです。乳がんに関しては、BRCA1/2遺伝子の変異を有している人がそれに当たります。米国では乳がんに罹患した患者さんの5%程度が遺伝性と言われており、日本人でも同程度いると思われます。

 BRCA1/2遺伝子に変異がある方は、今後、乳がんや卵巣がんになる可能性が非常に高く、それも若い年齢で罹患する可能性が高いのです。対策を取らずにそのままにしておくと、がんが進行した状態で見付かり手遅れになるということが起こってきます。そのため、そういう方に対して一般よりも若い年齢から積極的な検診を行っていく必要があります。

 しかし、日本では医療者ですらBRCA1/2の遺伝子変異についての認識がとても低いのが実情です。また患者さんも、「うちの親戚にはがんになる人が多いな」と漠然と感じつつも、実際には積極的な検診などの対策が十分ではないケースがほとんどです。

 そこで、当センターでは入院患者さん全員に対して家族歴など問診を行い、遺伝性の腫瘍が疑われる方を探しています。そして、遺伝性の疑いのある方に遺伝子検査を提案したり、血縁者の方に検診を受けるように勧めてほしいと伝えています。

――具体的なスクリーニングの方法を教えてください。

 当センターでは、在籍している認定遺伝カウンセラーが、乳がん、卵巣がん、大腸がんで入院される患者さん全員の家族歴をお聞きし、遺伝性の乳がん・卵巣がんや遺伝性の大腸がんの疑いがある患者さんについて、毎月1回、遺伝カウンセラーや関連科の医師や看護師でミーティング会議を行い、カウンセリングを勧めるべきか検討しています。

 遺伝性乳がんについては、第1度近親者(母親、娘、姉妹)や第2度近親者(祖母、叔母、伯母、姪、孫、異母(父)姉妹)に乳がんや卵巣がんの患者がいる場合や、本人が若年で乳がんや卵巣がんを発症していたり、複数の腫瘍が見付かった場合などを条件に検討します。そして、カウンセリングが必要と判断された方には、主治医を通して遺伝カウンセラーに相談するようにお勧めし、遺伝カウンセラーから今回の病気が遺伝的体質で起こった可能性が高い旨お伝えし、ご家族を含めてカウンセリングを受けて頂くことをお勧めしています。

 カウンセリングにいらっしゃるかどうかは患者さん次第ですが、来ていただいた場合には、遺伝カウンセラーが遺伝性の腫瘍について説明し、そうした体質を受け継いだ方は、どんなことに注意したらいいか、心理的なケアも含めてカウンセリングを行っています。

 相談室に来られない方に対しては、外来を受診される度に主治医から、「あなたの御家族にもお話をさせてください」と何度も話し掛けてもらうようにしています。繰り返し話をしていると、大事なことなのだと理解してもらえて、少し時間が経ってから血縁の方を連れてきてくださる場合もあります。血縁の方が来られたら、遺伝性の腫瘍についてまた一から話をします。

――医師が個々に勧めるのではなく、病院全体として取り組まれているのですね。

 はい。病院全体で取り組むためには、職員の意識を高めるしかないと考え、乳腺科や婦人科などの関連科の医師や看護師で勉強会を開き、そこで情報や認識を共有しています。また、気になることがあれば、随時、遺伝カウンセラーに相談し、そこで対処したことは月1回の会議で必ず報告するようにしています。

――四国がんセンターでの拾い上げの状況はいかがですか。

 当センターで遺伝カウンセリングを行っている方は、入院されたことのある患者さんとその御家族が大半です。遺伝性の可能性の高い家族性乳がん・卵巣がん家系については、既に100家系以上を拾い上げています。そのうち、実際に相談室にいらしたのは4分の1程度です。

 昨年の4月からは遺伝カウンセラーという専門職の方が在籍するようになったため、可能性が高い方に対してより積極的にアプローチできるようになりました。現在は、乳がん・卵巣がんが2〜3件/月、大腸がんも2〜3件/月のペースでカウンセリングを行っています。

――遺伝性乳がん・卵巣がんの疑いがある患者さんにはどのような説明をされていますか。

 まず、遺伝性の乳がん・卵巣がんの特徴をお伝えし、患者さんのBRCA1/2遺伝子に変異がある可能性があることを伝えます。そして、もし遺伝性であれば、まだがんになっていない血縁者に対して、注意を喚起する必要があることを説明します。さらに、遺伝性の腫瘍について、遺伝する確率や乳がんや卵巣がんのリスク、乳がんや卵巣がんの検診や治療について説明します。その後、血縁の姉妹、娘、いとこ、姪などにも声を掛けてくださいとお願いしています。

――遺伝子検査を進める際、どんなことが問題なのでしょうか。

 遺伝子検査は保険外診療になるので、約20万円の経費を全額自己負担していただくことになります。高額な検査ですので、受けたくても受けられないという方がいらっしゃいます。現場として非常に悩ましいところです。

 また遺伝子検査については、「患者さんに逃れられない“烙印”を押すことになり、精神的な負担が大き過ぎるのではないか」と考える専門家もいます。しかし、私たちは、BRCA1/2遺伝子について、これだけ高いリスクが明らかになった今、これはもはや“知らないほうが幸せ”というレベルの話ではなく、将来的にがんを発症する可能性が高い方を積極的に拾い上げ、責任を持ってフォローしていくべきだと考えています。

――遺伝子検査を他の医療機関にも普及させるためには、何が重要だと考えていらっしゃいますか。

 遺伝カウンセリングの体制を整えることが極めて重要です。そして、そのためには遺伝カウンセラーの存在が欠かせないと思います。

 当センターで本格的に遺伝子検査を行うことができるようになったのは、遺伝カウンセラーが在籍するようになった昨年からです。2000年から遺伝性乳がんの外来を設けていましたが、乳腺科や婦人科の医師や看護師が“本業”の合間に行っていたため、割ける時間や労力が限られていました。また、専門的な知識やカウンセリングのノウハウも足りないと感じていました。

 患者さんの中には、病気や遺伝のことが分かるにつれ、リスクの高さに驚いて強い不安を訴える方が必ず出てきます。そういう方に対して、専門知識やカウンセリングのノウハウがある方が専属でいることがとても重要だと思います。また、これまでは、関連科の医師同士の連携がうまくいかないことがありましたが、カウンセラーが医師との橋渡しをすることで情報共有が非常にスムーズにできるようになりました。

 米国では、腫瘍の領域でも遺伝カウンセリングの体制が非常に整っています。ほぼすべてのがんセンターで遺伝に関する相談窓口があり、遺伝カウンセリングは遺伝カウンセラーが主体となって行っています。医師が遺伝性乳がんの疑いがある方をカウンセラーに紹介すると、その後のカウンセリングは遺伝カウンセラーがほぼすべて担います。

 一方、日本においては、遺伝カウンセリングは産科・小児科領域を中心に発展してきた経緯があり、これらの領域における遺伝カウンセリングの体制は比較的整っていますが、腫瘍の領域ではほとんど手付かずの状態です。医療機関に従事する遺伝カウンセラーの数はまだ少なく、特に腫瘍領域の遺伝カウンセリングが行われている病院でも、専属の遺伝カウンセラーがいるところは全国でもほとんどありません。重要性が社会的に認識されておらず、こうした相談業務に診療報酬が支払われないので、医療機関の経営的にも成り立ちにくい。そのため、ポストがなく、給与も驚くほど低いのが現状です。遺伝カウンセラーが活躍できる環境作りが必要であると強く感じます。

 さらに、遺伝情報に関する法的な整備も必要です。米国では、2008年に遺伝子の情報により保険の加入や就職などで差別を行うことを禁止する遺伝情報差別禁止法(GINA: Genetic Information Nondiscimination Act)が成立しました。日本ではまだこうしたテーマが話題にすら上らない状況です。遺伝子検査についての個人情報が守られることはもちろんのこと、検査の結果により患者さんやその御家族が不利益を被らないようにするための、社会的な整備行っていくべきだと思います。

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