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レポート

2010/11/2

遺伝子検査と継続的な検診はセットで行うべき

 家族にがんになった人がいると、自分もがんになりやすい体質なのではないかと心配する人は少なくない。例えば、乳がんや卵巣がんでは、BRCA1とBRCA2という遺伝子に変異がある家系の人でリスクが高いことが明らかになっており、BRCA1/2遺伝子の検査を行う医療機関も増えている。遺伝性乳がんや遺伝子検査をどう考えればいいのだろうか。癌研有明病院(東京都江東区)遺伝子診療センター医長の新井正美氏に聞いた。



――がんになりやすい体質は遺伝するのでしょうか?

癌研有明病院遺伝子診療センター医長の新井正美氏。 家族ががんになったときに、遺伝的な要因を心配される方は多いです。実際に、一部の乳がん患者さんは、乳がんを発症しやすい遺伝子の変異を持っている可能性があることが明らかになっています。

 がんの原因には、環境要因と遺伝的要因があります。環境要因は、生活習慣や喫煙状況、感染などの影響。遺伝的要因はがんになりやすい遺伝子の変異を親から受け継いだことによる影響です。例えば、肝がんや子宮頸がんなどはウイルスの感染が発症に関与しています。一方、乳がんや大腸がんの一部では遺伝的要因の関与が指摘されています。

 日本では、だいたい18人に1人(約6%)が生涯に乳がんを発症します。海外のデータによると、母親が乳がんである場合に娘が乳がんになる相対リスクは2倍、母と姉妹が乳がんである場合の相対リスクは3.6倍です。乳がんの家族歴があることは、乳がんのリスク要因の一つであると考えられます。

――乳がんが多い家系の遺伝子についての研究は進んでいるのでしょうか?

 乳がんが多い家系についての研究から、BRCA1とBRCA2という遺伝子が、遺伝性乳がんの原因となる遺伝子であることが明らかになり、これらの遺伝子に変異がある人は、乳がんのリスクが非常に高いことが明らかになっています。また、この遺伝子に変異がある患者さんは、乳がんだけでなく卵巣がんのリスクも高くなることが分かっています。

 これまでに海外で発表された22本の報告をまとめた論文が2003年に出されたのですが、この報告によれば、BRCA1に変異がある人が70歳までに乳がんになる割合は65%、卵巣がんになる割合は39%。BRCA2に変異がある人では、乳がんになる割合は45%、卵巣がんの割合は11%でした。わが国ではBRCA2の変異を有する人の卵巣がんのリスクはもう少し低いと考えられるものの、その他は同程度の罹患リスクがあると考えられています。

 BRCA1/2遺伝子に変異がある乳がん患者さんには、(1)30歳代や40歳代前半など、若年性で発症する、(2)がんが左右の乳房にできたり、乳房内に複数見付かる、(3)BRCA1に変異がある患者さんでは、エストロゲン受容体(ER)やHER2が陰性であることが多い――といった傾向が見られます。

 一般に日本人の乳がんにおける両側乳がんの割合は約5%といわれていますが、BRCA1変異の患者さんでは44%、BRCA2変異の患者さんでは28%と高い割合で両側乳がんを発症するとのデータがあります。そのほか、卵巣がんや卵管がんの発症が見られることがあります。

――日本人ではBRCA1/2遺伝子に変異がある人はどのくらいいるのでしょうか?

 BRCA1/2遺伝子の変異は、もともとはアシュケナージというユダヤ系の民族で頻度が高いことが知られていました。しかし、最近、日本人の乳がんもしくは卵巣がんの患者で第1度近親者(母親、娘、姉妹)や第2度近親者(祖母、叔母、姪)にも乳がんか卵巣がんを発症した人がいる患者さんを調べた結果が報告され、日本人でも米国と同じくらいの割合でBRCA1/2遺伝子の変異が見られることが明らかになりました。

 日本人全体で、どれくらいの割合で、BRCA1/2遺伝子の変異があるのかについては正確なデータはありませんが、小規模な研究結果で1%程度との推定もあります。ちなみにアシュケナージでは2.5%くらいの割合で変異保持者がいるといわれています。

 現在は日本でもBRCA1/2遺伝子の検査が実施可能になっています。しかし、この変異は次の世代に引き継がれる可能性があり、非常に重い意味を持つ検査です。内容を十分理解した上で検査を受けていただきたいと思います。

――遺伝子検査にはどんな意義があるのでしょうか?

 遺伝子検査の意義は、(1)自身の体質を知り、適切な医療介入を受けることで、生命予後を改善すること、(2)血縁者に情報を提供して、未発症の段階でその対策を立てることです。

 当院では、遺伝子検査で変異が確認された方には、継続的に検診を受けていただき、乳がんや卵巣がんを発症したときに、できるだけ早期に発見できるように努めています。さらに、患者さんに、姉妹や娘、姪など血縁関係がある方にもがん検診を勧めていただくこともあります。

 遺伝子検査と、その後の継続的な検診や生涯にわたる家族も含めたケアは、必ずセットで考える必要があり、対策のない遺伝子検査は行うべきではないと思います。当院では、遺伝子検査を受ける前に、「遺伝子検査で変異が確認された場合には、定期的に検査をします」ということを患者さんに説明しています。

――では、BRCA1/2遺伝子検査が陽性の場合、貴院ではどのような対策を取られているのでしょうか?

 定期的な検診が対策の中心になります。当院では、BRCA1/2遺伝子変異が陽性の方に、計画的なスケジュールで定期検診を行っています。

 例えば、乳がんの検診は、乳腺科で、視触診・自己触診指導を6カ月ごとに、マンモグラフィと超音波検査は6カ月ごとに交互に、それぞれ受けていただくよう勧めています。さらに、場合によっては乳房MRIも受けていただくこともあります。

 一方、卵巣がんの検診は、婦人科で、内診、経腟超音波検査、血液検査(血液中の腫瘍マーカーCA125の濃度測定)を3〜6カ月ごとに行い、場合によっては、骨盤MRIやPET検査も受けていただいています。

 さらに、欧米では、がんができる前に予防的に卵巣や乳房を切除する手術も行われています。

 乳がんは、検診により転移する前にがんを発見することが、ある程度可能であると考えられているため、現在、日本では予防的な切除は実施されていません。これに対して、卵巣がんは有効な検診の手段が確立されておらず、早期に発見するのが難しいことから、日本でも卵巣の予防的な切除を検討する方向になっています。海外からの複数の報告を解析した論文では、卵巣の予防的手術により、卵巣がんのリスクが80%、乳がんのリスクも50%程度下がることが示されています。

――BRCA1/2の検査はどこで受けることができるのでしょうか?

 日本でBRCA1/2遺伝子の検査を受託契約している医療機関は40くらいあるといわれています(※注1)。ただし、遺伝子検査の実施は、その後の継続的な検診や遺伝カウンセリングと必ずセットで行う必要があります。検査前後の遺伝カウンセリングの体制が整っている医療機関で、検査を受けることをお勧めします。

 大腸ポリポーシスという、大腸に数千個のポリープができる遺伝性の疾患があるのですが、1980年代は、この原因遺伝子に変異を持つ人はいずれは大腸がんになり、平均寿命は40歳前後という状況でした。

 しかし、今は術式の進歩と遺伝子検査により、変異がある人に対して大腸を予防的に切除することで、平均寿命と変わらないくらい長生きできるようになっています。このように、遺伝子検査の情報が既に実際の臨床に組み込まれて成果を上げているケースがあるのです。

 わが国における遺伝性乳がんの治療はまだ端緒についたばかりです。情報は有用な健康対策のツールです。情報があれば何らかの行動ができる。自分の体質を知って、何が最善の策か、医師と患者がともに選択していく時代になってきているのだと思います。

(聞き手:富田 文)

※1 編集部注:遺伝性乳がん・卵巣がんの遺伝子検査についての情報やBRCA1/2遺伝子の検査を受託契約している医療機関の詳細は、ファルコバイオシステムズの遺伝性乳がん・卵巣がんのサイト(http://www.familial-brca.jp/index.html)を参照

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