このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2010/11/30

切らない乳がん治療「ラジオ波療法」に学会が“待った”

 「切らない乳がん治療」として、近年急速に注目を集めている「ラジオ波療法」。だが日本乳癌学会はこのほど、「研究的な治療に限定して行われるべき」という趣旨の通知を出し、広がり始めていたこの治療法の拡大に、事実上の歯止めをかけた。期待の新治療に、何が起きたのだろう?


図1 乳がんのラジオ波熱凝固療法は、電極針を腫瘍内に刺入して加熱する。

 乳がんの治療は、現在、外科手術が中心。だが乳房を切除する治療に対して、「できれば切りたくない」という心理が働くのは当然だろう。そこで、「切らない乳がん治療」として近年、注目を集めているのがラジオ波熱凝固療法(ラジオ波療法)だ。
 ラジオ波療法は、がんの中に細い針状の電極を差し込んで電流(周波数480kHz程度のラジオ波電流)を流し、発生する熱でがんを焼く治療法(図1)。通常15分程度で終わる。手術が不要で傷も残らず、体への負担が比較的少ないのが特徴だ。

 この治療がまず普及したのが、肝細胞がん。2004年に保険適用が認められ、今ではスタンダードな治療法の1つに数えられている。肝細胞がん以外への応用も有望視され、肺がん、乳がん、腎臓がんなどで研究が進められている。

 特に「切らない治療」への期待が強いのが乳がん。そこで数年前から、大学などが臨床研究として実施する以外に、一般の医療機関でも、保険外の自由診療としてこの治療を行うところが出てきた。費用はだいたい30万〜35万円程度。

 だが最近になって、この治療を受けた後で再発したというケースが目立ってきたという。「再発患者がほかの医療機関に駆け込んでいるという報告が複数寄せられたため、学会としても看過できない」(東北大学教授で日本乳癌学会医療安全委員会委員長の大内憲明氏)との判断から、同学会は今年1〜2月にアンケートによる実態調査を実施した。

 831施設に調査票を発送したところ、547施設から回答があった(回答率66%)。この547施設のうち、「乳がんラジオ波療法を行っている」と回答したのは29施設、累積治療件数は1049件。うち9施設が「臨床研究以外」の目的で行っており、この9施設での治療件数は過半数の572件に及んでいた(詳細はこちら)。

 この状況を踏まえて同学会は、「(ラジオ波療法は)早期乳癌の標準治療とはいえないことから、臨床研究として実施されるべき治療法である」と学会員に通知。研究以外の目的では行わないよう要請した。通知に強制力はないものの、悪質なケースでは対応を検討するという。

安全に実施できる範囲がまだ未確定
 なぜこんな事態が起きたのだろう。乳がんのラジオ波療法の研究を精力的に行ってきた和歌山県立医科大学第一外科准教授の尾浦正二氏は、「“まだ研究段階”というのは要するに、この方法で安全に治療できる範囲が確定できていないという意味」と話す。


和歌山県立医科大学第一外科准教授の尾浦正二氏。
 「直径2cmぐらいまでの乳がんなら、おそらくラジオ波療法で大丈夫というのが、専門家の間のおおよその一致点だが、もっと狭めた方が良いという考えもある。だが実際には、3cmを超えるケースでもラジオ波療法を行っていた医療機関があったようだ」(尾浦氏)

 がんのサイズが大きいほど、熱が回り切らずにがん細胞が生き残る可能性が高まる。周囲に進展しているリスクもある。例えば、先に保険適用が認められている肝がんでは、病変が「3cm3個以内、あるいは5cm以内単発」を一般的適応としている。

 乳房は肝臓に比べて脂肪が多く、組織の性質が違うため、肝臓の適応がそのまま当てはまるわけではない。つまり、乳がんにおける安全ラインが確定しないうちに、一部の医療機関が“見切り発車”的に実施していたことになる。

 医師の技量の問題を指摘する専門家もいる。「ラジオ波療法は単純な治療法に見えるけれど、実は意外と難しい技術」と話すのは、岡山大学放射線医学教室教授の金澤右(すすむ)氏。同教室は10年近く前からラジオ波療法の臨床研究に取り組んでおり、肺がんや腎臓がんで豊富な経験を積んでいる。


岡山大学放射線医学教室教授の金澤右氏。
 ラジオ波療法は、超音波診断装置(エコー検査)でがんの陰影を確認しながら行うのが一般的なやり方。「電流を流すと、熱くなった部分がエコー画像上で白く変色し、がんの影が消える。それで『がんが焼けた』と思いがちだが、後でMRIなどで調べると、焼け残っていることも少なくない。完全に焼くには、画像上のがんの陰影より広い範囲を、十分に加熱する必要がある」(金澤氏)。そして範囲をどこまで広げるか、どの程度加熱するかなどの判断に、医師の技量や経験がものを言うというのだ。

 金澤氏は、乳がんの場合、“技量”が軽んじられかねない独特の事情があったと指摘する。「乳がんの治療経験が豊富な医師は、エコーでがんの影を見ながら針生検を行うのに慣れているので、ラジオ波の電極を刺すところまでは簡単にこなせる。だからかえって、ラジオ波療法そのものも簡単だと思い込みやすいのかもしれない。それが落とし穴だったのではないか」

 さらに、患者への再発リスクの説明にも問題があった可能性がある。ラジオ波療法で焼けた部分は、皮膚表面から触ると「しこり」として感じる。そのため、がんが再発したしこりであっても、ラジオ波療法のしこりと勘違いしかねない。

 それでも、治療後のフォローアップがしっかりできていれば、問題はここまで深刻にならなかっただろう。「治療後、MRIで定期的に検査していれば、万一再発があってもすぐに対応できる。再発に備える検査としてはMRIが一番効果的」と尾浦氏はいう。実施した医療機関が再発のリスクについてきちんと説明した上で、フォローアップをきめ細かく行っていれば、再発患者がほかの医療機関へ助けを求めるような事態は生じなかったはずだ。

 「この治療を受けた患者さんで、もしMRIの定期検査を受けていない人がいたら、検査を受けられる医療機関をすぐに受診してほしい」(尾浦氏)

 ただ、実際に自由診療でこの治療を行っていた医師に話を聞くと、この問題の責任の一端は、患者側の振る舞いにもあったのかもしれない。「がんが3cmぐらいのケースでは私もまず手術を薦めるが、患者さんの中には、インターネットなどでラジオ波療法の情報を見付けてきて、『絶対に手術は嫌だ』と言い張る人もいる。そういう人には、再発などのリスクを説明した上で、この治療をやってきた」(自由診療で乳がんラジオ波療法を行っていた医師)

 

 今は、がん治療に関する様々な情報が入手できる。それだけに、どの情報が信頼できるのかを、患者側も冷静に判断する必要があるだろう。

 尾浦氏も金澤氏も、ラジオ波療法の可能性は高く評価しており、「今回の件で、治療が確立されるプロセスが遅れる方が心配だ」(金澤氏)と話す。現実に、和歌山県立医大病院では現在、新規のラジオ波療法を停止。当面、これまでに治療を受けた患者さんのフォローだけを行う方針だという。「再発のケースが問題にされ始めた昨年から、新規治療を停止している。長期の安全性をきちんと確認してから再開するつもりだ」(尾浦氏)

 今後しばらくは、国立がん研究センター中央病院などの研究施設を中心に、臨床研究が進められることになる。

 安全性が大前提なのは当然だが、「切らない乳がん治療」への期待もまた大きい。多くの患者の期待に応えられる治療指針が、早く確立されることを望みたい。

(北村昌陽)

この記事を友達に伝える印刷用ページ