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レポート

2010/10/26

サイバーナイフで「切らないがん治療」の適応は広がるか?

 ロボット技術を応用した最新の放射線治療「サイバーナイフ」が注目を集めている。これまでは脳腫瘍など、主に頭部のがんに使われてきたが、照射の精度が高まり、今まで以上に幅広い部位のがんに対象が広がる可能性が出てきた。最先端の「切らないがん治療」は、どこまで広がるのだろう。




2010年10月5日に発売されたサイバーナイフの最新機種。6カ所の関節を持つアームが自在に動いて、さまざまな角度からX線ビームを照射する(ベット上の患者は人形)。価格は6億円程度。
 サイバーナイフの装置は巨大だ。工業用ロボットのようなアームの先端にX線照射ヘッドが付いている。このヘッドがコンピューター制御で自在に動き、さまざまな角度から、がんがある体内の一点めがけてX線ビームを打ち出す。「多方向から少しずつ照射することで、がんにだけ放射線の効果を集中させるのが狙い」。埼玉医科大学国際医療センターでサイバーナイフ治療を行っている、放射線腫瘍科外来医長の塚本信宏氏はこう話す。

 体の組織は、X線ビームが当たるとダメージを受ける。がんを狙って照射されたビームは正常な組織を貫通していくが、ビームごとに照射角度をずらすため、正常組織へのダメージはビーム1本分だけだ。一方、すべてのビームが集まるがんには、大きなダメージが与えられる。体の奥にあるがんだけを破壊し、正常組織の損傷は少ない。副作用が出にくいのがメリットだ。もちろん手術は不要で、傷も残らない。


埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科外来医長の塚本信宏氏
 このように、多数の角度から放射線を当てて効果を集中させる治療を「定位放射線治療」という。これは従来から行われてきた放射線治療の手法だ。

 だが照射中に患者の体が動くと、ビームの狙いがずれて計算通りの効果が得られない。特に、呼吸によって内臓の位置が常に動いている体幹部(体の胴体部分)では、狙いを定めるのが難しい。そのため、これまで定位放射線治療は主に、動きが少ない頭部のがんを対象に行われてきた。

 しかし、体幹部にも照射できる装置がいくつか登場しており、今後は状況が変わっていくかもしれない。特にサイバーナイフの最新機種には、患者の呼吸リズムに同調させてヘッドを動かすプログラムが入っており、呼吸をしている胸やお腹でも、がんから照準を外さずに照射し続けられるからだ。「ビームを当てたくない骨などを外して照射することもできる。頭部以外のがんに対しても使える可能性が広がった」。塚本氏はこう期待を寄せる。

日本のがん治療は放射線治療が少ない
 米国でサイバーナイフが生まれたのは1994年。最初は頭部が中心だったが、照射精度が高まった2004年ころから頭部以外にも使われ始めた。海外では既に、肺がん、肝臓がん、乳がん、すい臓がん、前立腺がんなどに対して、かなりの治療実績があるという。装置を製造するアキュレイ社によれば、世界中で行われたサイバーナイフ治療のうち、08年には頭部以外に使われた治療件数が頭部の件数を上回っている。

 国内でも、08年に体幹部のサイバーナイフ治療が保険の対象として認められるなど、使用範囲が広がる環境は整ってきた。だが実際には、体幹部にはあまり使われていないという。国内でサイバーナイフを備える医療機関はまだ20カ所ほどだ。

 そもそも日本のがん治療は、欧米に比べて、放射線治療が少ない。欧米ではがん患者の6〜7割が放射線治療を受けるのに対して、日本では3割を切る(図1)。一方で、日本は手術を行う割合が欧米よりかなり高いといわれる。


国立がん研究センター中央病院放射線治療科科長の伊丹純氏
 これには歴史的な事情がある。日本人には昔から胃がんが多い。胃がんは手術しやすく、手術後の生存率がかなり高いので、「手術できる場合は手術をする」のが基本。この考え方が、がん治療全体に影響を与えてきたため、胃がん以外のがんでも、まず手術の可能性を探る傾向が強い。

 一方、欧米人はもともと皮膚がんが多い。これは放射線治療を行いやすいがんなので、結果として放射線を使った治療技術が発展し、ほかのがんにも積極的に使われてきた。

 ただ近年は日本でも、肺がんや乳がん、前立腺がんのような欧米型のがんが増えている。欧米での治療実績を踏まえて、「放射線治療に日が当たりつつある」(国立がん研究センター中央病院放射線治療科科長の伊丹純氏)。サイバーナイフは、そんな「切らないがん治療の範囲拡大」という流れを加速するカギを握っているのかもしれない。


日本アキュレイ社が設置した、サイバーナイフの医師向け操作トレーニング施設。東京駅の目と鼻の先にあるビルのウインドウ内でロボットアームが動くのを見ることができる。
 もっとも、これでがん治療の趨勢が一気に変わるとも考えにくい。例えば同じ肺がんでも、がん細胞の性質によって放射線の効き目に差があることが予想されるため、どんながんに有効なのかを確認するプロセスが必要になる。

 日本のがん治療研究の中心的存在である国立がん研究センター中央病院に、近くサイバーナイフの最新機種が導入される。この治療法の有効範囲を見極める臨床研究が進むはずだ。「(頭部以外では)まずは肺や骨に転移したがんなど、手術できないケースが対象。治療実績を積み重ねながら、どんながんに有効なのか見極めていくことになる」と伊丹氏は話す。今後の研究の行方に注目だ。

(北村 昌陽)

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